作家瀬戸内寂聴さんが11月11日、亡くなっていたことがわかった。99歳だった。朝日新聞デジタルが報じた。故人をしのび、最愛の秘書、瀬尾まなほさんとの対談を再掲する。※肩書や年齢等は当時。

*  *  * 
 作家の瀬戸内寂聴さんを支える66歳年下の秘書、瀬尾まなほさんが『寂聴先生、ありがとう。』を6月に出版。8年間寄り添ってきた寂聴さんへの思いを3年かけて執筆した。対談では、まなほさんが出した手紙に寂聴さんが返事を書かなかった理由が初めて明かされた。

まなほ(以下、ま):今月8日に結婚式を挙げました。私がバージンロードを歩いてチャペルの前まで行ったとき、先生が大きな声で「きれいだよー!」と叫んでくれたのがすごくうれしかったです。

寂聴(以下、寂):車椅子にも乗らず、杖もつかず、ちゃんと出席できました。華やかで和やかな式で、まなほは格別きれいでした。

ま:2、3年前までは、この場に先生が来られることを二人とも想像できなかったので、夢がかなったという思いです。「次は赤ちゃんだね」と言ってくれました。

寂:新郎も優しそうないい男。まなほのほうが威張ってると思いますから、尻に敷くんじゃないでしょうか(笑)。

ま:今回の本では、前作が出てから自分に起きたことを書いています。講演もするようになったり、テレビに出るようになったり、本を出してからガラッと変わりました。それと結婚のこと。

寂:もう31歳でしょ? 赤ちゃんを産むには、若いときほど楽なの。

ま:彼と出会ったとき「これだ!」というのはなかったんですけど、適齢期っていうのと、赤ちゃんが欲しいっていうのはずっとあったので、ちょうどいいタイミングで結婚したいと思える人に出会えたから、それはよかったです。

寂:お世話してくださる人が随分いらして、お見合いも何度もしてるんですよ。とてもいいお話ばかり来たんだけど、結婚っていうのは条件じゃなくて「好き」という気持ちでしょ。昔と違うからね。私たちが若いころは、お見合いしたらその人と結婚しなきゃいけない。でも今は、自由恋愛だから。

ま:彼を選んだ理由としては……私は押しに弱いので、自分から行けないんですよ。押されてっていうのもあるし、フィーリングです。話してて楽しい人がいい、というのが一番にあって、今の彼にはあてはまりました。

寂:彼のことは、決まってから紹介された。見せないのよ、私がまた反対すると思って。

ま:彼と先生は仕事でも会ってたんですけど、全くそういうふうに思ってなくて。

寂:そう、お相手とは思わなかったの。寂庵にはいろんな人が出入りするからね。どれだかわからなかったの。

ま:先生がおしゃべりだから私、言わなかったんです。「しゃべらないでください」とお願いすると、「言われたくなかったら寂庵辞めろ」とか言うんですよ!

寂:だって、私がおしゃべりってことは、天下みんな知ってるから。ここでしゃべったことは、明日にはもう全国に広まるね。

ま:彼のことはちゃんと大切にずっと持っていて、いざ、というときに言いました。それでも私は「言わないでね。言ったらだめ」って言ったのに、先生は言いまくってましたけどね(笑)。

寂:「これを言っちゃあね、まなほが怒るからね、内緒よ」って言うの。お相手はハンサムですよ。ああ、ハンサムだからこの人「うん」って言ったんだな、って思った。だけどね、外から見ただけでは中身はわからないっていじわる言ってやる。

ま:そう、それで「顔がいいから、たぶんすぐ女ができるよ」って……そんなことばっかり言われてます。でも、ブサイクだったら陰でボロクソ言ってると思う。イケメンお好きですもんね。

寂:だって見るだけでもいいじゃない? ご飯がおいしいよ。お相手はまなほのおかしいところを理解してるみたいなの。私がまなほといて笑うでしょ。その人も、まなほのおかしいところを笑うんだって。それなら大丈夫、と思って。

ま:あらためて彼が寂庵に挨拶に来たときに、「あ、あなただったの、よかった!」って言ってくれたんです。

寂:それはご挨拶で。あっはっは(笑)。

ま:こういうふうに、私にいじわる言うのが大好きなんですよ! 見てください、このうれしそうな顔。寂しいとか思わないんでしょう。

寂:ちっとも。二人で来たら、かえって今度はにぎやかになるんじゃないですか。

ま:結婚後も働かせてもらいます。今は京都で二人で暮らしてます。

寂:生きてる間に結婚式出られてよかったな、と思います。だって私はもう97歳よ。いつ死んでもおかしくない。

ま:週刊朝日と同じ年なんですって!

寂:いいねぇ、週刊朝日。このごろちょっと暇だとベッドで寝たいの。横になって読むには、重い本は読めない。だから週刊誌にとても詳しいんだよ、私! 端から端まで全部読むの。

ま:朝起きたらベッドから雑誌が落ちてますよね。読んでる途中に落ちたのかな。時々、表紙の俳優さんやジャニーズでも、先生が「あ、この子かわいいね」と思う人いますよね。

 この本には、先生からもらった手紙の返事も載せました。これまで何度も先生に手紙を書いてきたけど、ずっと返事はもらってなかった。それを、当時連載していた文芸誌「群像」の小説『死に支度』を通じてもらったんです。小説に登場するモナ(私)宛てで。

<私の所から早く巣立って、自分の中に眠っている可能性の種を育てて、鮮やかな大輪の花を咲かせなさい。死なない私はモナが九十二のお婆さんになっても、傍についていてあげます>

寂:まなほに宛てて書いたって一銭にもならない(笑)。

ま:たぶん本当にただ忙しくて、「せっかくだから、ここで手紙の返事を書こう。そしたらお金にもなるし、まなほも喜ぶし」とひらめいたんじゃないですかね(笑)。

寂:まなほは文才が初めからある。手紙が素直でね、とてもいいの。この人にこう書きなさい、なんて言ったことない。

ま:一度私が手紙を書いたときに先生の部屋をのぞいたら、「あんた本当優しいね」ってちょっと泣いてたことがあったんですよ。

寂:目がかゆかったんじゃない?

ま:そういうことしか言わないんだから〜。でも、それはすごく覚えています。先生は、「秘書も書く仕事もどっちもできないから、秘書を辞めて書く仕事に専念しなさい」って言ってくれたけど、先生を見てるから書くことだけで生きていける自信は全くないし、まして小説も書けない。どうしても書くことで生きていく覚悟ができない、ってこの本の中で書いたんです。

寂:でもね、初めての本が売れて、すごいお金が入ってきたの。借りたいぐらいよ。だからやっていけますよ。運もいいのね。1冊だけでこれだけ売れたってことはすごいことなの。おもしろくなかったら人は買いません。おもしろいから読んでくれたんですよね。

ま:先生は今日もわざと私にいやなこと言って、私が耳を引っ張ったら「そんなのクビだ」って。そんなやりとり、毎日ですよ。もう8年一緒にいます。

寂:8年って感じ、しないね!

ま:いつも2、3年って言われる(笑)。だけどこの本では、先生はかまわれすぎるのが嫌、基本一人が好き、とも書いています。

寂:そう、一人が好きなの。スタッフたちは午後5時に帰ってしまうから、夜は一人です。

ま:先生が「夜ぐらい一人にさせて」と言ったんです。周りの人から見たら、97歳を一人にするなんてけしからんって怒られるかもしれないんですけど、本人がそれを望んでいたら、私たちはむげにそれを断れない。一人で夜な夜な台所に来てお菓子食べて、お酒も飲んで、自由にしていますよ(笑)。

寂:ちょっとほっとするの。

>>【後編】「瀬戸内寂聴が明かす、寂庵のスタッフが“若返る”理由」へ続く

(構成/本誌・緒方 麦)

※週刊朝日  2019年7月5日号より再掲