興行収入140億円を突破した「ONE PIECE FILM RED」。そのヒロインは、「新時代」にふさわしい、しなやかなパワーを持っていた。AERA 2022年10月3日号より紹介する。

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 大ヒット中の映画「ONE PIECE FILM RED」で名塚佳織さん(37)が演じるのは、「誰もが幸せになる新時代」を夢見て、たぐいまれな歌声で世界を魅了するヒロインの「ウタ」。主人公ルフィの幼なじみであり、人気キャラクター・シャンクスの娘でもある劇場版のオリジナルキャラクターだ。

 名塚さんの、かわいらしさのなかに芯の強さとほのかな陰りが見え隠れする演技は、劇中歌を担当するAdoさんの抜群の歌唱力と相乗効果を発揮。観客の心を鷲づかみにしている。

■仕事も子どもも大好き

 名塚さんはウタを「とにかく純粋で真っ直ぐ。素直でパワフルでいろいろなことに興味を持っている女の子」と評する。

「原作者の尾田栄一郎先生が、ウタの人生がわかる年表を作ってくださったんです。映画の物語にたどり着くまでの間、ウタに起きたことや周囲にかけられた言葉、それに対してどう感じたのか、一気にイメージが広がりました。ウタの生い立ちは特異なものではあるんですが、登場人物のみんなと同じようなものを食べ、同じようなものを見ているはず。普通の人生とは違うけれど、私たちとかけ離れていない。そこが、ウタの魅力です」

 名塚さんが好きなウタのセリフは、幼い頃からルフィに言ってきた「出た! 負け惜しみィ〜」。つらいことや悲しいことがあっても、明るく乗り越え、人を信じる心を大切にするワンピースのヒロインらしく、人を和ませる笑顔で発する。

 そんなウタを演じる名塚さんも、周囲を明るく元気づけ、力を与える存在だ。じつは名塚さんはフリーランス。仕事のすべてを自分で管理している。それだけでなく、フィルムレッドのオーディションの頃は第2子を妊娠中だった。昨年11月末に出産し、映画の収録のときは産後3カ月目だった。

「スタッフのみなさんにも、事情を承知していただいた上でオーディションに参加しました。収録の時期を知って、今の自分なら3カ月あれば身体を戻せるし、いけるなと思ったんです」

 1人目の出産が安産だったことや、その頃から収録の合間に授乳をしていた経験が、名塚さんの自信につながったという。

「仕事も子どもも大好きなんです。両方あるのが、私にはバランスのいい状態。仕事をしているから子どもと向き合う時間をより貴重に感じることができるし、家族に胸を張れる作品にしたいと、仕事も頑張れます。フィルムレッドも娘と一緒に観に行きましたが、すごく喜んでくれてうれしかったです」

■空気感も声に込める

 子育てを通して声優としての幅も広がった。母親役はもちろん、子どもを持たない生き方にも目が向くように。周囲との関係も深まり、「子どもはほしいけれど仕事があるから、と迷っている仲間がいれば、助けてあげたいし、安心して子育てできるような環境になっていったらうれしい」と話す。

 名塚さんはこれからどんな声優に成長していきたいのだろう。

「ルフィ役の田中真弓さんやシャンクス役の池田秀一さんなどの先輩とご一緒して、感情を込めるだけでなく、どういう状況で誰に話しているのか、どれくらいの距離感なのか、空気感も声に込める演技が素晴らしいと思いました。私も、そんな微妙なニュアンスまでセリフに込められるようになりたいです」

(ライター・角田奈穂子)

※AERA 2022年10月3日号