松下洸平さんがホストを務めるAERAの対談連載「じゅうにんといろ」、8人目のゲストは俳優の新納慎也さんです。13年前に出会って以来、プライベートでも大の仲良しというお二人。貴重なエピソード盛りだくさんな楽しい時間が始まりました。2月27日号に掲載した対談の様子を紹介します。

松下 よろしくお願いします! 新納さんは、僕が20代の頃からお世話になってきた方です。

新納 いや、お世話はしてないけどね。

松下 今日は、変なことを言わないでっていう(笑)。

新納 あはは(笑)。

松下 初めてお会いした時、僕は22歳でした。

新納 赤坂ACTシアターの楽屋やったね。僕が三谷幸喜さん演出の舞台「TALK LIKE SINGING」に出た時だね。2009年から10年にかけての舞台だから、約13年前だ。

松下 そうですね。僕は歌手としてデビューしたのですが、ご縁があって初舞台を踏ませてもらってから、舞台やミュージカルをやりたいなと思っていた時期で。けれど、そんなすぐに仕事をいただけるわけもなく、どこかにチャンスが転がってないかなとやきもきしていた頃でした。ちょうどその時、若手俳優がいろんな人に会って取材をするというweb系の企画があり、伊礼彼方さんが担当されていたので、ひょこひょこ後ろをくっついていきました。

新納 そうそう。伊礼彼方が僕を取材に来る時に、洸平がくっついてきた。そんなこと普通ないからね。取材する人の友達がやってくるなんて(笑)。

松下 ないですね(笑)。

新納 しかも「洸平です! 洸平です!」と200万回くらい言ってた(笑)。その名前をめちゃくちゃインプットされたんだよね。「僕ミュージカルやりたいんです!」とも言ってたけど、それを一役者の僕に言われても「知らんがな」と(笑)。だって、そんな権限ないもん。「がんばってね」と軽く返すしかなかった。

松下 そうでした、覚えてます。

新納 自分の名前を連呼していた謎の若い男の子で、どうやらまだ俳優ではなさそうだ、というのが第一印象かな。

松下 はい。まさに、これから俳優としてやっていきたいというタイミングでしたね。第一線で活躍されている方にお会いできる貴重な機会だったので、とりあえず名前だけでも覚えてもらおうと思ってました。その後、11年のミュージカル「スリル・ミー」でご一緒することになるのですが、その前に1回だけご飯行ったのを覚えてますか?

新納 東日本大震災の時やね? 覚えてる。僕が出ていた舞台「ウェディング・シンガー」を観にきてくれて、その後、日比谷のお店で食事したね。3月11日から1週間も経っていなくて、まだ余震があった。

松下 そうです。本番中も揺れたんですよね。

新納 会場は約600人入るシアタークリエ。チケットはもちろん売れているけど、客席はまばらだった。それでも、「こんな時こそ劇場を開けなきゃいけない」という判断だった。そんな中、また「洸平です! 洸平です!」と言っている人が現れたわけです(笑)。

松下 そうでした。あの日、まだ危険な状態の中で本番をやられている姿を観させてもらい、感動しました。そして、3回目にお会いしたのが「スリル・ミー」のポスター撮影でした。

新納 そうそう。「スリル・ミー」は二人芝居で、僕は田代万里生と、洸平は柿澤勇人と組んでのダブルキャスト。僕らが先に撮影が終わって、メイク中だった若いチームをのぞきに行った。遠巻きに見て、スタッフさんに「どっちが松下洸平ですか? 僕、会ったことがあって、お久しぶりと言わなあかんねん」と聞いたことを覚えてる。

松下 ちょっと!(笑)。2回も会ってるのに。

新納 あはは(笑)。二人の区別がつかなくて。連呼してたから名前は覚えてたけどね。

松下 (笑)。新納さんと田代さんは先輩のペアで、お二人の芝居を見て学ぶ日々でした。演出の栗山民也さんは、たいてい新納さんたちに稽古をつけて、僕らの芝居は見ずに帰ってしまう。だから早くから稽古場に入って、新納さんたちの稽古をノートに必死でメモしていました。

新納 洸平とは当時、帰り道が一緒やったこともあって、よくご飯を食べに行ったな。

松下 そうでしたね。「スリル・ミー」では、僕は「私」役、新納さんは「彼」役だったので、それぞれ相手役の立場からお互いの芝居について話せました。

新納 そうだね。あまりに話し込み過ぎて、途中から、もしかしたら洸平とのほうがペアリングが合うんじゃないかなと思ったこともある。でも、その話を周囲にしたら、僕ら二人はわりとウェットな芝居をするタイプで、一方、それぞれの相手方はドライな芝居をする。ウェットとウェットが組むと、もう見てらんないと言われた(笑)。

松下 愛憎劇ですから、新納さんと僕が組むと、泣きながらやっちゃうんじゃないかなと。

新納 うん。100分で終わらなきゃいけないところが、たぶん120分かかる(笑)。

松下 あの頃から、芝居に対する考え方や、ミュージカルの世界や演劇について、いろいろ教えていただきました。

新納 教えたというか……。愚痴ってたくらいやけど(笑)。

松下 新納さん、お酒を飲まないじゃないですか。

新納 うん、僕こう見えて飲めないからね。

松下 ご飯食べて、喫茶店で珈琲飲みながら7、8時間延々としゃべるのがいつものパターン。仕事のこともプライベートのことも何でも話してきました。

新納 それが13年続いているわけか。早いもんだね。

〇にいろ・しんや
1975年生まれ、神戸市出身。舞台、映画、ドラマまで幅広く出演。2022年NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に阿野全成役で出演。ミュージカル「バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊」(東京・日生劇場ほか)に出演中

〇まつした・こうへい
1987年生まれ、東京都出身。1stアルバム「POINT TO POINT」、写真集『体温』発売中。2023年、エランドール賞新人賞受賞。8〜9月、こまつ座40周年(第2弾)第147回公演「闇に咲く花」に出演予定

(構成/編集部・古田真梨子)

※この対談の続きは下記に掲載しています。

第2回:AERA 3月6日号(2月27日発売)
第3回:AERA 3月13日号(3月6日発売)
第4回:AERA 3月20日号(3月13日発売)