「映画の主人公が自殺を図る場面がありましたが、LGBTの当事者が自殺について思い悩む第一ピークは小学校高学年から高校までと言われています」

 LGBTの若者を支援するNPO法人「ReBit(リビット)」代表・藥師実芳(みか)さん(27)は、会場を見渡しながら、こう語った。

 6月30日、早稲田大学構内でアイスランド映画「ハートストーン」の試写会が開催された。映画の舞台は北欧、東アイスランドの小さな漁村。閉鎖的なコミュニティーの中で、少年が親友の男の子に恋心を抱き、葛藤するさまを繊細に切り取った青春映画だ。

 閉鎖的な村のなかで、二人の少年がゲイだと噂になる場面について、藥師さんは、自らの体験をこう重ね合わせた。

「片方の少年が親友に、『普通にしてくれよ、そしたら元に戻れる』と語りかけるシーンがありますね。あれは、昔のぼくが自分に言い聞かせてきた言葉でした。普通であればこの社会で生きられる。普通でなければいけない、と。『普通』の呪縛に巻き取られ、絡め捕られていた自分を思い出しました」

 同映画は、ベルリン国際映画祭の最優秀LGBT映画に贈られるクィア獅子賞など多数の賞を獲得した注目作。完成度の高さもさることながら、日本で注目を集めたのは、上映後のトークイベントである。

 会場は早稲田大学構内。ゲストは冒頭の藥師さん。

 女性として生まれたが、心の性別は男性であるトランスジェンダーだ。

 壇上で藥師さんは、映画の感想を織り交ぜながら自身の体験やLGBTを取り巻く現状についてさまざまに語った。そして、もうひとつ存在感を示したのは、配給会社と協力して上映会とイベントを実現させた「GSセンター」だった。

 今年4月、早稲田大学は国内初となる「GSセンター」を設置した。「GS」とはジェンダー、セクシュアリティーの略。レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーを指す「LGBT」ら性的マイノリティーに悩む学生の相談への対応や学校生活に必要な支援、それに情報発信を目的とする組織だ。

 創設のきっかけは、2015年、早稲田大学の学生コンペだ。「Waseda Vision 150 Student Competition」で「日本初!LGBT学生センターを早稲田に!」と題した企画が総長賞を受賞。2年後の今年春にセンターが創設されたのだ。

 センターは、三神弘子同大教授センター長と学生生活課の職員2人、LGBTの知識を持つ専門職員2人と学生スタッフ5人で運営される。

 冒頭のトークイベントで司会進行を務めた大賀一樹さん(29)は、自身を男性とも女性とも認識していない、「Xジェンダー」。センターの専門職員として、運営をサポートしている。大賀さんが言う。

「LGBTなど性のあり方に悩む学生への支援が第一の目的です。センター開設から3カ月、相談件数は30件弱、利用者数は300を超えた。『健康診断があるが、たとえば男性として受診したくない。配慮をしてもらうために大学側にカミングアウトをして相談するべきか』、といった内容もありました。この場合は、本人が納得できる環境で受診できるよう、本人の了解を得たうえで学校側に交渉しました。必要があれば、学生相談室(カウンセリング)の紹介もしています」

 この部屋に足を運ぶことがカミングアウトにならないよう、センターの役割は、当事者の相談に限定していない。

「センターに来てくれた当事者が、カミングアウトしてくれても、しなくてもいい。重要なのは味方や理解者の輪を広げること」(大賀さん)

 LGBTの当事者はもちろん、問題に関心を持つ学生が自由にセンターを訪れることができる。理解や知識を広げてもらうために、発信基地としての性格を大切にしているのだ。

 大賀さん自身も長い間、自身の性に悩んできた。男性として生まれたが、幼少の頃から自分の性に違和感があった。

「僕自身、島根県という地方の閉鎖的な土地で育ちました。映画の舞台も小さな漁村で、閉鎖的な環境が偏見を助長する側面を描いていました。僕も、『オカマ』『ホモ』といった言葉で周囲に傷つけられた経験があります。18歳のときには自殺すら考えた。東京に出てきて、大学のLGBTのサークルに出会い、助けられた。人間の多様性を尊重してくれる環境に感謝しています」(大賀さん)

 早稲田大学は、性的マイノリティーの学生に対応するセンターをいち早く設置した。LGBTの学生が在籍する他の大学や学生からの問い合わせが、寄せられることもある。電通が2015年に行ったLGBTに関する調査では、成人約7万人のうち7.6%、つまり約13人に1人が該当すると答えたわけだ。もはや自分には関係のない世界の話ではないのだ。学外でも大賀さんに、「実は自分はLGBTなのだ」と声をかける人が増えたという。

「高齢の方から若い方まで、ごく普通の、という表現はおかしいですが外見からは判断できない方も多い。こんなにも数多い当事者がまだいるのだ、と改めて感じます」(大賀さん)

 いいことばかりではない。5月には、LGBTサークルと共同開催したイベント告知のポスターが破れ、侮蔑的な言葉が落書きされていたこともあった。「そんな(LGBT)こと、人に話すもんじゃない」と、言ってきた中高年の当事者もいた。

「それでも、LGBTへの理解や知識が広がることで、昔の自分のように、孤立から自殺を考える当事者がひとりでも減ってくれればと思います。日本の大学や企業に、情報発信や支援の輪が、はやく広がってほしい」(大賀さん)

(永井貴子)

※週刊朝日 オンライン限定記事