昭和の大スター石原裕次郎さんが、この世を去ったのは30年前の7月17日。タフガイと呼ばれたた銀幕のスターも、舌がん、解離性大動脈瘤、そして死因となった肝細胞がんと病に苦しめられた人生でもあった。肝臓がんの治療は当時から飛躍的進化をみせ、手術に加え、放射線治療も選択枝となってきている。週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2017』から読み解く。

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 肝臓がんの原因はB型肝炎、C型肝炎などのウイルス感染がほとんどだ。しかし、脂肪肝などウイルス以外が原因となるケースも近年は増えている。がんの初期症状はほとんどなく、検診で見つかることも多い。

 肝臓で発生した「原発性肝がん」の9割以上を占めるのが、肝臓の細胞が悪性化する肝細胞がんだ。がん研有明病院消化器外科肝胆膵外科部長の齋浦明夫医師は次のように話す。「病変が肝臓内にある肝細胞がんには、手術、ラジオ波焼灼術、肝動脈塞栓療法という根治可能な3大治療があります」
 
 治療方法はがんの大きさや数、場所で変わってくる。3個以内ならば基本的に「切除手術」か、がん細胞を電極針で直接焼く「ラジオ波焼灼術」。4個以上には肝動脈塞栓療法が選択される。これは肝動脈にカテーテルを入れ、がん細胞に栄養を運ぶ血管を人工的に塞いだり、抗がん剤を注入したりする治療だ。

「塞栓療法で栄養補給経路を断つことで、複数個のがんを一網打尽にできます。ラジオ波焼灼術は大きな腫瘍だと焼き残しも出ますが、3センチ未満の成績は手術とほぼ同等です。体への負担が少なく、高齢者や肝硬変の人に適しています」(齋浦医師

■放射線技術が進歩 局所制御率は9割以上

 通常がんの3大治療といえば手術、抗がん剤治療、放射線治療だが、肝臓がんの場合、手術、ラジオ波焼灼術、肝動脈塞栓療法だ。放射線治療が含まれていない。
 
 筑波大学病院陽子線治療センター部長の櫻井英幸医師が解説する。

「肝臓は放射線感受性が高い。つまりダメージも受けやすい臓器です。治療に必要な線量を照射すると正常な組織が傷ついてしまうため、肝臓がんでは放射線は根治的な治療でなく、症状緩和の場面などで使われてきました」

 肝臓内のがんは呼吸とともに動くため、ピンポイントで照射することは難しかった。しかし近年、大幅に改善された。

「エックス線治療機器の進歩は目覚ましいものがあります。息を吐き終えたタイミングを待ち伏せして照射する技術や、ターゲットを追尾して照射することも可能になりました。またエックス線を集めてピンポイントで照射する定位照射の技術によって、必要な線量を無駄なく腫瘍にあてることができるようになりました」(櫻井医師)
 
 現在は、5センチまでの比較的小型で、少数の肝細胞がんならば保険適用となる。通常、治療は4〜5回通院し、照射を行う。放射線治療後にがんが再発しない割合(局所制御率)は9割を超える。ラジオ波焼灼術が行えない、血管や肺に近い病変がよい適応とされている。

「定位照射のメリットは無痛なことです。高齢者や糖尿病などの持病がある人は、体の負担が少ない放射線治療も選択肢に組み入れて考えてほしい」(同)

 定位照射が大型や多数個のがんに適さない理由はエックス線の特性にある。エックス線は病変に照射された後、通過していく。少数、小型ならば影響も少ないが、照射範囲が大きくなれば正常組織に抜けていく放射線も多くなる。その弱点を克服するのが陽子線や重粒子線だ。

「陽子線・重粒子線はターゲットの病巣に最も強い線量があたり、そこで止まります。病巣奥の線量はゼロ。がん周囲の正常組織の被曝が避けられるのです。定位照射ではエックス線の通過を考慮し、照射線量を抑えますが、陽子線・重粒子線では線量を十分にかけることができます」(同)
 
 陽子線・重粒子線でもがんの個数は三つまでと制限がある。しかし、大きさは基本的に無制限。肝臓の片側いっぱいに広がっているようなケースにも対応可能だ。(文/山崎正巳)