24日、日本で初めて「テレワーク・デイ」が実施された。この日は、始業から10時半までの間、出勤せずにどこで業務を行ってもいいというもの。官公庁に加え、NEC、小田急電鉄、静岡市役所、清水建設、セコム、高島屋、トヨタ自動車、博報堂、パナソニック、みずほフィナンシャルグループなど900社超の民間企業が参加した。果たして、この1日が日本人の働き方を変える第一歩となるのか。日本マイクロソフト、デル、フィットビットなど外資系企業のマーケッターとして活躍し、『クリエイティブ思考の邪魔リスト』の著者でもあるネタトモ日本代表の瀬戸和信氏に、テレワーク・デイが実施された背景、日本の現状と課題について寄稿してもらった。

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 いま日本では、働き方そのものの改革が求められています。少子高齢化が進み、子育てがしづらい環境、高齢者の介護など家族の負担も大きく、時に仕事を辞める決断を迫られる場合もあります。それらが、労働力減少の一因となっていることが指摘されています。

 安倍政権の成長戦略の1つとして、「男女が共に仕事と子育てなどを両立できる環境の整備」を目的としたテレワークが推進されています。テレワークとは、英語のTele(離れたところで)、Work(働く)を組み合わせた造語で、テクノロジーを活用して、時間や場所を問わずに働くことを可能し、限られた時間で成果を出す新しい働き方の総称です。

 この新しい働き方は、社内のリアルなコミュニケーションが不足するのではないか、情報漏洩への懸念や勤怠管理をどのように行うのか、さらには、テレワークに必要なテクノロジー投資負担が大きく中小企業が導入しづらいなど、いくつかの課題も指摘されています。そのせいか、実際日本のテレワーク導入企業は全体の1割強(アメリカでは9割近く)です。

 これらの解決がそれほど容易でないとしても、私はテクノロジーを活用し、環境に応じた働き方の選択ができるテレワークこそが、労働力減少を食い止める突破口だと考えています。

 テレワーク導入のカンフル剤として、7月24日に「働く、を変える日(テレワーク・デイ)」と題して全国でテレワークが初の試みとして実施されました。

 この活動は、総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、内閣官房、内閣府が東京都及び経済界と連携して展開した国民運動です。2020年東京オリンピックの開会式が行われる7月24日を「テレワーク・デイ」と位置づけ、交通機関や道路が混雑する始業から10時半までの間、事前に参加表明をした団体が一斉にテレワークを実施するという国民運動です。

■日本の生産性は26年間改善されていない

 テレワークが注目される理由について、重要なことを抑えておきましょう。すでに現在、実直に長時間労働をしているだけでは、世界の競争に取り残されてしまうと私は考えています。

 日本人がいま真摯に受け止めるべき事実は、日本よりも格段に休暇の取得率が高く、労働時間が少ない欧米諸国の多くが、日本よりも1人当たりのGDPが高いという事実です。欧米諸国と日本を比較したデータがあります(図表)。これはPPT(購買力平価)で算出したもので、物価の違いなどが調整されています。

 これを見ると、日本は30位で決して効率のいい国とは言えません。アメリカ(13位)はもちろん、同じアジア地域のシンガポール(4位)、香港(12位)にも遠く及びません。欧州においては、7月の後半から、8月のほとんどをバカンスに費やすフランス(28位)よりも生産性が低いのです。そして参照先のIMF(国際通貨基金)のデータを過去に遡っていくと、残念ながら日本は1990年から26年間、ランキングが下がり続けているのです。

 一般的に、日本の生産性が低い理由は残業、長時間の会議、規則の多さだと言われています。特に残業や長時間労働はコストの問題を生じさせるだけではなく、生産性も悪化させます。つまり、働けど働けど結果が出ないという厳しい状況が、26年間改善しないまま放置されているのです。これは、危機的な状況と言っても過言ではないと私は考えています。

■古い日本の企業の考え方をアップデート

 日本の最大の強みは経済です。しかし、労働人口が減少する中で規模の拡大を追求するやり方には限界が見えています。今後日本に問われるのは、量より質です。つまり、単なるGDPよりも、1人当たりのGDPを上げていくことが大事なのです。私は、テレワークによって、業務への集中力が高まると考えています。

 私がこれまで働いてきた外資系企業の同僚たちを見ていて、また私自身の体験として、ずっと同じ場所に座って仕事をすることが、今、世界中でビジネスパーソンに最も必要なスキルの一つといわれているクリエイティブ思考を、いかに削いでしまうかを実感しているからです。テレワークが広がれば、クリエイティブ思考を使う業務の生産性は向上するはずです(クリエイティブ思考は、必ずしもモノづくりやデザインなどの世界だけのものではありません)。

 さらに、会社への出勤が難しいために仕事を辞めざるを得なかった人たちが業務を行うことが可能になるので、労働人口減少を食い止める一助にもなるでしょう。

 とはいえ、現場の意見を聞いていると、安易に取り入れることには危機感も感じます。例えば、ある会社の従業員はテレワーク制度を利用して、どこで働いても構わないということになっています。しかし、会社側が監督業務を優先するあまり、9時から5時以外の時間にはパソコンにログインすることを一切禁じています。これでは、その時間以外にしか働けない人には機能しない中途半端な制度になってしまいます。

 テレワーク=自由裁量と考えた場合、時間を基本とした監督業務を思い切って排除する意思決定が必要です。でなければ、テレワーク制度を導入しても、結局は中途半端に終わります。テレワークを支えるテクノロジーは確かに存在します。しかし、まずは、このような古い日本の企業の考え方をアップデートする必要があると私は思います。(寄稿/瀬戸和信)