もう閉経したから、もう還暦を超えたから、と女性がセックスと縁を切る時代は終わったようだ。夫と再び愛を深める、あるいは新しいパートナーと愛を深めるため、年齢による体の変化を乗り越える施術にトライする人が増えているのだ。

「あっ、痛い痛い痛い〜!!」。竹下もとこさん(仮名・51歳)は思わず声をあげてしまった。実に10年ぶりの、夫とのセックス。25歳、27歳で長男、次男を出産したあと、30〜40代は夫とセックスをすることはほとんどなかった。

「私のまわりのママ友たちはみんなそんな感じですよ。30〜40代は子育てに追われ、親の介護に追われ、で夜はクタクタ。クタクタにもかかわらず、夫から何時に駅に着くとメールが入れば車で迎えに行って、食事を出して。そんな毎日でしたから、夫のほうもベッドに入ってから体を求めてくることもありませんでしたし、私も疲れていてめんどうくさいから、別にいいかなあと思っていたんですけれど」

 子供たちも巣立ち、夫と2人で過ごす時間が増えてきた。新婚のときとは違う、穏やかな愛情を互いに感じる日々。そこで夫からの要望に応えようとしたのだが、

「何事が起きたのかと思うくらい痛くて、夫の性器を私の性器に入れることができなかったんです。よく出産の痛みを『スイカを鼻の穴から出すくらい痛い』とか言うじゃないですか。その逆です。私の性器にむりやりスイカを入れるくらいの痛みだったわ」

 青山祥子さん(仮名・62歳)は、友人の紹介で知り合った68歳の男性とつきあっている。青山さんの悩みも実は、男性とのセックスのときに強烈な痛みを感じることだ。

「私、52のときに閉経しました。閉経したらもう性欲なんてなくなるってよく言うけれど、私は全然そんなことなくて。60代になってからもそう。還暦過ぎてもセックスを求めるなんて、私、おかしいのかしらと悩みました。でも彼ができて、彼は私を求めてくれるから、セックスに応じていたんだけれど、やっぱり痛くて」

 女性ホルモンの低下は、閉経に向かって起こる。そして女性ホルモンの低下は、膣内のうるおいの低下や膣萎縮を引き起こす。

「膣内がそのように変化してくれば、セックスのときに“性交痛”が起きるのはあたりまえのことです」

 と、医療ジャーナリストの増田美加さん。女性の閉経年齢の中央値は50・5歳。閉経すると女性ホルモンはまたガクッと減り、膣内はますますかたくなる。

「そうするともっと性交痛はひどくなる。そこで痛みを改善するために、膣内にレーザーをあてて膣を若返らせる治療をする女性たちもいま増えているのです」

 東京・銀座にある美容婦人科・美容外科「なおえビューティークリニック」は、そんな女性たちの駆け込み寺だ。

 喜田直江院長はこう話す。

「最近は70代の女性も相談に来られます。10〜20年ぶりに性交渉をする。すると自分では30〜40代のころと同じようにセックスできると思っていたのに、痛くてできない、入らない。いったい私の体はどうなってしまったんだろうと、びっくりしてここに来られる方が非常に多いのです」

 膣には弾力をもたせることが大事だ。

「膣も肌と同じでコラーゲンが減って弾力がなくなってきています。ですから膣の壁全部にレーザーを照射してコラーゲンを増やしていくのです。レーザーを当てることで膣の壁が生まれ変わるんですね」(喜田院長)

 50〜60代の女性におすすめなのは、なんといっても炭酸ガスレーザーだ。

「膣内のうるおいというのは、膣内の毛細血管から出てくるんです。ですから炭酸ガスで血行をよくして、膣内のうるおいもアップさせるわけです」

 料金はかなり高額なのではないのか。同クリニックでは「エッジワン」という炭酸ガスレーザー施術の初回料金は10万円。2回目以降は8万円だという。

「1カ月ごとに2、3回照射し、その後は半年〜1年に1回くらいの割合で照射するといいです」

 レーザー治療を受けるほどではないにしても、どんな女性も膣のうるおい低下や萎縮は起きる。

 日本家族計画協会理事長の北村邦夫さんは言う。

「たとえ若いときから間をあけないでコンスタントにセックスをしていても、起こります。痛みを感じるようになったら性交時に膣内に潤滑ゼリーなどを塗って、うるおいを補給することも大事なことだと思いますよ」

 ほか、女性は膣萎縮のケアと同時に、骨盤底筋群(骨盤の底にある筋肉)を鍛えていくことも大事だと、前出の増田さんは言う。

「骨盤底筋群は骨盤の底でハンモックのように内臓を支えています。でもこの骨盤底筋群が出産や肥満や加齢でゆるんでくると、子宮や膀胱などが膣をめがけて落ちてくるのです。これを“臓器脱”といいます。臓器脱ももちろん健全なセックスの妨げになりますから、骨盤底筋群のトレーニングを女性は常に意識するようにしましょう。尿漏れの防止にもいいですから」

 前出の喜田院長は家でできるトレーニングとしては「ケーゲル体操」がいいとおすすめする。

「リラックスして、足を肩幅に広げて立ちます。そして5秒ほど息を吸いながら、膣を上げるように締めていきます。そのあと息を止めて、5秒ほど膣を締め続けます。で、5秒かけて息を吐きながら力を抜いていきます。これを数回繰り返すだけでもトレーニングになりますので、ぜひやってみてください」

 実は世の中の多くの女性たちが誤解していることがある。前出の北村さん曰く、

「女性ホルモンが減ってくると性欲はなくなると思っていらっしゃる方、多いですよね。でもそれは間違いです。女性にも男性ホルモンは分泌されています。そして性欲をつかさどっているのは、男性ホルモンなのです。閉経に向かって女性ホルモンが減ってくると相対的には男性ホルモンレベルが高くなり、性欲は強くなるのですよ。これは医学的に根拠のある話です」

 閉経後もセックスしたいと思う女性は決してアブノーマルではないのだ。

「ただ自分の年齢なりのセックスを考えたほうがいいと思います。セックスのときは過呼吸にもなりますし、心悸亢進(動悸)も激しくなるでしょう。1分間の脈拍数は、100はあたりまえのように超えます。これは高血圧や糖尿病などの生活習慣病をわずらっている人などにとっては危険きわまりないことです。“死ぬまでセックス”というフレーズを聞いたことがありますけれど、“死んだら、できないよ”だと私は思います」(北村さん)

 増田さんも、男性の性器を挿入することだけがセックスではないと語る。

「一緒にお風呂に入るとか、抱き合って眠るとか、自分たちが“2人でいられる幸せを感じられること”をそれぞれのカップルが選んでいけばいいのではないでしょうか」

 そう、いくつになっても“女であること”は男性器の挿入にいつまでも応じられることと決して同義ではない。

「年齢や体調をふまえて、いろいろな形のセックスがあっていいと思います。高齢になれば、特にです。見つめ合うこともキスをすることもセックスと、もっと広義に考えてもいいのかもしれません」(北村さん)

 何を選ぶのかは、女性次第だ。(空見田琴加)

※週刊朝日  2017年8月4日号