7月24日に日本で初めて実施され話題となった「テレワーク・デイ」。始業から10時半までの間、出勤せずにどこで業務を行うという試みだ。果たして、この1日が日本人の働き方を変える第一歩となるのか。日本マイクロソフト、デル、フィットビットなど外資系企業のマーケッターとして活躍し、『クリエイティブ思考の邪魔リスト』の著者でもあるネタトモ日本代表の瀬戸和信氏に、既に実証されているテレワークの効果や日本においてテレワークが導入されにくい理由について寄稿してもらった。

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 私が以前に勤めていた日本マイクロソフトでは、いち早くテレワークが導入されました。2011年2月の品川への本社オフィス集約移転を皮切りに「ワークスタイル変革」と題して、テレワークを導入し、働き方そのものを改革させてきました。

 本社移転をした前年である2010年の調査と現状を比較すると、例えば、事業生産性は26%向上、旅費・交通費は20%削減、ワーク・ライフ・バランスの満足度は40%向上、女性の離職率は40%減少など、様々な面で効果が出ていることが分かります(参照元:日経ビジネスONLINE/働き方進化論/社員がもっと活躍できる場の提供へ。マイクロソフトが挑む新しい働き方改革)。しかし、これはあくまで日本マイクロソフトという一企業の過去5年間という長期間に及ぶ取り組みを行った成果です。テレワークによる具体的な改革は、企業ごとに違い、決して一律に効果が実感できているわけではないはずです。

 意識的・文化的な面からアメリカの9割近くの企業がテレワークを導入しているのに対して、日本の企業ではまだ1割強にとどまっています。なぜ、企業はテレワークにコミットしづらいのか。その理由の一つが、生産性を見える化できないことです。現実的に、個人の生産性が向上したかどうかを検証することはとても難しいのです。私が知る限り、ほぼすべての企業がアンケートによる自己申告による分析です。これでは、感覚的な分析に近く、導入を検討している企業の意思決定者の背中を押してくれる決定打にはなりえないでしょう。

 しかし、この「見える化」に成功している調査があります。図表は、テレワークを実行するに当たり、仕事をする(カフェ、自宅、オフィスなどの)環境条件によって、生産性に違いがあるのかを検証した結果です。イノベーション創出と世界の人々のより豊かな生活と仕事の実現に取り組んでいるアクセンチュアにより、ホワイトカラー5名の被験者で朝、昼、夜の3時間帯、カフェ、自宅、オフィスの3カ所の組み合わせで、1時間単位での集中力と仕事環境(温度、湿度、CO2、騒音)を計測したものです。このデータを見ると、実は生産性は、仕事環境の選択という意味で、ある程度自分でコントロールできるということがわかります。

 この検証結果では、仕事をしている気象環境、中でも気温、CO2濃度が低いと、集中して仕事に専念できる傾向にあることがわかりました。それぞれグラフの黄色い丸がオフィス、水色が自宅、赤がカフェです。オフィスは他と比べると集中力は低いものの、変動が少なく安定して集中力を発揮しています。次に、自宅は集中力の変動は大きいものの、平均するとオフィスに比べて高い集中力を発揮しています。そしてカフェは他の2つと比べ、気温、CO2濃度が低いため、高く、かつ安定した集中力を発揮しています。つまり、この3カ所で比較するとカフェが最も仕事に集中できるということがわかるのです。

■仕事に集中することに適した環境を創る

「あなたが本当に仕事に集中できる場所は、どこだと思いますか?」という質問を周囲の人に投げかけてみてください。オフィスと答える人は少ないのではないでしょうか。しかし、日本の企業の9割近くがテレワークを導入していない、つまり(職種にもよりますが)オフィスで仕事をすることを基本としているため、自分のデスクを離れて仕事をするわけにいかない人が多いのが実態だと思います。

 日本マイクロソフトでは、本当に膝を突き合わせて行う必要がある会議は除き、会議のほとんどがオフィス以外からオンラインシステム(スカイプ)で行われます。例えば、朝は通勤混雑を避けて自宅から、お客様との約束の合間にカフェ、空港のラウンジなどから、人によっては子どもたちの食事を作りながら会議に参加した人もいました。つまり、テクノロジーを活用して、時間や場所を問わずに働くことで、限られた時間で成果を出す働き方を実現できているのです。

 これまで私たちは、9時から5時まで会社にいるという働き方が当たり前の社会で生きてきました。日本の企業で役職についている世代の人たちの中には、部下が自分のデスクに座ってパソコンに向かっている姿や、長時間の社内会議に部下が出席する姿を見て安心し、そういう部下を評価するという傾向がまだまだ強いのではないかと思います。そのため、若い社員たちも、その考え方に応えるべく、オフィスに張り付くことになります。

 しかし、日本の企業も、そろそろ他の選択肢があるということに気付くべきです。なぜなら、会社では、様々な「邪魔」が入るために仕事に集中できない可能性が高いからです。会社に1日いるということは、仕事の邪魔になるものに包囲されていることと同じです。部下をオフィスに縛り付けている方々に伝えたいのは、この「邪魔」を取り除くかどうかは、あなた次第だということです。

 とはいえ、急に明日から「会社にくるな!」とは言えないのが現実です。では、どうすればいいのでしょうか。実はこの検証結果から学び、改善できることがあります。それは、オフィスの環境管理です。例えば、肌がカサカサする、蒸し熱い、なんだか息苦しいというような従業員が感じている不快感は単なる気分の問題ではありません。環境管理ができていないから起きていることです。

 仕事に集中できる時間が増えれば、人は創造性が高まります。これは、業種にかかわらず、今、世界中でビジネスパーソンに最も必要なスキルの一つといわれているクリエイティブ思考を使う業務の生産性を向上させることにつながるのです。それには、それぞれの企業が生産性を見える化し、従業員が仕事に集中できる環境を意識的に選択することができる改革をすることが求められます。ちなみに僕はこの原稿を気温24度、CO2濃度600ppmという環境を維持しながら書いています。言うまでもなく、仕事に集中することに適した環境化で生産性を最大化できている(はず?)です。

 今回のテレワーク・デイ1日で何かをやった気になって満足するのではなく、参加した企業も、今回は参加しなかった企業も、「生産性の向上」というプラス思考で、従業員の働き方を変えることを考えてほしいと思います。