『暗い時代の人々』(亜紀書房)の著者である森 まゆみさんがAERAインタビューに答えた。

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<この本の中でわたしが書いたのは、最も精神の抑圧された、一九三〇年から四五年の「暗い時代」に、「精神の自由」を掲げて戦った人々のことである。時代でいうと大正デモクラシーの残照から、昭和の軍国主義に雪崩れていく時代ということになる>(まえがきより)

 斎藤隆夫、山川菊栄、山本宣治、竹久夢二、九津見房子、斎藤雷太郎、立野正一、古在由重、西村伊作。登場する9人は、戦争に向かう暗い時代のなかで、さまざまな立場から光明を点そうと時の権力に抗った抵抗者たちだ。タイトルはハンナ・アレントの作品から。ファシズムが吹き荒れるヨーロッパで「精神の自由」を守るために闘った人々を描いているところが通底する。

 特に森さんの思い入れが感じられたのが斎藤雷太郎である。彼は松竹の大部屋俳優で、撮影所のなかでのミニコミ発行を経て1936年には中井正一らと文化新聞「土曜日」を創刊、反ファシズムのメディアとして短期間だが京都を中心に多くの読者に支持された、まさに光明であった。

「声高に思想を主張するのではなく、大衆に届く言葉は何なのかと、生活のなかから語りかけるセンスと感性が感じられます。すごいのはちゃんと儲けていること。私も女性3人で『谷中・根津・千駄木』を25年やってきて、似ているところがあるなあって。実はかつて鶴見俊輔さんから『土曜日』のことを書いてみないかって言われて、ずっと気になっていたんですよ」

 この「土曜日」を支える重要な拠点が京都の喫茶店「フランソア」(今も健在)であり、店主が立野正一だった。カフェが議論や情報交換の場として、抵抗のサロンたりえたことの意味が浮き彫りになる。

 山川菊栄、山本宣治の描かれ方も力が入っている。山川は女性解放と社会主義運動の活動家であり理論家として時代を駆け抜け、戦後も女性の権利擁護に尽力する。一方の山本は社会運動家・国会議員として活躍するが治安維持法改悪に反対して右翼に刺殺される、まだ39歳であった。

「ここに登場する人たちは皆、忖度しない空気の読めない人ばかり。気がついたら最前列に押し出され、後ろに誰もいないみたいな。でも私はそういう人が好きだし、辛辣さや弱さも含め人間的な興味を抱かせてくれるんですね」

 暴虐の雲が光を覆う時代に9人が点した〈ちらちらゆれる、かすかな光〉は、今この現在をも照らし出している。(ライター・田沢竜次)

※AERA 2017年7月31日号