若者の伸びしろは未知数である。大学キャンパスでのよき指導者と学生の出会いは、化学反応を起こす。偏差値評価にとらわれない学生を「勝ち組」に押し上げる“奇跡”の大学を紹介する。



■エリートへの道 弁護士・公認会計士

「みなさんは通常の学年レベルを飛び越えて理解できている。自信を持って」

 講師の兼子裕弁護士の力強い声が教室に響くと、学生らは難解な法律学の論述をみるみる進めていった。

 武蔵野大法学部(東京都江東区)が昨年から主催する「法曹・士業プログラム」の一コマだ。毎週土曜日の講座は午前から夕方までびっしり。群馬県の実家から片道3時間半かけて聴講する1年の男子学生は「楽しい」と声を弾ませ、「卒業したら普通の会社員になるのかと思っていた」と語る3年の男子学生も「弁護士という目標ができた」と明るい表情だ。

 今秋、1期生である4年生の受講者のべ10人が慶応大、早稲田大、中央大といった難関法科大学院に合格。うち5人は授業料全額、半額免除の特待生枠だ。

 法学部は、慶応大教授を経て武蔵野大副学長兼法学部長に就任した池田眞朗氏の号令の下、2014年に新設され、法曹界を目指す学生のための冒頭プログラムは大学改革の一環だ。池田副学長は授業中、広い教室を歩き、学生にマイクを向ける。反応やノートの取り方がよい学生をプログラムに選抜する。受講料は無料。一定の成績を満たすと年間で最大20万円の奨学金を受けられる。

「人の能力はそう変わらない。それが私の持論です。『難関大学』にあって武蔵野大の学生に足りないのは、『ここまで頑張ろう』という要求水準の高さです。だから最初にほんの少し意識改革が必要だった」

 こう説明する池田副学長は、新学期の最初の授業で学生にこう呼びかける。

「君たちは、高校のときの自分を、ここで変えていいんだよ」

 西日本では大阪経済法科大の躍進が注目される。法、経済学部の昨年度の卒業生は547人と小規模だが、キャリアセンターの柳修一次長はこう話す。

「偏差値は40台で難関大学ではない。しかし、卒業生から大学院進学者数を引いた実就職率は85.7%。関西の同系統学部を有する私大では上位校に食い込む勢いです」

 目玉は公務員採用試験合格、法科大学院進学、公認会計士や税理士などの国家資格取得を目指す「Sコース」だ。1997年に開設されたこの講座からの法科大学院合格者はのべ179人。7人が司法試験を突破。同大で初の合格者は、検事から弁護士、政治家へと転身した濱田剛史・現高槻市長だ。このほか、この5年間で公認会計士7人、税理士の科目試験に25人が合格。公務員採用試験では、のべ206人の合格者を出した。

■高収入の道 憧れのパイロットへ

 エリート街道を歩むコースはまだある。東海大の工学部航空宇宙学科には、エアラインのパイロット養成課程がある。米国に1年半近く留学し、在学中に日米の操縦士免許取得も可能だ。これまでのべ239人が航空会社に採用された。工学部はJAXA(宇宙航空研究開発機構)と連携し、共同研究をした実績があり、5人がJAXAへの就職を実現させた。

 副学長でもある吉田一也工学部教授は、こう話す。

「偏差値こそ高い評価を受けておらず、悔しい思いをしている。しかし、特に工学部は航空、医療に精密機器などあらゆる分野で人材が輩出しています」

 半世紀近く続くのが、教員による「出張保護者面談」だ。全国はたまた海外まで出向くのだ。「よい教育を授けるためには、家庭の理解が得られなければいけません」(吉田教授)

■不況にも負けない警察官、消防官に

 公務員に強い大学として知られるのが今年、創立100周年を迎えた国士舘大。「国を思い、世のため、人のために尽くせる人材『国士』の養成」を建学の精神とする私塾「国士舘」が前身で、社会貢献度の高い警察官や消防官の採用試験で高い実績を誇る。

 2016年の警察官試験の合格者数は134人で全国2位、消防官85人は全国1位だ。「他校より特色のある講座や指導を誇るわけではないが、目標が明確な学生が入学するため、修練する環境があるのでは」(キャリア形成支援センター・大谷茂事務部長)

■濃厚な授業密度で手堅く1級建築士に

 合格率12%と狭き門である1級建築士の資格試験だが、国土交通省が公表する大学別の合格者数で毎年上位10校に入るのが工学院大(東京都新宿区など)だ。61人が合格した昨年は7位。

 出身者の顔ぶれは多様だ。ゼネコン準大手フジタの前社長・上田卓司氏や、東日本大震災で「段ボールシェルター」を考案した鈴木敏彦建築学部教授。生け花と建築デザインを組み合わせたパフォーマンスで活躍する華道家の辻雄貴氏もいる。

 西日本で安定した合格率を誇るのが大阪工大。合格者数は毎年上位に食い込む常連校で、工学部建築学科では毎年学年の3分の1程度が卒業後に試験を突破する。それだけに授業の密度は濃い。建築学科の寺地洋之学科長は力説する。

「特別な講座は設けていませんが、授業をきっちり受ければダブルスクールでなくても合格できます」

 設備も充実している。コンクリートを使った建物の耐火や強度実験を行う構造実験センターは西日本の私学で最大規模を誇る。20年ほど前から奈良県川上村と連携し、廃校となった小学校のリノベーションを手がけるなど「域学連携」の草分け的な大学でもある。

■高齢化社会支える社会福祉士合格No.1

「少子高齢化社会を見据え、1990年代から福祉系学部が増えました。仕事の忙しさや給料面で課題はありますが、高齢者や障害、児童といった幅広い分野で活躍できる国家資格が社会福祉士です」

 と話すのは、教育ジャーナリストの小林哲夫氏。

 過去29回の社会福祉士の国家試験のうち、現役合格者数日本一が28回で、今年も157人が合格と、圧倒的な結果を出すのが愛知県にある日本福祉大。1957年に日本初となる4年制の社会福祉学部を設立した老舗で、8学部10学科を擁する「ふくしの総合大学」だ。03年にホームレスが販売する「ビッグイシュー」日本版を創刊した水越洋子氏が卒業生の一人で、占師のゲッターズ飯田氏もその一人。人を幸せに導く点では福祉教育の実践か。

(本誌・永井貴子)

※週刊朝日 2017年12月8日号より抜粋