この年末、ののちゃんが暮らす山田家で家族会議が開かれた。テーマは相続。「自身の死後も家族が幸せでいられるよう、今からみんなで考えたい」という、父たかしの提案だった。高齢化社会の今、誰もが直面する相続問題。ぜひ、みなさんも一緒に考えてみませんか?

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 2017年12月末、たまのの市にある山田家。朝日新聞朝刊の連載漫画でおなじみだ。年越しまで残り数日だというのに、大掃除などはどこへやら。こたつでミカンを食べまくるののちゃん(小3)のそばで、兄のぼる(中2)は居眠りをしていた。祖母しげ(70)と母まつ子(40)はテレビ番組に爆笑しながら、おしゃべりざんまい。年末の慌ただしさとは無縁の山田家には、いつものように、まったりとした時間が流れていた。

 そこへ父たかし(40)が帰宅。居間に入るなり開口一番に出た提案に、誰もが驚いた。

たかし「今から家族会議を開く。相続について考えよう」

まつ子「相続ってなんや?」

 ののちゃんは、ぽかんとしながら「それって食べられるの?」。

のぼる「えっ、誰か死ぬの? お父さん、もしかして重い病気でも見つかったとか」

たかし「違うよ。お父さんは元気ですよ。ただ、さっき行った歯医者の待合室で週刊誌のAERAを読んだら、相続特集をやっていて、『相続は早めの準備が重要。年末年始に家族で話しあおう』って書いてあった。実は最近、会社の同僚がちょうど相続問題に巻き込まれてね。これが結構深刻で、もし自分だったら、と青ざめたよ……」

 同僚によると、こんなことがあったという。父親が急死し、その遺産を弟と半分ずつ相続することになった。母親はすでに他界。2世帯住宅の1階に1人で住む父親の面倒を、2階で暮らす同僚夫婦が見ていた。どこで何をやっているのか分からない弟は、父親や同僚と仲が悪かった。それでも父親の死を知ると、何十年かぶりに同僚の家にやってきて、「法律で認められた当然の権利だから」と言い、遺産の半分を求めてきた。

 父親に預貯金はほとんどなく、今も同僚夫婦が住む2世帯住宅とその土地が、遺産のほぼ全てだった。「自分たちが住んでいる家や土地を弟と分けるなんてできない」と、困った同僚は慌てて弁護士を探して相談したが、逆に弟の主張は法的に有効だと言われた。すったもんだの末、結局は土地と家を売ってできたお金を弟と分けることになった。

 同僚は「親の面倒も見ない弟が何の努力もせずに遺産だけを持っていき、親の介護までしてきた自分は、単に家と土地を失っただけの相続だった」と嘆いた。弁護士からは「早くから相続の準備をしていれば、手段はあったかもしれない」と言われたという。

のぼる「ひどい話だね。で、ほかの手段って?」

たかし「同僚が弁護士から言われたのは……」

 その弁護士によると、2世帯住宅でも一軒家でも、不動産にからむ相続紛争というのは、昔からよくある「古典的な悩み」なのだそうだ。家族関係が良ければ、最悪でも土地の値段が上がるまで待ってから売却し、より多くのお金を得た上で分割するという合意もできた。ただ、関係が悪いと、「今すぐに売ってお金を分割しろ」という話になり、その家に住んでいる人は困ってしまう。

 どうしても家を維持したいのならば、何らかの方法で相手に認められている相続分のお金をつくり、それを代償金として支払わないと問題は解決しない。

 そもそも、同僚の父親は、遺言を作り、その中で「不動産は長男である同僚に相続する」と書いておくべきだった。仲が悪くても弟は同僚と同様に父親の子どもだから、法律で財産の半分を相続する権利が認められている。その法律で決められた財産分割の割合は、遺言を書けば、変えることができるからだ。

 ただし、その場合でも、弟は、本来相続するはずだった財産(全体の半分)のさらに半分、すなわち4分の1だけは最低限、相続できることになっている。これが遺留分。ならば、その遺留分にあたる財産だけは遺言で弟に相続すると書いておけば、弟が争う法的根拠はなくなるはずだった。

 不仲な弟だからこそ、相続になればトラブルが起きるのは予測できたわけで、もっと何年も前から相続準備を始めるべきだった。遺留分にあたる金額を用意するため、日々お金をプールすることだってできた。正しい準備さえしていれば、不動産を手放すことなく、弟との相続問題を解決できた可能性はあったはずだと、同僚は弁護士に言われたのだという。

のぼる「う〜ん、複雑な問題だなぁ。でも、だからこそ、うちでも相続の準備を今から始めようと思ったんだね。そのための家族会議ってわけだ」

たかし「その通り。早くからの準備が大切なんだ。その準備の一環で、一緒に相続を考える家族会議は意味があると思う。備えですよ。備え」

しげ「なんや難しい話やな。たかしさんが死んだら、わたしも相続できるんかいな」

たかし「お母さんには、相続できません。もし僕がいま死んだら、相続できるのは配偶者のまつ子と、子どもの、のぼる、のの子だけ。誰がどれだけ相続できるのかは、法律で細かく決まっています。歯医者からの帰りに本屋でAERAを買ってきたから、読んでもらえれば、その辺も詳しく書いてありますよ」

のぼる「どれどれ。ん? いや、できるみたいだよ。そうAERAに書いてある。お父さんが『おばあちゃんに財産を残す』と遺言に書いておけば、お母さんと子ども以外でも財産を残せるみたい」

しげ「ほんまかいな。でも、たかしさんの遺産は、まつ子と子どもたちで分けたらええ。だいたい、遺書なんて縁起でもないわ」

のぼる「遺書じゃなくて、遺言。全然違うものみたいだよ」

たかし「遺言は法的に大きな力があるから、書いておいたほうがいいみたいですね」

まつ子「そやかて、お父さんの財産、なんもあらへんやろ。借金、引き継いでもなぁ」

たかし「相続を放棄する権利も認められているから、借金のような負の財産は放棄すればいい。それにオレにも財産はある。この家はオレが建てた! でも土地は、おばあさんの所有になっているなぁ」

しげ「わたしが死んだら、この土地は、大黒柱のたかしさんのものになるんやろ?」

たかし「いや、おばあさんの財産は、唯一の子どものまつ子が相続するから、まつ子の土地になるはずだよ」

まつ子「それも、おかあちゃんが遺言で、『たかしに土地を相続する』って書けば、ええんやろ? それで、私は文句ないで」

(編集部・山本大輔、江畠俊彦)

※AERA 2017年12月25日号より抜粋