ニャーーン、ニャーーン! 猫だって言いたいことがある。わかってほしいことがある。だから鳴くんだニャ。キミに話しかけてるんだニャ。猫語の最新研究を報告する。



 人の世界で日本語は「世界で一番むずかしい言語」とも言われる。一方、動物の世界で難易度が高いことで有名なのが「猫語」。その全容解明まで「100年はかかるでしょう」と言うのは、東京農業大学農学部バイオセラピー学科の太田光明教授だ。

「これまで何百人もの学生を見てきました。犬と会話らしきことができる学生は2人いましたがね。猫と会話できる学生には、ついぞ会ったことがないですね」

 猫の行動は個体差が大きいうえ、気まぐれ……いや、ナイーブなキャラクターも多く、正確な科学的データが取りにくいという。

 とはいえ、解明されている「言葉」もいくつか。まず、猫が発する「言葉」と言えそうな音は、大きく2種類。ミャー、ニャーなどの「鳴き声」と、ゴロゴロ、グルグルといった「喉鳴らし」に分けられる。

 ミャー、ニャーのほうは意外にも、ほとんどが人に向けて発せられる言葉。繁殖行動やケンカ以外で、猫同士がミャーとかニャーとか言いながら会話することはめったにないという。

「猫について100%正しいことは、昔ネズミ捕りの名人だったこと」

 太田教授がそう言うように、猫の行動の多くは、病気をまん延させるネズミを捕るという重要なミッションを与えられ、人に飼われるようになった時代の習性と大きなかかわりがある。

 猫同士が鳴き声で会話しないのも、その時代の名残。ネズミに自分たちの存在を気づかれないよう、猫同士の連絡は、猫だけが感じるにおいやボディーランゲージなどを使い、無音でおこなわれることがほとんどだ。ちなみに猫の肉球が、足音がほとんどしない高性能のクッションになっているのも、昔培った「忍びの術」のひとつらしい。

 前置きが長くなったが、ここから本題。じゃあ、ミャー、ニャーはいったいどんな意味?

「飼い主だけがわかる、その猫独自の言葉も多いが」と前置きして、太田教授が教えてくれたのは三つ。

 まず高めのトーンで、語尾をちょっと上げることもある大きな声の「ニャーーン」だ。これはだいたい、「おなかすいた、何かくれ」のメッセージだ。

 そういえば、いつもは話しかけても知らん顔の近所の外猫が、たまにうるさいくらい「ニャーーン、ニャーーン」と話しかけてくることがある。あれはさしずめ「顔見知りのよしみで、何かいただける?」という話だったのか。スルーしてました、すみません。

 もうひとつ、文字にすると同じ「ニャーーン」でも、あまりトーンが高くない「ニャーーン」。これは「遊んで」とか「かまって」という意思表示であることが多い。この猫語を聞き逃してしまう飼い主は少なくないとか。

「捕ったネズミを人に見せるなど、猫は遊びが大好き。これを言われたら、猫との絆を深めるためにも、必ず遊んであげることです」(太田教授)

 そして三つめ。「ミャ」「ニャ」などの短い鳴き声は、「はいよ」的な「返事」として出てくることが多いという。

 一方、喉を鳴らすゴロゴロ音のほうは、けっこうややこしい。「心地いい」ときに発するとか、逆に「ストレスを感じている」ときにも発するとか。太田教授は、カリフォルニア大学の研究に注目している。猫などが発するゴロゴロ音が、低周波治療器の代わりをしている可能性があるらしい。

 猫が喉を鳴らす際、20〜25ヘルツの比較的低周波の音が発せられていることがある。この低周波には、ネズミに噛み返されて生傷が絶えなかった猫たちが、自分で傷を治すために発するようになったというのだ。

「この低周波は近くにいる人にも伝わり、ある種の癒やし効果を与えると言われています」(同)

 飼い主がしょんぼり落ち込んでいるとき、猫がいつの間にか「近くで座っていた」とか、「膝の上に乗ってきた」という体験をする飼い主は多い。これは「人の心拍数などの変化を敏感に感じ、何が起きたのかチェックしにくる」(同)行為。そこでゴロゴロと喉を鳴らせば、傷ついた飼い主に低周波のプレゼントをしているのかも。ジーン。

 猫と仕事をする人にも猫語について聞いてみた。「ZOO動物プロ」は、ドラマ「猫侍」の玉之丞役を務める「あなご」さんや、「Y!mobile」のCMの「春馬」クンなど、多くの有名猫アイドルを擁する、いわば猫芸能界のジャニーズ。

 あなた、ほんとに猫なの?と問いたくなるほど芸達者なアイドル猫も多く、必ずや猫語がわかるスタッフがいると踏んだ。対応してくれたのは同プロのコーディネーター北村まゆみさんだ。

「犬は人が飼うもの、猫は人が飼われるもの」を合言葉に、人がシモベであることを意識して猫の気持ちを忖度するのが、彼らと「話す」コツだという。

「個体差はありますが、口を結んだままグーとうなるのは、怒り始めの合図。撮影中にその音が出たらすぐに飛んでいき、なでて落ち着いてもらいますね」

 尻尾にも“言葉”があるという。ユラユラさせているときは「ゴキゲン」、ピン!と立てているときには「これは何だろう?」と興味津々のサインのことが多い。

 人からの語りかけは、もちろん人の言葉で。ドラマなどの撮影が始まる前には、台本を一通り、タレント猫さんに読んで聞かせるのも北村さんの仕事だ。

「猫も信頼関係があれば、人の言葉を犬並みにわかります。仕事に慣れると、ちゃんと台本どおりに動いてくれるコも少なくないですね」

 太田教授も言う。

「猫との信頼関係のためには、何か話しかけられたら『ちょっと待っててね』など、言葉で応対してあげるのがいいですね」

 こうして英検ならぬ、猫検4級くらいの知識を蓄えたところで、知り合いの猫たちと会話を試みた。まずディクテーションから……と思ったが、みんな私に用がないらしく、いくら呼びかけてもミとも言わない。

 そこで秘密兵器。「人猫語翻訳機」なるスマホのアプリの登場だ。人の言葉を録音すると、すぐさま猫語に変えて、猫の声で発声してくれる(という触れ込みの)ジョークアプリ。「遊んで」と録音すると、「ミャウ、ミャウ、ミャアミャー」なる猫語が出た。それを聞かせたところ、一瞬顔を上げるものの、人からの要求に興味がないのか、はたまた翻訳がいい加減なのか、全員がすぐにスルー。

 続けて教授に教わった「ニャーーン」(遊んで、かまって)を口まねでスピーキングしてみた。

 顔さえ上げやしない猫も多いんですけど……。「ミャオニャオ、ミャーン、ニャ」(人猫語翻訳機で「フン」の意)

(福光恵)

※週刊朝日  2017年12月29日号