「売らなきゃ! 今月のノルマが達成できない」「この契約、成立させないと、今期の売上目標が……」。焦れば焦るほど、セールストークも空回り。

 人気DJの秀島史香さんは、職業柄、「うまい!」「やられた!」というトークにアンテナを張って、自身のトークの参考にしたり、ネタにしたりもしていると言います。秀島さんが20年間のDJ経験の中で培ったコミュニケーション術を明かした自著『いい空気を一瞬でつくる 誰とでも会話がはずむ42の法則』の中から、営業に使えるトーク術を紹介します。

*  *  *
 トークの中でも、一般的にあまり歓迎されない「セールストーク」。店員さんに話しかけられるのが苦手、という方も多いのではないでしょうか。ところが、普段は苦手だけど、なぜだかこの店員さんとは心地良く話せるということもあります。心地良い人と苦手に感じる人。どこが違うのでしょう。

 梅雨が明けきらないころのことです。友人たちととりとめもない世間話をしていたら、ひとりがこんなことを言い出しました。「このあいだ、キュウリを買いに行ったんだけど、気づいたらスイカを買ってたの」。たしかに同じウリ科ですけれども……。

 彼女いわく、そこは小さな八百屋さんで、店先に並べられた野菜を見ていたらお店のおかみさんに笑顔で話しかけられたのだそうです。「スイカどう? おいしいよ〜」と。初めは断ったといいます。「今日はキュウリを買いに来たので。スイカはまた今度にします」

「キュウリもいいけど、今出てるのはね、はしりのスイカ」
「へえ」(よそ見しながら)
「スイカは8月に食べるより、今食べるほうがおいしいのよ」
「へえー」(ちょっと興味が湧いてきた)
「今がいちばん甘いからね。カリウムも豊富で、むくみにも効くよお」
「へえー!」(身を乗り出す)

 そんなやりとりの後、彼女はキュウリをやめて、思わずスイカを買ってしまったそうです。「だってそこまで言われると食べてみたくなるじゃない!」と。


 この話を聞いて、「コミュニケーションの達人!」と思いました。友人がこの「セールストーク」に乗ったのは、中身が誰にでも言えることではなく、「八百屋のおかみさんだから言えること」「現場のプロとしての知識に裏打ちされたこと」だったから。もしこのおかみさんが、「安いよ、安いよー」といった紋切り型の呼び込みしかしていなかったら、友人はきっと心を動かされなかったでしょう。

 自分が持っていない専門知識に対して、「へえ!」と思う。その感動は人を動かします。

 一方で、あまりうれしくないセールストークがあるのも事実。よく引き合いに出される店員さんの応対は、こんな感じですよね。「私も同じものを持ってるんですよ」「すごく売れてるんですよ」。

 これらはあまりにもマニュアル的。誰にでも言えるし、そもそも「店員さんと一緒でうれしい」「売れているから」という価値観を押しつけられている気もします。

 セールストークも相手ありきですから、お客さんの好みに合わせたアドバイスができると喜ばれます。ちなみに八百屋のおかみさんは、スイカを買った彼女に帰り際、「今度来たときに、おいしかったかどうか教えてね」と言ったそうです。これもまた、うまいなあと思います。

 たとえセールストークでも、人間らしい一面がふわっとにじみ出る言葉が入ると、相手に「心地良く会話できたなあ」と感じてもらえます。そして、そんな瞬間にこそ気持ちが動きます。

 自分が持っている専門知識の中から相手が喜びそうなものを探す。相手にとって有益な情報はなんだろうかと考える。そんなところにまたひとつ、普段の会話のヒントが詰まっていました。ちなみに、例のスイカはたしかに甘くて、今ではすっかりおかみさんのファンになってしまった友人。今度、私をお店に連れて行ってくれるそうです。果たしてどんな言葉をかけてもらえるでしょうか。楽しみです。