作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。今回は、「夫婦別姓問題」について。

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 私の名字“北原”は母の旧姓で、いわゆる“本名”は渡邉だ。小学校の教室にワタナベが5人いたとき、「どうして、うちはワタナベなの?」と両親に聞いたことがある。父は「じゃんけんで決めようって言ったんだけど、ママがワタナベがいいって言ったから」と冗談っぽい調子で答えた。母になぜ、じゃんけんしなかったのか?と聞くと、母は「やーねー」と笑っていた。意味わからん。私は8歳で、生まれて初めて、母のことを軽蔑した。なぜ、じゃんけんもしないで、ワタナベになったの?

 いやー、ほんと、ごめん、母。私から、幼い私に説明してあげたい。結婚する女性の96%が夫の名字を名乗るのよ。それって強烈な圧なのよ。女が名字を変えたくないと言おうものなら、“合理的な”説明を求められ、相手の親に呆れられ、「変わり者か?」と警戒され、まぁ、大変よ。だからママもあまり考えないようにしたの、結婚したら名前を変えるのがフツーなのだから、と。それに、パパが本気でじゃんけんするつもりなどないこと、百も承知だったしね。

 世界広しといえども、結婚したら強制的に夫婦同姓になるのは日本だけ。それって婚姻の自由を定める憲法24条に反するよね、と選択的夫婦別姓を求める女性たちが最高裁まで闘ったのは2015年だった。結果的には負けたけれど、3人の女性裁判官全員が「(強制同姓は)違憲」と判断したことは、これが女性に(は)切実な問題であることを象徴していた。

 それに対し、これって女性差別というよりコストの問題でしょ?と企業家の青野慶久さんらが夫婦別姓訴訟を起こしたのは今年の1月だ。青野さん曰く、遊び心で妻の名字にしたら、株式の名義変更などでコストがかかって大変不便。民法は変えなくていいから、通称使用を法的に認めるよう戸籍法を変えましょう、という訴えだ。青野さんはインタビューで「夫婦別姓の問題は『フェミニズムの人たちが主張している』と思われて、またかと聞き流されてきたところがありました」と答えてる。まるで新しい戦いをしてるふうで、ちょっと感じ悪い。でも感じ悪いと思うけど、それが現実よね。女が差別を訴えたらスルーされるけど、男がコストを訴えれば耳を傾ける日本。だけど、本当にこの訴え、新しいの? 戸籍法を変えても民法の同姓強制は変わらず、結局「本名」「通称」というダブルネームを一方が強いられる。選択的別姓を求めた女性たちは、コストじゃなくて尊厳を問題にしていたことを思えば、人権の観点からはハッキリと後退した闘いなのでは?

 だから、というわけじゃないけれど、今、改めて民法の同姓強制を問う裁判がはじまろうとしている。国際人権条約にも、憲法の定める法の下の平等にも、そしてやはり24条にも違反しているという訴えだ。フェミフェミ言うから勝てないんだよ、とかいう空気のほうこそ、時代遅れでしょ。

※週刊朝日 2018年4月6日号