長寿化が進んだ今の日本では避けて通れない老老介護。介護する側(介護者)、介護される側(要介護者)の問題と解決策について、専門家のアドバイスを紹介しよう。



 最も大きな問題は、介護者の心と体の健康だ。高齢になるほど肉体的な介護はキツくなる。高齢者医療に詳しい、ふくろうクリニック等々力(東京都世田谷区)院長の山口潔さんは、「個人差はありますが、加齢に伴う身体機能の急激な低下は、だいたい75歳から始まる」と説明する。

 肉体的な加齢が進めば、若いときのように要介護者を移動させたり、ベッドから起こしたり、体を拭いたりといった身体介助ができなくなる。また無理をすることで骨折などのリスクにもつながる。しかも、以前のように、仮眠をとれば疲れが取れるということもなくなってくる。

 一方、精神的なダメージはもう少し早くから始まるという。

「多くの人が老いを感じ始めるのは、65歳を過ぎたあたりからです。自分の加齢を実感しつつ、同じように年をとって徐々に機能が低下していく要介護者をみていくのは、精神的につらいものです」(山口さん)

 もう一つの問題が、“もの忘れ”だ。75歳を過ぎたころから、認知症まではいかなくとも、加齢による認知機能や判断能力の低下が起こるという。

「介護をする上で一番難しいのは、介護保険制度を理解したり、ケアマネに要介護者の状態を伝えて話し合ったりといった、マネジメントの部分です。病院で医師に病状を説明するのも、高齢になるほど支障が出てきます。普段をよく知っている主治医や訪問看護師などの手助けを受けたほうがよいでしょう」(同)

 ひと昔前は介護は嫁や妻、娘など女性が担うケースが多かったが、近年は息子や夫など高齢男性が介護の担い手に。今回、取材した人たちの多くが、「定年退職後の高齢男性が親をみるようになった」と話す。

 離れて暮らす親のケアを考える会「パオッコ」を主宰する介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんによると、会に集まった遠距離介護を行う高齢男性の話を聞くと、「親に恩返しをしたい」と介護を始めるケースが多い。

「男性が介護に積極的に関わるようになったことは、喜ばしいことです。ただ、男性の場合、介護にのめり込みやすく、仕事に代わる“生きがい”となる傾向がある。うまくいっているときはいいですが、一人で抱え込みやすく、問題が生じたときにうつや介護虐待の引き金になることがあるので要注意です」(太田さん)

 介護していた人を看取った後に、「介護ロス」に陥りやすいとも。年齢が年齢なので、その後に立ち直ることができず、高齢者の虚弱であるフレイルなどが一気に進みやすいという。

 介護者の病気の治療が遅れるという問題も出てきている。汐田総合病院(横浜市鶴見区)副院長・総合ケアセンター長の宮澤由美さんは「介護者は、自分のことを後回しにしがち。それで病気の発見が遅れることがある」と注意を促す。

 例えば、国立がん研究センターがん情報サービスによると、がんの死亡率は男女とも60代から増加。脳卒中は東京都のデータを見ると、60代から発症頻度が高まっていることがわかる。つまり介護者も病気にかかるリスクが高いのだ。

 介護者にがんが見つかるケースは、決して珍しくなく、認知症などの発見も遅れがちだ。介護者が要介護者につきっきりになったことで、介護者の配偶者の病気の発見が遅れるというケースもあった。

「介護者の方と話すと、多くが『自分が病気になったら、誰が家族をみるのか』と心配されている。ですが、実際に自身の健康に気を付けているかというと、なかなか難しいようです。私たち医療者や介護スタッフも、どうしても要介護者を中心に考えてしまう」(宮澤さん)

 では、こうした問題を解決するにはどうしたらいいか。それは介護者が、心と時間の余裕を取り戻すことに尽きる。宮澤さんはこう助言する。

「まずは、レスパイトケアやショートステイをしっかり活用しましょう」

 レスパイトとは「一時中断」「一時預かり」の意味で、介護者の負担を軽減するため、要介護者を一時的に入院させたりショートステイを利用させたりする仕組み。病気の治療や安静だけでなく、冠婚葬祭などで自宅を留守にしなければならないときにも利用できる。

 施設に入所する場合は、要介護1以上の人は介護老人保健施設に、要介護3以上の人は特別養護老人ホームに、という縛りがあるが、一時預かりのショートステイであれば、要介護度は関係なく、預けることが可能だ(実際は、入所と同じレベルの人がショートステイをしている例が多い)。酸素吸入など、医療依存度の高い要介護者であれば、在宅療養支援病院や、在宅療養後方支援病院などに入院するという方法もある。

 ショートステイによるレスパイトケアを利用する場合はケアプランが必要なので、担当するケアマネなどに相談を。一方、入院の場合はケアマネや在宅医を通じて、病院の地域連携室やメディカル・ソーシャル・ワーカーに聞いてみるといいだろう。

「介護から離れたときは、運動をしたり、カフェでくつろいだり、人とつながる時間をつくったりして、気分転換を図ってほしい。運動はヨガや太極拳など、バランス感覚を養うものがお勧めです」(同)

「自助具(生活補助具)」の活用を勧めるのは、少子高齢化を研究する、ニッセイ基礎研究所社会研究部主任研究員の土堤内(どてうち)昭雄さん。自助具とは、運動機能が低下したり、障害があったりする人が日常生活の動作をスムーズに行えるよう工夫された器具や道具。介護する側の体力の消耗を防ぐことにもつながる。

「指に力が入らない人でも使える箸や、ドアノブや水道の蛇口を簡単に回すための器具など、さまざまなものがあります。介護で大事なのは介護度を進めないこと。要介護者がある程度自立できれば、介護者の負担も減ります。人によって合う自助具が違うので、ケアマネに相談するとよいでしょう」(土堤内さん)

 意外と知られていない、こんな対策もある。

「介護者自身が必要に応じて要介護認定をとることもお勧めしています」(宮澤さん)

 介護する側が要介護認定をとる最大のメリットは、利用できる介護保険サービスの幅が広がる点。基本的には介護保険サービスは申請した要介護者のためで、家族への支援には使えない。だが、介護者も要介護認定をとれば、それまで介護される側だけに使われていたサービスが介護者にも使えるようになる。介護する側も食事の用意や買い物、掃除、洗濯といった生活援助を受けることが可能だ。

 介護にはお金の問題も常につきまとう。長寿になるほど介護費用がかかり、貯金がショートするリスクもある。65歳からの介護保険サービスにも限界がある。土堤内さんが説明する。

「今の介護保険制度は、それだけですべての介護をまかなうようにできていません。介護の環境は一人ひとり異なります。状況に応じて、家族介護や介護保険サービスを適切に組み合わせることが重要です」

 その上で、夫婦間の介護には「リバースモーゲージ」の利用を勧める。

「リバースモーゲージとは、持ち家の自宅を担保に、住み続けながら金融機関から融資を受けられるシニア層向けの融資制度のこと。今の高齢者の持ち家率はとても高いので、それを活用するのです」(土堤内さん)

 子どもがいない、あるいは子どもがいても将来的にも自宅に住まないのであれば、「自分で使い切る意識」(同)で介護費用に充てるとよいそうだ。ただ、評価額が低めに抑えられるなどの問題点もある。

 国内でリバースモーゲージを取り扱っているのは、都市銀行や一部の地銀、信用金庫など。また、公的なものでは長期生活支援資金貸付制度(厚生労働省主導のもとで各都道府県の社会福祉協議会が実施)や、住宅金融支援機構が提供しているものがある。

 親子やきょうだい間の介護の場合はどうか。『親の介護には親のお金を使おう!』の著者でもある太田さんは、「要介護者である親やきょうだいのお金を使うべき」と話す。

「基本的には、介護は要介護者の生活を豊かにするためのもの。介護される親やきょうだいのお金を使うのはむしろ当然です。介護者にも生活があり、100年生きるとしたらその分の蓄えも必要です」(太田さん)

 同書によると、月々にかかる介護費用は在宅の平均で5万円。施設だと11万7千円になる。

「これはあくまでも平均の金額。大事なのは“介護にいくら掛けられるか”。これはそれぞれの家の事情によって大きく異なります。多くの人は親の財産がどれくらいあるか聞くことを躊躇(ちゅうしょ)しますが、まずは現状を知って、どれくらい介護費用に充てるか考えることが先決です」(同)

 決してひとごとではない老老介護。超老老介護もあり得るなかで、介護される側とする側、どちらになっても後悔しないよう、しっかりとシミュレーションしておくべきだろう。(本誌・山内リカ)

※週刊朝日  2018年8月3日号より抜粋