TOO MUCH SITTING(座りすぎ)──。数年前から、世界中の健康科学分野をにぎわすようになったフレーズだ。文字どおり、座って過ごす時間が長すぎることを意味し、それによってさまざまな健康被害を引き起こすことが報告されている。



 WHO(世界保健機関)は2012年、座りすぎが喫煙や偏った食生活、アルコールの飲みすぎと並んで肥満や糖尿病、高血圧症、心筋梗塞、脳梗塞、がんなどの病気を誘発し、世界で年間約200万人の死因につながっている、と発表した。

 ブラジルのサンパウロ大学の研究者らは16年、「世界54カ国で年間43万人を超す人が、座って過ごす時間が長すぎることが原因で死んでいる」と、WHOよりも直接的な表現で発表している。

 こうした数値は「たかが座りすぎ」とは切り捨てられないリスクの高さだ。座るというごくありふれた日常行動が病気や死に直結する──それまで思いも寄らなかった“新常識”が世界中で注目を集めている。

 座りすぎ問題の日本における第一人者、早稲田大学スポーツ科学学術院の岡浩一朗教授はこう話す。

「座りすぎが問題視されるようになったのは00年ごろ。欧米諸国を中心に研究と対策が進みました。欧米の多くの国々では肥満と糖尿病が『国民病』となっていて、当初の狙いはそれを解消することでした」

 英国は11年に座りすぎのガイドライン(英国身体活動指針)を作成。その後も継続して「就業時間中に少なくとも2時間、理想は4時間、座っている時間を減らして、立ったり、歩いたりする低強度の活動にあてるべきである」と勧告した。

 米国では、シリコンバレーにあるIT企業を中心に、立ってデスクワークをするスタンディングデスクが浸透。近々、国をあげてのガイドラインが完成すると言われている。

 オーストラリアでは官民一体となり、テレビCMで「脱・座りすぎキャンペーン」の動画を流して警鐘を鳴らした。

 各国で調査と研究が進むにつれ、座りすぎは肥満や糖尿病にとどまらず、肥満や糖尿病が危険因子になる高血圧症や心筋梗塞、脳梗塞、がんなどの病気も誘発し、死亡リスクも上げることが明らかになった。日本での注目度が上がったのは、そのころからだ。

 日本人の心筋梗塞や脳梗塞の罹患率は高く、がんは死因の「不動のトップ」。座りすぎは無視できない問題である。岡教授は言う。

「しかも、日本人は世界で一番長く座っている国民なんです」

 シドニー大学の研究者たちが世界20カ国・地域の成人を対象に、平日の総座位時間を調べたところ、日本人の中央値は1日420分(7時間)だった。全体の平均中央値である1日300分(5時間)より、2時間も長かった。

 日本人は勤勉で長時間労働を厭わないから、多くのデスクワーカーが座りすぎに陥っているとも言われる。すでに大手IT企業や外資系企業などでは、スタンディングデスクを導入している例もある。働き方改革の一つとして、座りすぎ対策を進める企業も出てきた。(茅島奈緒深)

※週刊朝日  2018年10月19日号