感染症は微生物が起こす病気である。そして、ワインや日本酒などのアルコールは、微生物が発酵によって作り出す飲み物である。両者の共通項は、とても多いのだ。感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生が「ワインと健康の関係」について解説する。

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 さて、赤ワインの製造についてもう少し細かく説明しよう。

 収穫した赤ワイン用の黒ブドウを潰す。これを破砕(foulage)という。果実にくっついた茎、果梗を取り除き(除梗)、酸化防止と殺菌のための二酸化硫黄(亜硫酸)を加える。
 
 破砕、除梗したブドウには果汁、果皮、果肉、種子などが混じり合っている。これを果醪(かもろみ)という。これを木樽やステンレスタンクなどに入れる。ここで酵母を加え、発酵させる。ブドウの中の糖分が酵母によってエチルアルコールと二酸化炭素になる。この反応についてはすでに説明した。
 
 場合によってはここで糖分を加える。これを補糖(chaptalisation)と言う。

■糖分を加えるのは、ただ単に甘くするためではない
 
 シャプタルはナポレオン1世時の帝国フランスの農務大臣だった。彼がワインへの補糖を認可したので、シャプタリザシオンというわけだ。発酵によるアルコール産生量が少ないと微生物の繁殖が抑えられなくなったり、風味が単調になったりする。糖分を加えてこれを酵母に発酵させ、さらにアルコールを造らせる。糖を加えるといっても、甘くするためではないのがポイントだ。
 
 ワインは単に糖をアルコールに変えただけの飲み物ではない。ブドウのいろいろな成分が液体に溶け出し、変化する。これをマセラシオン(醸し)という。例えば、果皮から赤ワインの赤色を出すアントシアニンが、種子からは収斂(しゅうれん)性(渋みのこと)を出すタンニンが出される。醸しが終わったら液体と固体(果皮、種子など)を分離する。その後、場合によってはマロラクティック発酵(MLF)と呼ばれる別の発酵も起こさせる。

 マロラクティック発酵が乳酸菌によって行われる点についてはすでに指摘した。乳酸菌の働きで、リンゴ酸を乳酸に変化させる発酵だ。リンゴ酸(malic acid)から乳酸(lactic acid)ができる発酵(fermentation)のため、マロラクティック発酵(Malo−Lactic Fermentation, MLF)と言う。

 その後、ワインを樽などに移し替えて一定期間熟成させる。樽熟成により、樽の成分が抽出してより複雑な風味が生じる。樽由来のヴァニラやチョコレートを感じさせる香りもここで付く。樽熟成の味を強調するか、控えめにするのかはワインの作り手の考え方による。
 
 その後、ワインの澱引き(スーティラージュ)や清澄(コラージュ)をし、酵母菌の死骸などを除去する。その後、濾過(ろか)してさらに固形物を取り除いたり、低温加熱殺菌(パスツリゼーション)を行ったりする場合もある。このあと、ワインは瓶に詰められて瓶内熟成をする。ワインの種類によるが、ある程度時間をおいたワインのほうが、熟成が増しておいしくなることはよく知られている。

■白ワインは液体部分だけを、酵母を使ってアルコール発酵させる
 
 白ワインの造り方についても簡単に説明しよう。
 
 収穫するのは白ブドウ(実際には果皮は緑色のことが多い)だ。これを破砕、除梗を行い、酸化防止や殺菌目的で亜硫酸を加える。白ワインは赤ワインと違い、この時点で液体と固体を分離する。そして液体部分だけを酵母を使ってアルコール発酵させるのだ。
 
 白ワインの発酵は低温で行うのがよいとされており、発酵中に発生する熱を人為的にあえて下げて低温で発酵させる(15〜20度)。低温で造ったほうが、発酵が遅くなり、香り成分が作られやすく、また空中に散布されて失われにくい。その後、場合によって赤ワイン同様にマロラクティック発酵を行い、熟成をさせて、澱引き、清澄、濾過(ときにパスツリゼーション)する。

 白ワインも樽熟成をさせる場合もあり、その場合は俗に「樽を効かせた」というまろやかな味わいと香りが加わる。シャルドネなどは樽熟成をさせた場合とさせない場合とでは味覚も香りも違っていて、まったく別のワインのようになる。
 
 最後に瓶詰めを行い、さらに瓶内で熟成させる。あえて澱引きをせずに澱の風味を残す方法もある。シュル・リー(sur lie)と呼ばれる方法で、ロワールのミュスカデや日本の甲州などに行われている技術だ。