週末の寝だめがクセになっているあなた。でも、それこそが翌週のだるさや 生産性低下の原因になっている可能性もある。



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 その「事件」を思い出すと今も冷や汗が出る。

 東京都に住むコンサルティング会社勤務の女性(46)は、顧客企業の担当者に同社のデリケートな問題にも触れた書類を添付して送った。ところがほどなくして届いた返信メールには別の会社の人の名前でこう書かれていた。

「こちら宛先が間違っているようです」

 なんとメールを誤送信していたのだ。女性は昨秋から扱う案件が急増し、5時間ほどしか眠れない日々が続いていた。

「7時間近く寝ていた以前なら絶対なかったミスです。取引先には平謝りで、会社にも報告しなくてはならず、本当に自分が情けなかった」(女性)

 最近では睡魔に負けまいとするあまり、気づくとブツブツ独り言をつぶやいている。

「話しかけ難い雰囲気を醸しているのではと心配です」(同)

 国を挙げて取り組む「働き方改革」が目指すのは生産性向上。だがAERAが実施したアンケートには、この女性のように睡眠不足で生産性が向上どころか低下しているという声が多数寄せられた。中学校教員の男性(35)はこう嘆く。

「妻から時折、いびきがうるさ過ぎると夜中にたたき起こされます。朝もすっきり起きられたためしがありません」

 帰宅するのは夜10時ごろ。共働きで家事も分担しており、睡眠時間は5時間を切る。最近も教材を作る際の誤字脱字や時間割変更の連絡忘れなどミスを連発し、生徒から「先生、大丈夫?」と心配されてしまった。

 睡眠改善サービスを展開する帝人が、国際基準の不眠判定法「アテネ不眠尺度」を使って2016年に勤労者1860人を対象に行った調査によると、「医師に相談すべきレベル」の不眠問題を抱える人は全体の2割、「不眠の疑いあり」という人は3割。合計すると5割もの人が何かしらの問題を抱えていた。

 米国のランド研究所が「仕事のパフォーマンスの劣化による経営効率の低下」など睡眠不足を原因とする経済損失を算出したところ、日本は15兆円。GDP比では米国、英国など調査対象5カ国中、最悪の2.92%だ。

 帝人の濱崎洋一郎・前デジタルヘルス事業推進班長によると、最近特に問題視されているのは「社会的時差ボケ」。平日の睡眠不足を補おうと休日に寝だめする結果、体内時計が混乱をきたし、時差ボケ状態になることを言う。

 その度合いは「睡眠中央値」の差で測る。例えば平日、午前0時に寝て6時に起きれば睡眠中央値は3時。休日に午前1時に寝て11時に起きれば睡眠中央値は6時となる。この場合、社会的時差ボケは3時間。週末にミャンマーやバングラデシュあたりまで行き、月曜の朝に戻って出勤するのと同じ状態だ。その程度なら大丈夫そうだが、

「我々の調査では、社会的時差ボケが1時間以上ある人は、1時間未満の人に比べてイライラや不安感、抑うつ、体の不調などの症状が出やすいという結果が出ています」(濱崎さん)

 週末ぐらいはゆっくり寝るという行動が逆に翌週の疲労感やパフォーマンスの悪化につながってしまうというのだ。しかも海外では、社会的時差ボケが慢性化すると、肥満や糖尿病など生活習慣病のリスクが高まるという研究結果も出ている。ああ、つかの間の快楽なのに……。

では、社会的時差ボケの状態にならないよう気をつけながら、睡眠不足を解消するには、どうしたらよいのか。企業向けに睡眠改善のコンサルティングを行うニューロスペースの小林孝徳社長に睡眠のテクニックをアドバイスしてもらった=画像参照(編集部・石臥薫子)

※AERA 2019年3月4日号より抜粋