「終活なんて、気が進まない」とばかりに何もしないままこの世を去ると、残された家族はさまざまな手続きや探し物に忙殺され、故人を想い静かに別れの時を過ごすこともままならない。遺族に迷惑をかけないため、何ができるのか。ファイナンシャルプランナーの森田悦子さんが取材した。



■【葬儀】自分で見積もりを取って家族に伝えておく

「葬儀のバリエーションは広がっていますが、家族の死に直面している遺族に葬儀社を比較検討する余裕はありません。できれば事前に喪主になる家族と一緒に葬儀社に出向き、見積もりを取っておくと遺族に余裕が生まれます」(相続・終活コンサルタントの明石久美さん)

 子ども世代は実家の菩提寺や宗派を覚えていないことも珍しくない。訃報の連絡先とともに書き残しておこう。

 生前にできる準備として、終活に詳しいファイナンシャルプランナーの高橋佳良子さんは「遺影を自分で用意してほしい」と話す。

「子は親がどこにアルバムや写真を保管しているかわからず、探す時間もなくて不本意な写真を使ってしまうことも多い。遺族にとって遺影はずっと手を合わせるものなので、良い写真を見つけてあげられないと後悔が残るんです」

 最近は「家族だけで」とか、「葬儀は不要」と希望する人も多いが、質素な葬儀が必ずしも負担が軽いとは限らないと明石さんは言う。

「『寂しい葬儀でかわいそう』などと心ない言葉を言われて傷ついたり、後日『お焼香したい』という人が次々と訪ねてきて大変な場合もある。残された家族が嫌な思いをしない葬儀をすべき」

■【墓】墓じまいは自ら実行を子の負担が圧倒的に軽い

 将来にわたって管理していく墓は、残された家族にとって負担が重いものだ。先祖代々の菩提寺に墓があっても、子どもが遠方に住んでいる場合は別の選択肢を検討したほうがいいことも。高橋さんは、「墓参りや管理料に加え、清掃などの奉仕や修繕の寄付など檀家の務めが大きな負担になることもある」と指摘する。

 自分が後を継いでも、次に守ってくれる子や孫がいなければ、いずれ無縁墓になることを気に病む子もいるだろう。こうした負担を負わせたくないと考えるなら、今ある墓を閉じる「墓じまい」が有力な選択肢となる。閉じた後は、継承の必要がない永代供養墓や合祀墓を利用したり、海洋散骨や樹木葬などで自然にかえる方法などがある。管理できる見込みがあれば、子の住まいの近くに新しい墓を購入してもいい(改葬)。

 墓じまいは親の死後に子が実行するケースが多いが、親自らが検討し、結論を出すほうが子どもの負担は圧倒的に軽いという。

「墓じまいの決断は罪悪感を伴うこともあり、子には精神的につらい。菩提寺から離れる離檀の交渉も、日ごろやり取りのない子にやらせるより自分でやるほうがスムーズ」(高橋さん)

 散骨や合祀する場合でも、遺骨の一部をコンパクトな納骨家具に入れて自宅に置いておく人もいる。お墓に入るより、故人を身近に感じてもらえるかもしれない。

 墓じまいする場合は、自分のきょうだいなど親類にも伝えておきたいと高橋さんはアドバイスする。

「自分の意思であることを明確にしておかないと、子どもが親類から責められてしまうことがあります」

 今の菩提寺に継続して世話になりたいなら、墓の管理料や檀家の務めについて子どもに伝え、承諾を得ておきたい。また、住職や関係者と子の顔つなぎをしておくといいだろう。

■【相続】簡単な家系図や親類一覧、連絡先なども残しておく

 資産の多寡に関係なく、相続人を確定して全員が印鑑をつかなければ相続はできない。このとき、遺族が困るのが、故人の戸籍を取ることだ。

「相続人を確定するため、故人の出生から死亡までの戸籍謄本などをすべて集める必要があります。死亡時の本籍地でその役所にあるすべての戸籍謄本などを取り、記載されているひとつ前の本籍地で同様に取得して、出生までさかのぼることを繰り返さなければなりません」(明石さん)

 2024年ごろからはこうした手続きが簡略化される見込みだが、それより前に“もしも”のことがあれば、かなりの手間と時間が必要だ。明石さんは戸籍があった市区町村に一斉に請求できるよう、一覧にしておくことを勧める。

「できれば実際に、自分で出生から現在までの戸籍謄本を取得しておくほうが確実です。相続手続き時に再度取り直しが必要ですが、請求先自治体と相続人がすぐ判明するだけでも、子どもには大きな助けになります。ただし秘密にしたい戸籍情報がある場合は一覧表のみにします」(同)

 また、簡単な家系図や親類一覧とその連絡先などを残しておくと便利だ。

 相続人が複数いる場合、自宅などそのままでは分割できない不動産の扱いはやっかいだ。家族が集まる機会を利用して希望を伝えたり、子の意思を確認しておきたいと高橋さんは勧める。

「子のために自宅を残したいと考える人が多いが、離れて暮らす子には迷惑なことも。もしそうなら、自宅を老後資金に換えることを検討してもいいのでは」

 仲の良いきょうだいでも、利害がからめば揉め事も生じる。こうした事態を避けたいなら、遺言書を残すのも手だと高橋さんは言う。

「面倒なイメージもありますが、19年1月から自分で書ける『自筆証書遺言』の要件が緩和され利用しやすくなりました」

 財産の目録を自筆しなくてもよくなったので、遺言書だけを自筆して、あとは登記事項証明書や通帳のコピー、あるいはパソコンで作った一覧であっても、署名捺印さえすれば認められることになった。また、20年7月からは、自筆証書遺言を法務局に保管してもらえる制度ができる。遺言書の存在を子どもに伝えておけば、紛失や改ざんされるリスクがないうえ、生前に内容を知られることなく保管できるようになる。

※週刊朝日 2019年10月11日号より抜粋