子育て中の親御さんたちは、「今年はイライラせずに子育てしたい!」と年始に目標を立てた方も多いのではないでしょうか? その成果は出ていますか?

 ダイエットと同様、目標を立てるだけで手段がわからなければ実現しづらいもの。そこで、「イライラ子育て」を「幸せ子育て」に変換するコツを慶應大学大学院教授で「幸福学」の第一人者である前野隆司先生と、今「神メンタル」「神トーーク」という本がベストセラー中の作家でコンサルタントの星渉さんにお聞きしました。

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前野:みなさんあまりご存じないかもしれませんが、「幸せ」には何が影響するのか、これまでに相当分析され、わかってきています。悩みを持つのも人間が知能を持っているからこそなのですが、学問は進歩していて、悩みの解決策というのもかなりわかってきている。だから子育てに悩んでいても心配しないで、って言いたい(笑)。

星:私は今までに多くの起業家を育ててきたのですが、ビジネスで成功しても幸せになれない人を多く見てきました。いろいろな文献を調べていくうちに、前野先生の本に出合い、これだ!と。確かな裏付けに基づいて幸福が語られていることにとても共感を覚えたんです。

前野:そのあと何回かお会いして、話が盛り上がりましたよね。今では同じ幸せ感でも、幸せが長続きするものと、しないものの違いも解明されています。

星:地位財と非地位財のことですね?

前野:はい。幸せを得るためには、お金とか地位に関するもの(地位財)が必要と思いがちですが、そういったものは手に入れても実は幸せ感が長続きしない。健康とか愛情といった、環境や心、感情に関するもの(非地位財)は幸せ感が長続きするんです。でも、両方を提示されたら、お金や地位を選んでしまうのが人間。脳は目の前のことを優先させるようにできているんですから当然です。

星:その通りですね。でもその事実を知れば、「こっちは瞬間的な幸せで長続きしないから、そっちを選ぼう」という判断基準ができたりしますよね。

前野:私が分析した結果によると、四つの因子を満たしている人が幸せということがわかっています。まず「やってみよう」因子は、いきいきワクワクするような、やりたいことを持っていることです。夢や目標ですね。親にしても、子育てにだけ専念するのではなく、「自分がやりたいこと」を持っていることが大切です。

 二つ目は「ありがとう」因子です。家族や自分に関わる周りの人たちに感謝をすると、その人自身が幸せになることが科学的にわかっています。

星:「感謝されると幸せになる」のではなく、「人に感謝をすると、自分が幸せになる」ということですよね?

前野:そうです。感謝すると幸せになるのか、幸せだと感謝できるようになるのか、どちらが先か、という話ではなく、両方の要素があるんだと思います。幸せになると笑顔になる、笑顔でいると幸せになれる、と同じですね。

星:心理学的にも周囲に感謝ができている自分を認識すると、自己肯定感が上がって幸福度も上がると考えられています。いずれにしても「ありがとう」と伝えるだけですからシンプルですよね!

前野:まったくです。お金がかかるものではないし、これこそ知らないのはもったいない。感謝をすれば、人間関係もよくなるし。お子さんにもぜひ感謝をしてほしい。「私の子どもに生まれてきてくれてありがとう」と。これほどかけがえのない感謝はないですよ。

 子どもにキーッとなって怒りそうになるときも、「ありがとう」という気持ちが湧けば、怒らないですむかもしれないし。

星:冷静に考えると、日常で「ありがとう」と言えるタイミングはたくさんあります。まず、「すみません」を「ありがとう」に変えてみるといいです。私自身、「ありがとう」の効果はとても実感していて、経営者の方にも「ありがとう、ありがとう」と一日に数千回繰り返して口癖にするよう、アドバイスをしているほどです。

前野:それはすごい。三つ目は、「なんとかなる」因子です。これはもしかすると、日本人が一番ハードルが高いと感じるものかもしれませんね。

星:とくに子育てでは、お子さんに対してはつい、「本当に大丈夫かな?」「なんとかならなくなってしまったらどうしよう」と思いがちですよね。

前野:確かに、うちの子が昔中学受験したときも、私は「どうなっても大丈夫。なんとかなる」と言い続けていましたけど、妻はピリピリしていましたね(笑)。

星:親御さんたちが言っている、「なんとかならないかもしれない」は、結果ありきのものなんですよね。例えば受験だったら、「合格しない」が「なんとかならない」。でも、前野先生がおっしゃっている「なんとかなる」は、幸せに生きることができるかどうかですよね。合格しなくても、幸せに生きていくことはできる。だから意味合いが全然違いますよね。

前野:そう。「合格しなければいけない」という意味での「なんとかしたい」という発想は絶対にやめたほうがいい。親がそう思ったら、その緊張感は子どもに必ず伝わりますし、不幸せ感を持つと学力も下がります。親は自分をだましてでも、「なんとかなる」と言い続けないと。

星:脳科学的にも脳をだますことがスタートです。最初から100%そう思えなくても、口だけでも「なんとかなる」と言い続けていると思考もだんだん変わってきて、そのうち定着します。

前野:「なんとかなる」と思えるかどうかは、その人自身の気質もありますが、後天的な環境も大きく影響します。例えばグループの中に心配性の人がいても、周りの人たちが「大丈夫! なんとかなるよ!」と言い続ければそういう気持ちになれる。

星:親が子どもに毎日浴びせる言葉って大事だと思います。

前野:最後の「ありのままに」因子ですが、これは「人と比べない」ということです。自分らしく生きる。ただ、どうしても子育てしていると周りの子の成長が気になったり、成績を比べたりしてしまいがちです。僕がすごく幸せだったのは、小学校1年生のときの先生が「この子は大器晩成だから」って言ってくれたことかな。実際、子どものころは何をするにも行動が遅かった。でも先生がそう言ってくれたおかげで、親もそれを信じていつもそう言ってくれたし、自分自身も何があっても「俺は大器晩成だから大丈夫」って。実際40歳ぐらいからだんだん伸びてきた感じです(笑)。

星:子育てって子どもの記憶づくりだと思うんです。人間は過去の記憶をベースに行動と選択をします。前野先生の「大器晩成」の話もそうですけど、勉強でも片付けでも、子どもがどんな記憶を持っているかが大事。怒られている記憶ばかりだと、やはりそれらを積極的にやろうという気は起こりません。

前野:「幸せ子育て」のためには、まずは親自身が子育てのほかにワクワクすることやチャレンジしたいことを見つけてみてください。それに罪悪感を感じる必要はない。

星:つまりメカニズムとしてはこうです。親が幸せになる→かける言葉がポジティブになる→子どもに良い記憶ができる→子どもも幸せになる。心理学的にも起点は親が幸せかどうかだとされているのです。

前野:そう。子ども第一に、と自己犠牲を厭わず子育てをすることは、実は子どもの幸せにつながっていなかった、ということは科学的にも証明されていることなんです。

星:自分が幸せな状態であれば、ちょっとイラッとしても自分をコントロールできますしね。そうすれば子どもへの接し方も、一呼吸置いて考えられるようになります。

前野:もっと簡単に言ってしまうと、幸せは伝染します。あなたが幸せだとお子さんも幸せになるし、あなたが不幸だとお子さんも不幸になる。ですから、自己肯定感が高く、夢を持った子に育てたいのであれば、自分自身も自己肯定感を高くして夢を持たないと。

星:そうですね。そしてそれは決して難しいことじゃない。知識とスキルを身につければ、誰もができるし、現状を変えることができるということを、みなさんに知ってもらいたいですね。

「AERA with Kids冬号」では、星渉さんによる子育てセミナーの様子も掲載。今年、自分自身を変えたい方、必見です。