麻疹や風疹、百日咳は、ワクチン接種でほぼ確実に予防できる感染症だ。にもかかわらず、母親が妊娠中に罹患することにより子どもに障害が残ったり、乳児が感染して生命の危険に晒されたりする事例がある。AERA 2020年1月20日号から。



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 麻疹742件、風疹2288件、百日咳1万6335件──。2019年初頭から12月15日までに報告された三つの病気の感染者数だ。いずれも予防接種で防ぐことのできる感染症だが、これまでたびたび流行してきた。

「30年前から、同じことが繰り返されています。防ぐ方法はわかっているのに、できていない。歯がゆくてなりません」

 怒りをにじませながらこう話す風見サクラコさん(ハンドルネーム・30)は、右耳がまったく聞こえず、補聴器をつけた左耳のわずかな聴力と相手の口の動きで言葉を読み取る。頼りの目も白内障と緑内障を患っていて視野が狭く、右目は形が何とかわかる程度にしか見えない。幸い軽度だったが、心臓に小さな穴が開く心室中隔欠損症も抱えて生まれた。

 風見さんの障害は、先天性風疹症候群(CRS)の影響だ。CRSは妊娠中の女性が風疹に罹患することにより子どもに障害が生じるもので、心疾患、難聴、白内障が三大症状とされる。

 ざわついた喫茶店で会話していても、風見さんはこちらの質問に的確に返答する。本当に聞こえにくいのかと思うほどだが、その裏には苦労がある。

「全神経を集中して聞きますが完全にはわからない。頭をフル回転させてパズルの穴を埋めるイメージです。ものすごくしんどいですよ。障害がなければできたのに、と思うこともたくさんありました」

 風疹は、風見さんが生まれる2年前の1987年に大流行し、その後も定期的に流行を繰り返してきた。2018年後半から19年前半の流行で報告された患者数は全国で5千人以上。CRSと診断される子どもは15年から4年間ゼロが続いていたが、19年は4例が確認された。

 国は14年から、「風しんに関する特定感染症予防指針」を定め、CRSの発生をなくすこと、20年までに風疹を排除することを目標に掲げてきたが、達成できなかった。

 風疹はワクチン接種でほぼ防ぐことができる。そして、風疹のワクチン接種は現在は定期予防接種に含まれ、1歳代で1回、小学校入学前に1回の計2回、接種が行われており、ほとんどの子どもが抗体を持っている。

 それなのに流行が繰り返されるのはなぜか。ナビタスクリニック理事長で内科医の久住英二医師(46)はこう話す。

「日本の定期予防接種制度は生年月日で厳格に区切られているので、対象外だった人はその後もキャッチアップされません。さらに、ワクチンに対する信頼度が低く、大人が接種するという意識もないのが原因です」

 風疹の場合、1979年4月1日以前に生まれた男性は定期予防接種の対象になっていなかった。79年4月2日以降に生まれた人は定期接種の対象になった(90年4月1日生まれまでは1回のみ)が、それ以前の生まれなら自費での任意接種しか方法がなく、多くの人が接種しないまま大人になった。国は62年4月2日〜79年4月1日生まれの男性にクーポンを配布し、抗体検査を受けるよう促しているが、見込んでいた受検者数には達していないという。また、予防接種を受けていてもすでに抗体が失われている可能性があるが、大人になってから追加接種する人は多くない。(編集部・川口穣、小田健司)

※AERA 2020年1月20日号より抜粋