企業の広報担当者は、自社のPRで業績アップにつなげるのがお仕事。でも、中小企業はメディアに登場する機会が限られる。浮上への険しい道を、アナウンサー経験者に案内してもらえたら……。そんなユニークな取り組みが、じわり注目を集めている。



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 その名も「女子アナ広報室」。アナウンサー経験者が企業の専属広報を務める仕組みだ。

 ネットで検索すると、「女子アナ広報室」というページタイトルのバックに、なんとも華がある女性が並んでいる。

 2019年夏、この女子アナ広報室を立ち上げた、トークナビ(東京・渋谷)代表の樋田(といだ)かおりさんが、そのこころを説く。

「普段、マナー講座等の仕事で接する企業の経営者が『会社のPRはどうしたらうまくいくのか』と嘆く姿を見てきました。特に中小企業は広報業務にヒト・モノ・カネをそれほど注げません。そこに着目したのです」

 手掛ける業務は多岐にわたる。

 まずはじっくりとヒアリングする。商品やサービスについての魅力、強みを把握し、メディア向けの資料にまとめ、経営者の確認を取る。そのうえで興味を抱きそうな媒体に取材を呼びかける。

 経営者がテレビ出演を果たす際にはカメラ映りについて助言。メディア慣れしていない経営者のアドリブ力をつけることもねらいだという。

 担当者は広報業務そのものを請け負うため、時にはデスクワーク、電話営業もこなすのだとか。料金は1カ月40万円。

 実際に女子アナ広報室に広報業務を委ねた企業経営者たちの評判は上々だ。広報室のHPには喜びの声が寄せられている。

「一押し商品をどうやってPRするか、考えあぐねていたところに出会ったのが女子アナ広報室でした。PRの反響もよく、売り上げもアップしました」

「依頼して3カ月で、相続に詳しい税理士法人としてテレビ出演を果たすことができたのも女子アナ広報室のおかげです」

 樋田さんによると、「差別化しづらい職種の企業からのオファーが増えてきている」という。「社員数人のベンチャー」「町の工務店」「防災用品販売会社」などが導入例として挙げられるという。

 樋田さんは「トークナビ」という、話し方、マナー研修事業を展開する会社の経営者でもある。

 実は自身も「女子アナ道」を歩んできた。

 愛知県内の大学を卒業後に青森放送に入社。ニュースアンカーのみならず、時には現場に出てリポートし、人に会って話を聞き、原稿を書いた。

 樋田さんはその後、中京圏のテレビ局で活躍。そして、起業家への道も視野にフリーへと歩み出す。フリーとなってからは「伝えることのお手伝い」をライフワークとしてきたという。

「大都市圏の中京圏でお仕事ができて本当に良かったと思います。一方で、次のステップを漠然と考えていました。私は商業高校の出身。父も経営者で間近で商売、事業というものを見てきたので、自分で会社を起こしたくなりました」

 そうした思いで樋田さんが立ち上げた会社が「トークナビ」だった。会社のコンセプトは社名のとおり、人に何かを伝えるときの方法をわかりやすく丁寧に導くものだという。

「人前でプレゼンしなくてはいけないとき。なんとなく大勢の前で話すのが苦手。そんな悩みを抱える多くのビジネスパーソンの力になりたかったんです」

 そもそも女子アナになるにはたいへんな難関の入社試験をくぐり抜けなければならない。東京にあるキー局への入社を果たせずとも全国にあるテレビ局へ女子アナとしての入社を目指し、全国行脚するのも珍しくない、とされている。樋田さんはローカル局で活躍する女子アナたちに注目した。

 ローカル局の女子アナたちは基本的にスキルが高い。アナウンサー業務にとどまらず、時にディレクター、記者業務をこなすこともあり、更にジョブローテーションの一環で営業や事業部門を経験する女子アナも存在する。一般的にローカル局にはオールラウンドな力を身につけている女性が多いのだ。

「私自身、アナウンサーを続けてきて『30歳限界説』を感じることが実はありました。せっかく培ったスキルとキャリアをうまくいかせないか、と考えていて、そうだ、広報だとひらめいたんです」と樋田さんはふりかえる。

 女子アナと企業の広報。樋田さんの頭の中ですぐに異質な二つの要素が結びついたという。

「地方の女子アナたちはいわば自分をブランディングすることに長けた女性たちです。全国各地にある中小企業の多くはPRまで意識が回らないという企業が多い。アナウンサー経験をいかし、企業広報、PR業務についてもらうことでお互いウィンウィンになれるのでは、と考えました」

 現在の女子アナ広報室のメンバーは20人。全員、各地で女子アナとして活躍してきた精鋭たちだ。昨年12月には第2期生のオーディションが実施され、100人以上の候補者から2人が選ばれた。

「実力ある女子アナたちは各地にたくさんいます。彼女たちがそれぞれの故郷や元々住んでいる地域でキャリアをいかしてできることはないか、と考えたときにも企業広報なら力を発揮できると考えました。故郷で子育てしながら自分なりの働き方で活躍している人もいます」(樋田さん)

 樋田さんが特に印象に残っているエピソードがある。ある経営者は見た目が少し怖い感じだった。

 樋田さんは「ファッションコーディネート」と「ヒゲをそる」ようアドバイス。イメチェンした経営者は印象が明るくなり、自ら企業の広告塔としてトップセールスを精力的にこなすようになったという。

「やはり社長自身が企業の広報役、顔になることが大切ですね。どう自社をPRすればお客様の目に留まり、心に刺さるか。私たちは伝えるプロ。その経験をいかして皆さんに気付いていただければと思っています」

 樋田さんに今後の目標を聞いた。

「夢は全国展開です。そして50社まで広げるのが目標です。必要に応じて女子アナのオーディションも行い増員して更にパワーアップしていきます」

(本誌・野田太郎)

※週刊朝日  2020年1月31日号