突然だが、高齢者では夜間にトイレに起きる回数が多いほど、死亡リスクが高くなる──。こんなデータが国内外の研究者から報告されていることをご存じだろうか。1回以上トイレに起きる「夜間頻尿」の危険性とその対策をお伝えする。



*  *  *
「夜のトイレは睡眠を妨げるため、睡眠不足による日中のQOL(生活の質)の低下につながりますが、問題はそれだけではありません」

 こう注意をうながすのは、長年にわたって高齢者の排尿障害と向き合ってきた、東京都リハビリテーション病院副院長で泌尿器科医の鈴木康之さんだ。

 なぜこれが問題になるのか。その理由について、鈴木さんはこう説明する。

「室内は暗いですし、寝ぼけているので、小さな段差や電気コードなどにもつまずきやすい。漏らしてはいけないと、焦ってトイレに行こうとするから、よけいに転ぶリスクが高くなる。夜間にトイレに行こうとして転倒し、骨折する高齢者が少なくないのです」

 骨がもろくなっている高齢者にとって、骨折は健康寿命を縮める大きな要因の一つ。厚生労働省の国民生活基礎調査(2016年)でも、骨折・転倒は、介護が必要となった主な原因の4位となっている。

 鈴木さんが夜間頻尿の患者に話すのは、「漏らしてもいいから慌てない」「足元を見ながらゆっくり行動する」の二つ。

「尿が漏れたら濡れた下着を取り換えればいいだけのこと。ですが、転倒して骨折してしまったら、その後の人生にも影響を及ぼします。まずは、夜間頻尿を改善するよう取り組むこと、そして夜間頻尿があってもそんなに深刻にならず、上手に付き合うことが大事です」(鈴木さん)

 夜間頻尿とは、「夜に1回以上、排尿のために起きなければならない状態」のこと。お酒を飲んだ日などは誰でも夜中にトイレに行きたくなるものだが、そうした心当たりがないにもかかわらず、毎日のように夜間、トイレに行く状態を指す。症状を訴える人は意外と多く、日本排尿機能学会の調査によると、40歳以上では4500万人、70代以上の9割にものぼる。

 排尿障害を専門とする日本大学医学部泌尿器科学系主任教授の高橋悟さんは、「夜間頻尿の原因は大きく三つ」と話す。それは、膀胱(ぼうこう)が尿をためにくくなる膀胱容量の減少、夜間の尿量が増える夜間多尿、そして睡眠障害だ。

「まず、膀胱容量の減少ですが、加齢に伴って膀胱の組織が変化して、少量の尿しかためられなくなります。また、排尿する力が落ちて1回で全部の尿を出しきれなくなってきます。そのため昼夜問わずトイレが近くなります」(高橋さん)

 夜間多尿は、夜間の尿量が1日の尿量の3分の1を超えた状態をいい、水分のとりすぎと、それ以外の要因に分かれる。

 前者については、最近は脱水予防などの観点から、水分を多めにとることが推奨されているため、なかには必要以上に水分をとっている高齢者もいる。これが夜間多尿の原因になることが少なくないという。

 後者では抗利尿ホルモンが関係するものと、むくみが関係するものがある。

「抗利尿ホルモンとは尿が作られるのを抑えるホルモンで、睡眠中に分泌されます。若いときはこのホルモンが十分に分泌されているので夜中にトイレに起きることは少ないのですが、年をとると分泌が減ってきます。その結果、夜中も日中と同じように尿が作られ、夜間頻尿になります」(同)

 一方、むくみとは体内の水分が余分にたまった状態。夕方になって足がむくむのは、重力によって体の水分が下半身にたまるからだ。年をとると水分を心臓に押し戻す力が弱くなるため、むくみやすい。

 昼間、体を起こしているときに下半身にたまった水分は、睡眠中に心臓や腎臓に戻ってくる。下半身と心臓などの高さが同じになるからだ。戻ってきた水分は尿として排泄(はいせつ)されるので、特に夜間に尿量が増える。

「患者さんのなかに、こちらが『水分をとりすぎていませんか』と聞くと、『トイレが近いから、夕方からはほとんど水を飲まない』とおっしゃる方がいます。そういう方に排尿日誌(後述)を付けてもらうと、昼間は1回しかトイレに行かないのに、夜間は4回も5回もトイレに行っているんですね。まさにこういう方がむくみによる夜間多尿タイプといえます」(同)

 睡眠障害は膀胱や尿量の問題ではなく、眠りが浅いとちょっとした尿意で目覚めてしまう、というもの。睡眠障害があるとトイレに起きやすく、トイレに起きる回数が増えれば、眠りが妨げられるという悪循環となる。

 これらの原因のうち、セルフケアで改善が期待できるのは、夜間多尿や睡眠障害による夜間頻尿。自分がどのタイプに当てはまるかは、「排尿日誌」でわかる。

 排尿日誌とは、朝起きてから翌日の朝までの排尿回数と尿量を記録するもの。尿量は計量カップや紙コップ、500ミリリットルのペットボトルを半分に切ったものを使って測る。日誌で「1日の尿量が1200ミリリットル。夜間の尿量が500ミリリットル」だとしたら、夜間の尿量が1日の尿量の3分の1を超えているので、夜間多尿の可能性が高い。日誌は排尿の傾向を見るものなので、2〜3日でOK。連日でなくてもよいという。

 では、どんなセルフケアがよいのだろうか。高橋さんが実施した検証で有効性が示されたのは、「塩分を控える」「夕食の時間を早める」など五つだ(下記参照)。

「塩分を控えることでのどの渇きを抑え、水分のとりすぎを防ぎます。夕食にもかなり水分が含まれているので、食事時間を早めれば尿が作られる時間も早まります。運動や入浴は一見、排尿と関係なさそうですが、実は重要な要素です」(同)

 運動によって足を動かすと、ふくらはぎのポンプ機能が働く。入浴では浴槽につかることによって水圧が足にかかる。いずれも下半身のむくみを改善する。汗をかいて体内の水分量が減れば、尿量を少なくすることができ、睡眠の質を高めることにも役立つ。

 寝る前の排尿は、膀胱にたまっている尿を出しておくという点で重要だ。

 高橋さんによると、こうしたセルフケアを続けていけば、1週間ぐらいで効果を実感できるそうだ。

「夜間頻尿は、高血圧や糖尿病、肥満、睡眠時無呼吸症候群、心不全、脊柱管狭窄(きょうさく)症、前立腺肥大といった病気が原因で起こることもあります。セルフケアだけで改善できない場合は、一度、泌尿器科で相談してみましょう」(同)

 なお、難治性の夜間頻尿については、昨年6月にデスモプレシン(商品名ミニリンメルト)が新たに保険適用となった。もともと小児の夜尿症に用いられていた薬で、現在は男性に限って使うことができる。(本誌・山内リカ)

■夜間頻尿を改善するポイント
・塩分摂取を控える
・1日30分程度の運動(ウォーキングなど)
・入浴
・夕食を早めにとる(就寝3時間前まで)
・寝る前にトイレに行っておく

※週刊朝日  2020年2月21日号