安倍政権が外国人労働者の受け入れ拡大へ新設した在留資格「特定技能」。だが受け入れは初年度想定の3%足らず。なりふり構わぬ条件緩和が始まった。AERA 2020年2月17日号の記事を紹介する。



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「深刻化する人手不足に対応するため」(政府閣議決定)として2019年4月に新しく創設された在留資格「特定技能」。政府は5年で最大34万5150人、初年度に最大4万7550人の受け入れを見込むが、19年11月末時点で1019人と想定に遠く及ばない。

 特定技能の在留資格を取得するには、日本語と技能の二つの試験に合格する必要がある。技能実習生として日本で働いていた人は試験が免除されるため、特定技能への移行がスムーズに進むと考えられていたが、なぜそうならないのか。情報サイト「特定技能の窓口」を運営するパラダイム・ラボの大木敏晴さんは「一部の監理団体が特定技能への移行を妨害している」と指摘する。

 監理団体とは、企業での技能実習が予定通り行われているかを監督する法務省の認可団体だ。企業は監理団体を通じてしか、技能実習生を受け入れることはできない。実習生本人や実習を実施している企業が5年働ける特定技能への移行を希望しても、あくまで技能実習生の枠にとどめようとする監理団体があると大木さんは話す。

「特定技能外国人を受け入れるには、支援機関への登録が必要ですが、過去1年間に失踪者を出した監理団体は登録ができません。支援機関になれない悪質な監理団体が、技能実習を延長して企業から払われる監理費を確保しようとしているのです」

 試験が免除される元技能実習生以上に深刻なのが「試験組」だ。特に海外で技能試験の態勢が整わず、特定技能での受け入れが始まった14業種のうち未実施の業種が大半。なかでも技能実習生最大の人材供給国で、特定技能でも期待の大きかったベトナムで試験が始まらない。その舞台裏を、ベトナムの送り出し機関幹部はこう説明する。

「日本政府は当初、ブローカー排除を目的に労働者と直接契約する形を求めましたが、海外労働者はベトナム政府が『労働力輸出』とする国の財産です。結果として送り出し機関を通す形で話は落ち着きましたが、技能実習から試験を伴う特定技能での送り出しに切り替える積極的な理由も見つからず、試験実施さえ決まらない状況です」

 こうした状況に、政府は受験機会の拡大に乗り出した。主なポイントは、観光などを目的に入国する3カ月以内の短期滞在者にも受験機会を拡大することだ。海外とは違い、日本国内では留学生などを対象に技能試験が本格的に始まっている。

 海外では早くも歓迎の声が上がっている。ネパール人材開発(カトマンズ)のサキャ・アノジュ代表(47)はこう話す。

「ネパールでは介護業種以外の試験は行われておらず、実施頻度も少ない状況です。日本で働きたいと願う若者は多く、特定技能に挑戦する受験ツアーを始める準備をしています」

 採用面接も組み入れ、合格者の渡航費などの負担を企業に求める話し合いも進めている。

 今回、受験機会が拡大されたのは短期滞在者だけではない。退学した留学生や失踪した技能実習生にまで受験資格が拡大される。その背景を、出入国在留管理庁の担当者はこう話す。

「学校や企業に問題があり、退学や失踪をせざるを得ない状況に追い込まれた外国人もいます。これまでは一律に受験資格を認めておりませんでしたが、4月以降は受験が可能になります」

 ただ、受験に合格しても、在留資格を得るためには、入管庁の審査に通る必要がある。

 短期滞在者にまで受験機会を拡大するほど、受け入れが進まない特定技能。ベトナムの送り出し機関幹部はこう切り捨てた。

「渡航費も自己負担で、仮に試験に受かっても就職が保証されるわけではない。試験目的の短期滞在ビザで入国し、アンダーグラウンドで働く失踪者が増えるだけでしょう」

(ジャーナリスト・澤田晃宏)

※AERA 2020年2月17日号