日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「新型コロナウィルスの院内感染」について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。



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 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、先月はじめに緊急事態宣言が発令されました。一度は期間が延長されたものの、医療体制が整ってきたことや新規感染者数の減少などを受け、5月14日には39の県で緊急事態宣言が解除されました。とはいえ、解除された地域は、外出自粛は要請されないものの、人との面会は避ける、人との接触をできる限り減らす努力を続ける、さらには県をまたいでの移動は可能な限り控えることが求められるなど、依然として制限があります。

 今月11日、フランスでは厳しい外出制限などが大幅に緩和され、外出が条件付きで認められました。百貨店やブティックなどの営業再開も認められたものの、飲食店や映画館などは集団感染の恐れがあるとして、再開が見送られたようです。バスや地下鉄などの公共交通機関を利用する際には、マスクの着用が義務づけられています。

 このように、ドイツやフランス、イギリスやニューヨーク州の一部の地域、日本やタイ、韓国などアジアや欧米の一部の国で段階的な制限緩和が始まる一方で、経済活動を一足早く再開した韓国や中国では新型コロナウイルスの集団感染が報告されています。新型コロナウイルスの世界的流行の第二波がやってくるのではないかという懸念が、世界で高まりつつあるのです。

 アメリカやイギリス、中国では、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、受診時の感染リスクを減らす目的や、病院への受診が難しくなった患者さんが受診可能なように、パソコンやスマートフォンを使用したオンライン診療が保険適応となりました。オンライン診療の需要は急速に拡大しています。日本でも、医療従事者や他の患者さんに新型コロナウイルスを感染させるリスクを減らすことなどを目的に、4月13日に初診でのオンライン診療が解禁となっています。

 オンライン診療を希望される患者さんからは、「熱が続いているから病院を受診していいかわからなかった」「継続して内服していた薬がなくなりそうだけど、外出自粛もあり受診が難しい」という声をよく耳にします。

 とはいえ、最近気になるのは、日本では新型コロナウイルスの新規感染者は減ってきている一方で、医療従事者や入院患者さんへの感染は未だに確認されているということです。

 多くの報告から、新型コロナウイルスは高齢の方や糖尿病や高血圧、心血管疾患といった基礎疾患のある方のほうが、感染すると重症化しやすいことがわかっています。病院に入院している患者さんは、高齢の方が多く、何かしらの疾患を持っている方ばかり。重症化のリスクがある人が大勢入院しているといえる病院で、院内感染が起きることは避けなければなりません。

 新型コロナウイルスの院内感染が起きてしまっている原因の一つとして、医療従事者が気づかぬうちに、院内でウイルスを拡散してしまっていることが考えられています。このことを示唆する英国のケンブリッジ大学がアデンブルックス病院で行った調査報告をご紹介します。

 アデンブルックス病院では、入院した患者に対しては、新型コロナウイルスについて定期的にスクリーニングを行い、必要に応じて隔離するという対応が取られていた一方で、医師、看護師、理学療法士など第一線で患者に接する医療従事者含め、病院で働くスタッフには、症状が現れた場合にのみ検査を行い、陽性であれば勤務を外すという対応が取られていたのですが、今回の調査によって、1,000人を超える病院スタッフの3%が新型コロナウイルス陽性、つまり病院スタッフの3%が無自覚で新型コロナウイルスに感染していたことがわかりました。感染が判明した病院スタッフのうち、約5人に1人は症状を全く自覚しておらず、5人に2人は軽度の症状であったために、新型コロナウイルスの感染を疑われていなかったといいます。

 研究チームの一員であったマイクウィークス博士とスティーブンベイカー教授は、「病院の全スタッフは、症状の有無に関わらず、新型コロナウイルスについて定期的に検査を受ける必要があり、病院内での感染拡大を防ぐために不可欠である。」と指摘しています。医療従事者が気づかぬうちに、院内でウイルスを拡散することは避けねばなりません。日本においても、症状の有無に関わらず、医療従事者が定期的に検査を受けられる医療体制も整える必要があると私は考えています。

 とは言え、オンライン診療は、対面での診療の時には得られる身体所見を得ることが難しく、電波状況がよくないと途中で通話が途切れてしまう、オフラインで繋がらない、といったケースもありました。オンライン診療したものの、薬が早く欲しいと処方箋を取りにクリニックまでお越しになったこともありました。

 画面越しの対面とは言え、視診や触診ができず、症状や経過のみで判断することは難しいと感じることも正直あります。院内感染や病院に受診することによって感染するリスクを減らすことも大切ですが、オンライン診療と対面診療をうまく使い分ける必要があると感じる今日この頃です。