皮膚がんのなかでもメラノーマは悪性度が高く、治療が遅れればリンパ節や内臓に転移する。だが、近年では免疫チェックポイント阻害薬をはじめとする薬物療法の進化で、治療成績が向上してきた。メラノーマの特徴や最新の治療法を紹介する。



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 メラノーマ(悪性黒色腫)は代表的な皮膚がんの一つで、メラノサイトという部分ががん化してできる。基底細胞がんや有棘細胞がんほど患者数は多くないが、皮膚がんの約12%を占める。

 メラノサイトはメラニン色素を産生している。しみの原因になるが、紫外線によるダメージから皮膚を守る働きをもつ。白人はメラニン色素が少ないため、紫外線を防ぐ機能がアジア人に比べて低い。そのため、日本人のメラノーマの罹患率は10万人あたり1〜3人だが、オーストラリア人では日本人の数十倍になる。

 メラノーマは皮膚に限らず、メラノサイトがあるところなら、どこにでもできる。頻度は低いが、目の結膜、鼻や口の中の粘膜、尿道、肛門の入り口などが挙げられる(イラスト参照)。

 白人では、体幹などにできる表在拡大型が大部分を占める。一方、日本人における表在拡大型は約3割にとどまり、末端黒子型と呼ばれる、足の裏や爪などにできるタイプが約4割を占める。表在拡大型の発症には紫外線が大きくかかわっているが、末端黒子型の原因はまだ明らかになっていない。足の裏の病変は気づきにくく、発見したときにはすでに転移があるケースも少なくないという。

 メラノーマは60代以降に増えるが、20代、30代の若い世代にも発症のピークがあることも特徴的だ。

 メラノーマの多くは、黒いほくろのような外観をしている。病変のふちがぐにゃぐにゃと曲線を描き、よく見ると複数の色が混ざった色調をしている。爪のメラノーマは、爪を縦に走る黒い筋で見つけられる。いずれも痛みやかゆみなどの症状はない。基底細胞がんや有棘細胞がんに比べて悪性度が高く、リンパ節や、肺、脳、肝臓などのほかの臓器に転移する。

■ 大きさよりも厚さで 転移リスクが決まる

 メラノーマでは大きさよりも厚さが問題になる。筑波大学医学医療系皮膚科学准教授の藤澤康弘医師はこう話す。

「厚さが4ミリを超えると、進行していると考えられ、リンパ節転移の可能性が50%以上になります。2〜3ミリで20〜30%でしょう」

 検査は問診、リンパ節の触診、ダーモスコープという特殊な拡大鏡を用いたダーモスコピー検査、CT(コンピューター断層撮影)などがおこなわれる。

 また、リンパ節転移の有無を調べるために、センチネルリンパ節の生検(細胞を採って詳しく調べる検査)が実施される。センチネルリンパ節とは、リンパ流に乗ったがん細胞が最初にたどり着くリンパ節のことで、このリンパ節に転移がなければ、ほかのリンパ節の転移の可能性はほとんどない。そのため、まずセンチネルリンパ節を特定し生検する必要がある。

 通常、センチネルリンパ節生検は、がんの部分を切除する際に同時におこなわれる。色素あるいは放射性アイソトープを、病変近くに皮下注射してリンパ管に注入し、検知できる機器を用いてどのリンパ節にたどり着くか術中に追跡する。

 治療の基本は手術による原発巣の切除と、リンパ節転移がある場合は、そのリンパ節の切除だ。原発巣は、大きさや厚みに1〜2センチ程度の余裕をもたせて切除する。切除部分が大きい場合には、太ももなどから皮膚を移植する皮膚再建もおこなわれる。

 リンパ節転移がある場合の術後に、画像検査などでがん細胞の存在が認められなければ、再発予防として薬物療法を1年間おこなうことが一つの選択肢になっている。

■ 重症例の治療の選択肢が増加

 薬剤の選択にはBRAFという遺伝子がかかわっている。BRAF遺伝子に変異があると、がん細胞の増殖が促進されることがわかっている。切除したメラノーマの組織を用いたBRAF遺伝子検査で変異が見つかった場合(陽性)は、この変異遺伝子の作用を抑えるBRAF阻害薬と、がんの細胞分裂にかかわるMEK遺伝子の作用を阻害するMEK阻害薬の併用が選択肢となる(いずれも分子標的薬)。日本人のメラノーマ患者の2〜3割にBRAF遺伝子の変異があることがわかっている。

 一方、遺伝子変異がない場合(陰性)の再発予防では、免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブ(商品名:オプジーボ)、あるいはペムブロリズマブ(同:キイトルーダ)を用いる。遺伝子変異が陽性の場合にも用いられ、陰性のケースよりも選択肢が多いことになる。

 これらの治療で、20〜30%の再発を抑えることができるという。

 BRAF阻害薬+MEK阻害薬は内服薬で、副作用として発熱、視力障害などがみられる。免疫チェックポイント阻害薬は点滴で、発熱、発疹、下痢、息切れなど、全身にさまざまな副作用があらわれることがある。そのため、慎重に管理しながら投薬される。

「再発例に対しても、同じ薬物療法をおこないますが、加えて2018年にニボルマブとイピリムマブ(同:ヤーボイ)という免疫チェックポイント阻害薬の併用が保険適用になりました。重症例に対する治療法は増えています」(藤澤医師)

 完全に切除するのが難しい場所にある場合や、リンパ節の転移巣などに放射線治療をおこなうこともある。

 都立駒込病院皮膚腫瘍科部長の吉野公二医師は次のように言う。

「分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬の承認前は、ダカルバジンという抗がん剤しか治療薬はなく、5年生存率が10%未満でした。今は、転移のあるケースでも治療成績は格段に上がったといえるでしょう」

 メラノーマは転移がなければ、5年生存率が80〜85%だ。やはり早期発見がカギになるといえる。

 なお、がんの手術に関して、週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』では、全国の病院に対して独自に調査をおこない、病院から回答を得た結果をもとに、手術数の多い病院をランキングにして掲載している。同ムックの手術数ランキングの一部は特設サイトで無料公開。「手術数でわかるいい病院」https://dot.asahi.com/goodhospital/

(ライター/別所 文)

<取材した医師>

筑波大学医学医療系皮膚科学准教授 藤澤康弘医師

がん・感染症センター都立駒込病院皮膚腫瘍科部長 吉野公二医師

※週刊朝日  2020年6月26日号