九州を中心に猛烈な雨が列島を襲った。しかし、なぜここまで被害が大きくなったのか。 一因に「浸水リスク」が高い土地での住宅開発が指摘される。



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 今回なぜ、ここまで被害が大きくなったのか。熊本県人吉市と球磨村では「タイムライン」(防災行動計画)を作成し、大雨の時に誰が何をしないといけないのか予行演習も行ってきた。

 地域防災に詳しい山梨大学の秦(はだ)康範准教授は、被害が大きくなったポイントとして3点を挙げる。

「まず、短時間で水位が急上昇した点。今回2、3時間の間に、場所によっては1、2時間の間に球磨川の水位が急上昇しました。それも午前0時を回ってから。そのため、避難のタイミングが難しかったのではないかと思います」

 気象庁が3日に発表した熊本県内の同日午後6時からの24時間の予想雨量は「多いところで200ミリ」。だが実際には、球磨村で470.5ミリ、人吉市で373.5ミリなど予想を大幅に上回る豪雨となった。

■長い年月で知恵を失う

 2点目は、未明とはいえ、避難せず被害に遭った人がいたことも被害を大きくしたと見られている。

 秦准教授は言う。

「水害常襲地帯では水害が起きることを前提に備えや街づくりをしているが、50年近く大水害が起きないと住んでいる人も安心してしまい、知恵も失われていたのではないか」

 人吉市に住む会社員の男性(39)も避難しなかったが、理由をこう言う。

「1965年の大水害を知らない人も多く、毎年のように緊急事態速報は出ているけど球磨川は氾濫しそうで氾濫しない。今回も『危ない』と意識していた人はほとんどいなかったと思います」

 3点目。秦准教授が被害が大きくなった要因として注目するのが、洪水浸水想定区域に増えている人口と世帯数だ。洪水浸水想定区域とは、国土交通省が「降雨で氾濫した場合に浸水する危険性が高い場所」と示した区域のことで、この降雨は「50〜150年程度の計画規模の降雨」を想定している。

 秦准教授は11年度時点の洪水浸水想定区域の地図データと、1995年から2015年の国勢調査結果をもとに、洪水浸水想定区域内の人口と世帯数を割り出した。その結果、20年間の区域内の人口は4.4%増の約3540万人、世帯数は47都道府県全てで増え25.2%増の約1523万世帯となった。

「単独世帯の増加や核家族化によって、浸水リスクの高い土地の住宅開発が各地で続いているからだと考えられます」

■「居住誘導」などの対策

 今回、被害にあった自治体はどうなのか。世帯数増加率を見ていくと熊本県は18.9%。さらに6日から大雨が降り、命を守る最善の行動を求める「レベル5」の「大雨特別警報」が出た福岡、佐賀、長崎の世帯数増加率は福岡38.4%、佐賀15.1%、長崎22.7%。8日に大雨特別警報が出た岐阜は21.5%、長野は20.2%といずれも2桁以上で、浸水リスクは高いといえる。

 浸水リスクのある洪水浸水想定区域は、国交省がホームページで公開している「重ねるハザードマップ」で、ある程度は確認が可能だ。同ハザードマップの「洪水」エリアが、洪水浸水想定区域とほぼ重なる。

 河川工学が専門の京都大学の今本博健(ひろたけ)名誉教授は、水害を防ぐにはダムに頼らない治水が必要だとして、こう話す。

「ハード面では、川底を掘り水量を増やす浚渫(しゅんせつ)が必要。ただ、今回のような球磨川で降った雨は防ぎようがなかった。ソフト面での対策として、避難計画の拡充も重要です」

 秦准教授は、今や特定の場所が危ないとは言えなくなっているとして次のように語った。

「今後、住民は危ないところにはできるだけ住まないようにする。また、千寿園のような高齢者施設は原則として洪水浸水想定区域内につくらないなど、行政による開発の制限も必要です。人口減少下で、持続可能な地域のあり方を考えた場合、災害リスクの低いエリアに住宅を誘導する『居住誘導』を行うなどの対策が不可欠です」

 もちろん、一人ひとりが非常持ち出し袋などの備えを点検し、いざという時に命を守る行動をためらってはいけない。(編集部・野村昌二)

※AERA 2020年7月20日号より抜粋