棋界の勢力図が変わろうとしている。史上最年少での藤井聡太二冠誕生は大きな話題となったが、そのほかにも目が離せない熱戦が続いているのだ。今後の将棋界はどうなるのか、AERA 2020年9月7日号では、藤井二冠とも対戦した渡辺明名人に話を聞いた。



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 この夏、将棋がかつてなく熱い。棋聖の初タイトル獲得から35日で王位も奪取、史上最速ペースの更新を続ける藤井聡太二冠(18)。その驚異の高校生に棋聖戦で苦杯を喫した当代最強棋士が、悲願の名人をついに戴冠した。そして名人位を失った豊島将之竜王(30)が永瀬拓矢二冠(27)に挑む叡王戦は、引き分け二つで七番勝負で決着がつかない異例の熱戦が続いている。コロナ禍が招いた過密日程が、見るものに息つく間も与えない。盛り上がりに拍車がかかる将棋界について、渡辺明名人(36)に聞いた。

──まずは初挑戦での名人位獲得おめでとうございます。

 ありがとうございます。少しずつ実感が湧いてきたかなというところです。ずっと挑戦できなかった頃と比べて、この2年ぐらいはいい状態で指せているので、その中で(自分に名人の)順番が回ってきたのかなという気はしますね。

──竜王、棋王と永世称号の資格を持つものを含め、5タイトルを計25期獲得しながら、名人、王位、叡王戦とは縁がありませんでした。中でも名人戦の挑戦者を決める順位戦は、持ち時間が6時間と長いことが苦戦の原因の一つとされていました。

 確かにそういうことを言っていましたけど、それって挑戦できなかったことへの言い訳に過ぎないですよね。どういうふうに持ち時間が合っていないのかと聞かれても、理論的に説明できない。だから、他の棋戦と違ってなぜ挑戦できないのかの理由づけとして「持ち時間が合わないとかそんな感じですかね」って言っていただけで。

──一時、調子を落としてB級に陥落しながら、V字回復して好調を維持している要因は?

 生活習慣を大幅に変えるようなことはしていないんですけど、AI(人工知能)を参考にして作戦を事前に入念に立てるようになってからはいい状態で指せている感覚はあります。

──新型コロナウイルス感染拡大の影響で、従来4月スタートの名人戦が2カ月延びるなど日程も窮屈になりました。

 4月、5月は確かにまとまった時間があったので、その間に準備できた作戦を使って勝つような将棋はありました。でも実際に6月に再開されるとそれはそれで大変でした。いくらダブルタイトル戦とは言っても、中1日でやるようなことは基本的にはないので。まあ上位の3、4人はみな同じような日程でやっていたので仕方のないところがありますね。それと、棋聖戦は負けてしまったんですけど、名人戦が続いていたし、他の対局もなんやかんやあったので、落ち込むようなこともなく感情的な影響はありませんでした。

──八大タイトルの勢力図について、渡辺名人から見た他の戴冠者の特徴はどうでしょう。

 藤井さんは終盤力がすごいけど、他の人たちは僕も含めてそれほど個性はありません。指す戦型はそれぞれ決まっているのでオールラウンダーではないんですが。要するにAIを用いて研究をする、そして中終盤はある程度高い精度で指すことが今活躍するために求められる条件なので、そこはみな共通項になっています。

──藤井二冠と対戦していて、他の棋士には感じないような感覚を覚えることはありますか。

 ありますね。終盤の読みの速さが違います。大人も交じった詰将棋の大会に12歳で優勝しちゃうような人なんで。普通考えられないです。そんなことができちゃうので、もともと読みのスピードが違うんですね。

──中学生で棋士になったのはこれまで加藤一二三九段(80)、谷川浩司九段(58)、羽生善治九段(49)、そして渡辺名人と藤井二冠の5人だけ。以前、藤井二冠とは全盛期同士での対局は少ないのでは、とおっしゃっていました。

 18歳離れていますからね。僕と羽生さんは14歳差なので、それと比べたら戦う回数は減るだろうという感覚はありました。でも、デビューしていきなり29連勝したのでその時点で高校卒業までにタイトルを取るだろうというのが大方の見解でした。わずかに停滞してタイトル戦にはまだ絡まないかなという時期がほんの一瞬ありましたけど、この1年で一気にきましたね。

(構成/編集部・大平誠)

※AERA 2020年9月7日号より抜粋