お酒を飲まないのに健康診断で肝臓が引っかかった──。近年、こうしたケースが急増している。背景にあるのは食べすぎや運動不足で、進行すると肝硬変になる。肝硬変からは肝がんになりやすいことも明らかになっている。



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 肝炎とは肝臓の一部が破壊され、炎症やその治癒反応として線維化(細胞の跡を埋めるために線維が肝臓の中にたまる)が起きている状態のことだ。

 近年、増えている非アルコール性脂肪性肝炎(以下、NASH)はこうした肝炎の一種だ。新型コロナウイルス感染症の影響で「巣ごもり」の人が増える中、病気の進行が懸念されている。横浜市立大学医学部肝胆膵消化器病学教室主任教授の中島淳医師は言う。

「NASHの人は心筋梗塞や脳卒中を発症するリスクも高い。睡眠時無呼吸症候群やCKD(慢性腎臓病)、乳がん、男性の場合は大腸がんになりやすいこともわかっています」

 NASHのベースは肝臓に中性脂肪が蓄積される(5%以上)脂肪肝という病気だ。お酒を飲まない、あるいは飲んでも1合程度の人に起こり、「非アルコール性脂肪性肝疾患(以下、NAFLD<ナッフルディー>)」と呼ばれている。NAFLDの患者のうち肝炎のNASHに進行するのは約10〜20%だ。早くて10年、多くは20〜30年かけて発症する。

■ 肝臓は沈黙の臓器 4人に1人が罹患 

 NAFLDはかつて「良性の脂肪肝」とされていた。
「しかし、1990年代半ばからアメリカで飲酒をしない人から原因不明の肝硬変が見つかるようになり、その危険性が明らかになってきたのです」(中島医師)

 NAFLDの患者数は世界的に増えており、全世界の推定有病率は26・8%、日本における国内推定患者数は約2千万人で、成人の4人に1人が罹患している。

「専門家は皆、危機感を持っています。なお、男性は30代以降の中年に多く、女性は若いときは少ないですが、閉経後に激増します。加齢や閉経にともなう女性ホルモンのエストロゲンの低下とかかわっていると考えられます」(同)

 NAFLDやNASHの原因は明らかではないものの、肥満(BMI25以上)と運動不足が確実な危険因子とわかっている。また、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧があるとNAFLDやNASHの発症リスクが高まることが明らかだ。

 特に影響するのが2型糖尿病で、インスリン抵抗性(血糖をコントロールするホルモンであるインスリンの効きが悪くなった状態)との関係が指摘されている。NASH患者の20〜75%に2型糖尿病や糖尿病予備軍の状態が認められたという報告もある。

 このほか業務用の油などに多く含まれるトランス脂肪酸や食品添加物や保存料の一部が発症に関与している可能性を指摘する研究者もいる。中島医師の研究では歯周病菌の関与も明らかだ。NASHの患者群は健常な人に比べて、歯周病の代表的な菌である「Pg菌」の保菌率が高く、50%にもおよんだという。

 肝臓は沈黙の臓器といわれ、肝炎になっても症状はほとんどないため、「NASHになりそうな、たちの悪い脂肪肝(NAFLD)」(中島医師)を拾い上げる検査法が注目されている。

 それが「FIB−4index(フィブフォーインデックス)」だ。血液検査では肝機能の障害を示すAST(正常値30以下)やALT(正常値30以下)の値が高く、血小板数(正常値14・5〜32・9)が低い場合、進行した肝炎や肝硬変が疑われる。

■ 普通の検査では見つからない

 FIB−4indexはこれが類推できる指数で、「年齢×AST/血小板数×√ALT」の計算式で評価する。1・45以上はNASHの可能性があり、3・45以上は進行したNASHの可能性が高い。また、NASHの中には肝機能の数値が正常な人もいるが、普通の検査では見つからない。この計算式では肝臓の線維化を示す血小板の数値も入っており、こうした隠れNASHも発見できるという。

「計算式はすでに健診や人間ドックの電子カルテに組み込まれていることが多い。一般のクリニックでもチェックできます。糖尿病などがある人は主治医に相談して調べてもらうといいでしょう。なお、この検査は正常値の的中がほぼ100%、つまり、1・45未満であれば現在は脂肪肝があっても心配のない状態で、年に1回程度の経過観察でOKです。もちろん、油断しすぎてはいけませんが……」(同)

 なお、検査は血液検査や腹部超音波検査、腹部CT検査などでNAFLDが見つかった人が受けるのが基本だ。

 FIB−4indexでNASHが疑われたら肝臓の専門医を紹介してもらい、正確な診断をつけてもらう。

 かつては1泊2日の入院で肝臓の組織の一部を採取する「肝生検」が主流だった。その後、負担の少ない方法が研究され、現在は肝臓専門超音波、「超音波エラストグラフィー」でおこなうのが一般的だ。

 検査は超音波を発生させる装置を脇腹にあてるというもの。振動は肋骨の間を通り、その伝達速度によって肝臓の硬さを測定することができる。

「この検査では肝臓に蓄積された脂肪の量も正確に測ることができます。このため治療効果を確認する検査としても有効です」(同)

 小柄で肋骨の間が狭い人や肥満度が高い人は画像が正確に得られないことがある。その場合は次の手段として、腹部のMRI検査が有効だ。「MRエラストグラフィー」という専用の機器で肝臓の様子が画像化できるようになっている。

 なお、進行すると肝硬変から肝がんになる可能性もあるNASHだが、肝がんの手術や治療については、手術数や治療数を病院選びの参考にしてほしい。週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2020』では、全国の病院に対して独自に調査をおこない、手術数の多い病院をランキングにして掲載している。ランキングの一部は特設サイトで無料公開している。「手術数でわかるいい病院」https://dot.asahi.com/goodhospital/

(狩生聖子)

<取材した医師>
横浜市立大学医学部肝胆膵消化器病学教室主任教授 中島淳医師