多くの日本人が悩む肩の痛み。その中でも、関節の軟骨がすり減り、骨同士がこすれ合うことにより、骨が変形して痛みを発症するのが変形性肩関節症だ。週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』では、高齢化で増加している変形性肩関節症の症状や原因、治療法について専門医に取材した。



*  *  *
 肩関節は、肩甲骨側の受け皿(関節窩)に、上腕骨のボール状の骨頭がはまった不安定な構造をしている。

 関節の動きを滑らかにしている軟骨がすり減り、骨同士がこすれ合うと、骨が変形して変形性肩関節症を発症する。強い痛みや腫れ、肩の動きの障害などが表れ、X線検査をすると上腕骨と肩甲骨の隙間がなく、上腕骨の骨頭の変形が見られる。

 変形性肩関節症は、高齢化で増加しているが、骨折や脱臼などの外傷後に生じる場合や、それ以外の原因でも起こる。あさひ病院スポーツ医学・関節センター長の岩堀裕介医師はこう話す。

「はっきりとした原因疾患がない、老化による一次性の変形性肩関節症は頻度が高くありません。ほとんどは何らかの原因疾患による二次性で、その原因のうちもっとも多いのが肩腱板断裂です。肩腱板は不安定な肩関節を安定させる役目があり、切れると骨がずれてこすれ合い、変形します」

■痛みの緩和とリハビリが有効

 変形性肩関節症の治療は、まず初めに、薬物療法、リハビリ療法などの保存療法をおこなって痛みと炎症を緩和する。薬物療法は、非ステロイド性抗炎症鎮痛薬などの内服あるいは外用剤を処方する。痛みがかなり強い場合、関節内の炎症を抑えるため、ステロイド薬や関節の潤滑油である滑液に含まれるヒアルロン酸を関節内に注射することもある。痛みが軽くなってきたら、リハビリ療法を開始する。船橋整形外科病院スポーツ医学・関節センター長の菅谷啓之医師は次のように言う。

「不良姿勢を正し、肩甲骨や胸郭、骨盤の動きを改善するリハビリ療法を受けることによって、肩の動きがよくなり無症状で日常生活が送れるようになる症例も少なくありません」

 しかし、これらの保存療法では効果が見られず、夜間の痛みや動きの制限などで日常生活に困る場合は、手術が検討されるという。

 変形が軽い人で、関節内の炎症を起こしている組織や骨・軟骨のかけらを取り除くだけで済む場合には、肩の関節内に内視鏡と手術器具を挿入しておこなう関節鏡視下手術が選択される。上腕骨の変形があるが肩甲骨の変形がほぼない人は、上腕部の骨頭だけを人工骨頭に置き換える手術をする。

 より重度になり肩甲骨の受け皿もかなり変形していれば、人工肩関節全置換術が必要だ(イラスト参照)。上腕骨の骨頭と肩甲骨の受け皿を人工肩関節に交換する手術で、腱板が切れていないことが条件になる。

「手術でどれくらい改善するかは、個人差があります。痛みは比較的よく取れますが、手術後の動きについては、手術前の機能、特に腱板の状態によって左右されます」(岩堀医師)

 腱板断裂性の変形性関節症で腱板機能が失われている場合、普通の人工肩関節を入れても肩を動かせないため、以前は大きな人工骨頭置換をするくらいしか方法がなかった。しかし、2014年4月にリバース型人工肩関節(イラスト参照)が日本でも認可され、新たな選択肢が生まれた。

「リバース」は「反対」を意味し、従来の人工肩関節と比べて、骨頭と受け皿が逆さまになっている。深くて大きい受け皿によってかみ合わせがよくなり、回転中心が内側に入り、かつ上腕骨が少し下がることで三角筋の力が十分に発揮できるため、腱板がなくても三角筋だけで腕を上げられる。

「修復不能な腱板断裂を伴う変形性肩関節症でも、人工関節を使えるようになりました。日本では腱板断裂性変形性関節症が多いため、従来型よりリバース型を用いる症例が多くなっています」(同)

■熟練した専門医の手術を受けるべき

 リバース型人工肩関節置換術は、日本への導入以前、合併症が多い手術であることが知られていた。

「手技が未熟だと、肩関節の先端部分にある肩峰の骨折、感染症などの合併症の発生率が高くなります。経験豊富な熟練した専門医のいる病院で、手術を受けるべきでしょう」(菅谷医師)

 リバース型人工肩関節置換術を実施できる病院は、現在全国に100施設以上あると言われている。積極的に実施する病院と、なるべくやらずに慎重に適応を選ぶ病院とがあるようだ。

 困っている症状、希望する活動レベルなどを医師と話し合い、納得したうえで手術するか決める必要がある。

「リバース型人工肩関節は、構造を変えてしまうため、いわば最終手段。適応は原則70歳以上で機能障害が著しい人に限られており、若い人にはあまりやりません。長期使用により何年もつかは、日本では導入されて数年しかたっていないため、まだはっきりしていません。海外の使用例からは10年くらいで人工関節破壊やノッチングと呼ばれる肩甲骨下方での骨吸収が起こることが危惧されており、素材の改良や術式の工夫が試みられています」(同)

 リバース型人工肩関節では、従来の人工関節より術後のリハビリが楽におこなえる。
 
 綿密なリハビリが不要で、長期間のリハビリが難しい高齢者にとって好都合だ。

「ただし、たとえ術後経過がよく、すっかり痛みが取れて手が上げられるようになっている場合でも、重労働は避け転倒などの外傷には十分注意する必要があります。人工関節が入っているので、定期的な受診と経過観察は欠かさないようにしましょう」(岩堀医師)

 変形性肩関節症は、変形が進行しすぎたり、骨の量が減ったりすると手術が困難になることも。つらい肩の痛みは我慢せず早めに医師に相談することが大切だ。

(文・坂井由美)

≪取材協力≫
あさひ病院 スポーツ医学・関節センター長 岩堀裕介医師
船橋整形外科病院 スポーツ医学・関節センター長 菅谷啓之医師

※週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』より