コツコツ働いてきたにもかかわらず突然、“クビ”を宣告されたらあなたはどうしますか? 新型コロナウイルス感染拡大の影響に便乗する形で、従業員の不当解雇が増加している。


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 東京都内に住むAさん(40代)は今年7月末、勤務していたメーカーからいきなり解雇された。Aさんは昨春に中途入社し、経営者の秘書を務め、スケジュール管理などをしてきた。

 手渡された解雇通知書には「就業規則違反」と書かれ、業務が著しく停滞したとして能力不足を指摘する内容だったという。普通解雇、整理解雇と呼ばれる、いわゆる“クビ宣告”だ。

「コンプライアンス違反を指摘されるようなことはもちろんしていないし、普通にまじめに仕事をしてきたのに……。解雇される理由が全く見当たらない」(Aさん)

 振り返ってみると、予兆はあった。

「解雇される1カ月前、反省文を書くように会社側から指示された。それに従う形で、自分がどう行動したらこれまで以上に業務を活性化できるかということを書いて提出した」

 Aさんは会社の就業規則を事前に確認していた。規則には解雇の前段階で「降格及び配置転換」との条項が設けられており、こうした処分はそれなりに覚悟していた。しかし、反省文の提出から2週間後、Aさんに解雇通知が手渡されたのだった。

「反省文を書かせたのは完全なポーズで、会社としては最初から“解雇ありき”だったのだろう。経営者からはスケジュール調整業務などにおいて難癖をつけているとも受け取れる指摘をたびたび受けて会議室で1時間以上、叱責(しっせき)されたこともある。まじめに働いてきたのに、どうしてこんなひどい仕打ちを受けなければならないのか」

 Aさんは解雇の撤回を求め、弁護士を通じて会社側と労働審判で争う方針だ。

 厚生労働省は、新型コロナ感染拡大に関連する従業員解雇や非正規労働者の雇い止めが、9月4日時点で見込みも含め5万2508人になったと明らかにした。

 2月からの累計をみると、8月28日時点では東京都の1万1312人が最も多かった。大阪府の4194人、愛知県の2599人、北海道の2088人、兵庫県の1735人と続く。ほかに1千人を超えたのは神奈川、千葉、岐阜、福岡、沖縄などの9県だった。産業別では、製造業が7918人と最多で、宿泊業が7140人、飲食業が6912人、小売業が6257人だった。

 ただ、こうした数字は各都道府県の労働局やハローワークに相談があった事業所の報告に限られるため、あくまで“氷山の一角”とみられる。

 さらに「コロナ禍に便乗した解雇が増えつつある」と指摘するのは、日本初のオンライン型労働組合「みんなのユニオン」代表の、アトム法律事務所弁護士法人グループの岡野武志弁護士だ。

「これまで扱った100件のうちで実際には懲戒解雇が最も多かったが、今年に入ってからは整理解雇の割合が増え、そこにコロナが拍車をかけている。コロナ禍で売り上げが激減するなど整理解雇として認められるケースはあるが、売り上げが芳しくない中で気に食わない従業員をこのタイミングで解雇しようという便乗も目立つ」

 前述のAさんのケースについても、コロナ便乗型の可能性があるという。

「会社側があまり考えずに、とにかく解雇を優先させたのではないか。一般的に従業員を解雇するとなると、まず労使双方が話し合って、再教育したり、配置転換したりとステップを踏まなければならない。これを面倒くさいからと解雇したケースだと思う」(岡野弁護士)

 Aさんは会社側に解雇無効を申し立てる方針だが、実際の流れはどうなっていくのだろうか。

「解雇をめぐっては、弁護士を通じた交渉によってほぼ解決する。ただ、全体の2割くらいは会社の言い分が妥当だとして、解雇が有効とされるケースがある。また、法律上は間違いなく解雇無効と裁判所で指摘されるようなケースであっても、それを経営者側が突っぱねる場合もあり、これは労働審判や民事裁判で係争する」(同)

 労働審判は民事裁判よりも早めに結審しやすい。会社側が裁判で負けると、判決が確定する期日までは賃金を払い続けなければならず、金銭解決が進むためだという。

「交渉にあたっては証拠となる資料が重要。就業規則はしっかりとコピーしておくこと。解雇された場合、照らし合わせることで解雇の根拠がわかる。経営者に詰められ、退職を迫られたという場合も、その音声記録があると重要な証拠となる。退職勧奨を受けたら、速やかに弁護士に相談してほしい」(同)

■ユニオンへ相談 内部告発も支援

 会社の組合組織に守られていない働き手の“駆け込み寺”として、個人が加入できる様々な「ユニオン」が全国各地にある。ユニオンが前面に立って、会社に対して解雇の不当を訴えたり、職場改善を求めたりしてくれる。

 今年2月に立ち上がったみんなのユニオンもその一つだ。新型コロナの影響もあり、基本的なサービスはすべてオンラインでやりとりできるのが特徴で、加入や脱退の手続きも簡単だという。現在、契約社員や失業中の人をはじめ、いろんな労働者930人超が加入し、サービスを利用する。

 みんなのユニオンは独自の「公益通報サービス」で、会社の法律違反行為を内部告発する人の支援もしている。経営者などからハラスメントを受けたり、不正を目にしたりした際に通報すれば、弁護士がその違法性を判断。会社側に疑わしい点があれば、事実確認や改善を求める「通知書」を、相談者の名前を伏せてユニオンが送付するものだ。

 先が見えないコロナ禍での、いきなりの便乗解雇……。私たちの働き方はどう変化していくのだろうか。

 労働問題に詳しい楠木新さんはこう話す。

「そもそも新型コロナ感染が拡大する以前から『日本型雇用』を変えていこうという動きがあり、利益が上がっている有名企業の早期退職募集も目立ち始めていた。コロナのもとで経営環境が厳しくなり、リモートワークなども拡大する中で、大企業を中心とした職務などを明確に定めた『ジョブ型雇用』への切り替えの流れがさらに加速するかもしれない」

 こうした時だからこそ、若年層やミドル層が新たな働き方を模索すべきだと強調する。

「今までの会社に依存する働き方から脱却する必要がある。例えば、社員は雇用契約ではなく、個人事業主として会社と業務委託契約をするというケースも徐々に増えていくだろう。これからは会社にぶら下がっている社員は、より厳しい立場に置かれることになる」

 自分には仕事や職場で活用できる、どんな“ポータブルスキル”があるのか。日々見つめ直しながら進化させることが、突然の解雇への唯一の対処法といえるかもしれない。(野田太郎)

※週刊朝日  2020年9月25日号