「あなたの最も安全なセックスパートナーはあなた自身です!」



 そんな思わず耳を疑うような呼びかけをしているのは、アメリカ・ニューヨーク市の保健局だ。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、コロナ禍での性交渉に“新しい様式”を取り入れるよう求めている。公式ホームページでは、その他にも「自慰はCOVID−19を広めません」「(自慰の)次に安全な性交渉の相手は同居するパートナーである」と訴えている。そして、性交渉の相手を身近な人に限定することや、行為の際にマスクを着用するなど、「創意工夫をこらした」営みを推奨している。

 性交渉による感染リスクが高いことは想像に難くない。だが、具体的にどのような行為が感染リスクを高めるのか。性感染症などに詳しい獨協医科大学越谷病院の小堀善友医師はこう解説する。

「これまでの研究では、感染者の唾液や便からウイルスが検出されています。新型コロナが、咳やくしゃみなどの飛沫から感染することはご存知のとおり。性交渉では多くの場合キスをするでしょうから、その際に唾液を介して感染する可能性があります。また、パートナーの肛門周辺をなめるといったことも避けたほうがよいでしょう」

 一方で、性交渉そのもので感染することは、現時点では確認されていないようだ。

「4月に発表された中国の研究によれば、新型コロナ感染者の精液からもウイルスが検出されたそうです。しかし、実際に精液を介して感染したというケースは確認されていません。また、新型コロナに感染した女性10人の膣粘液を調べたところ、膣内にウイルスはなかったそうです。これらのことを踏まえると、性器が触れ合うという意味での性交渉そのものによる感染より、それに付随した性行為の方が感染リスクが高いと言えそうです」(小堀医師)

 中国・武漢の調査では、新型コロナ患者の42.9%が、性行為のパートナーにウイルスを感染させていたという報告もある。そういう意味では、性交渉での行為全体でみれば、感染リスクはあると言えそうだ。

 小堀医師は、現実的な感染対策として、

(1)性交渉の相手を限定する
(2)熱や咳が出ている人とは性交渉をしない
(3)必ずコンドームを使い、行為の前後には手を洗うこと

 の3点を心がけるよう呼びかけている。

 性交渉に“新しい様式”を導入するよう求めているのは、ニューヨークの保健局だけではない。例えば、性に関する情報や研究結果を発信している「国際性機能学会」は、コロナ患者に対し、「テレフォンセックスや、スマホを使ってパートナーとエッチなやりとりをしましょう」と呼びかけている。

「性交渉以前に、患者は安静にしたほうがよいのでは?」などとツッコミたくもなるが、女性向けアダルトグッズを手がける国内ブランド「ラブコスメ」が、女性会員1954人に対して行った調査では、半数以上の約52%が、オンラインを使った性行為に「関心がある」と回答している。未経験者にとっては抵抗感がありそうなオンラインセックスだが、意外にも関心を持っている人は一定数いるようだ。

 夫婦の問題などについて執筆や講演をしている「恋人・夫婦仲相談所」所長の三松真由美さんは、コロナ禍で「オンラインセックスついての相談が増えている」と実感している。オンラインセックスとは、具体的にどのような行為をするのだろうか。

「電話やメッセンジャーで性的な言葉を言い合ったり、身体を画面越しに見せあったりするのです。最近ではかなり離れた場所からでも操作できる『リモートバイブ』が発売され、コロナ禍を背景にブームになりつつあります」

 前出の「ラブコスメ」の担当者は、「これまではBluetoothによる近距離の操作しかできませんでしたが、現在発売しているバイブは、専用のアプリを使用すれば、東京〜大阪のような離れた場所からでも、アプリを介して操作が可能です。国をまたいでも通信できるので、通信状況さえクリアできれば、たとえ地球の裏側からでも、遠く離れたパートナーと繋がることができるのです」と話す。4月の緊急事態宣言の前と比較して、リモートバイブの売り上げは約140%も増加したという。

「近年は娯楽の多様化もあり、“セックスレス”が深刻でしたから、このような性交渉の『エンタメ化』を歓迎しています。リモートバイブに限らず、性交渉はもっとエンタメ化していい。感染対策にかこつけて、フェイスガード着用で性行為をしたり、マスクに性的なワードを書いてみたりして、コロナ禍の性を面白がってほしいです。単調な性交渉だけではマンネリ化しますから、こうした性行為で、冷え切ったパートナーとの関係を改善させるのも手です」(三松さん)

 確かに、交際期間が長いマンネリ気味のカップルにとっては、こうした性行為もある意味で“起爆剤”になるのかもしれない。ただ、オンラインセックスに抵抗を感じる人も多いだろう。パートナーに対して明確な意思確認をしておくことは抑えておきたい。性的同意などについて啓発活動をしている「Genesis」共同代表の高島菜芭さんはこう警鐘を鳴らす。

「コロナ禍で、セックスの回数が増えたカップルは一定数います。特に同棲しているカップルにはその傾向が強い。しかし、回数を重ねると、パートナーの性的同意を取り付けることをおろそかにしがちです。特にオンラインセックスなどについては、パートナーの意思を十分に尊重してほしいです」

 恋人や夫婦であっても、「同意のない性行為は犯罪」という考えは徐々に主流になってきた。コロナ禍でもこうしたことを忘れてはいけない。ましてやオンラインセックスでは、動画や画像、音声などのやり取りが相手に記録されうることから、リベンジポルノのリスクについても懸念がある。高島さんはこう続ける。

「コロナ禍を機に、性交渉の目的をカップルでクリアにしてほしい。身体的な快楽のためか、それとも愛情表現なのか、単に子どもをつくるためなのか。性交渉の目的を互いに一致させれば、具体的にどのような行為ならお互いに許容できるのかを話しあえるはずです。新型コロナの感染対策は人によって温度差がありますから、その点もすり合わせる必要があります。遠隔で使用できるセックス玩具も含め、さまざまな選択肢のなかから、お互いが納得したコミュニケーションを選んでほしい」

 パートナーへの思いやりをいつも以上に大切にする。それこそが、コロナ禍での性交渉に求められる“新しい様式”なのかもしれない。(AERAdot.編集部/井上啓太)