ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は、本の装幀(そうてい)について思いを巡らす。

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 このところ、オカメインコのマキの甘え方がすごい。台所はもちろん、リビング、トイレ、風呂場、よめはんの画室、麻雀部屋と、どこにでもついてきて、遊べ、遊べという。ご機嫌で歌をうたいながらそばを歩きまわっているうちはいいが、よめはんとふたり麻雀をするとき、自動卓の上で牌を蹴ったり、点棒やチップを拾って投げたりするから困る。「マキ、お昼寝しよ」と、なだめすかして仕事部屋に連れていくのだが、マキを残して部屋を出ようとすると、それを察知して、わたしの肩にとまる。いっときもわたしとよめはんのそばを離れようとしないから、また麻雀部屋にもどり、どちらかがマキを頭にのせて麻雀をすることになる。頭にフンをされても耳をかじられても、マキはかわいい。

 そんなある日──。麻雀が終わって部屋を出ようとしたとき、床に積んである本の山につまずいた。山はくずれて本が散乱する。その多くは同業の作家からの贈呈本だから放っておくわけにはいかない。いままで床置きにしていたことも申しわけないと思い、まずは地下室に行ってスチール製の書棚をひとつ空にした。えっちらおっちらと書棚を麻雀部屋に運び込み、固絞りの雑巾できれいに拭く。しかるのち、ガラス扉の本棚の隣に据えたあたりで、わたしは電池が切れた。子供のころからしんどいことをすると無性に眠くなる。

 仕事部屋にもどって昼寝をした。目覚めたのは夕方で、マキといっしょに階下に降りた。よめはんにマキを預けて麻雀部屋に入り、作業のつづきをする。

 ガラス扉の本棚から整理した。作家別に本を並べていく。久々に手にとった本にはそれぞれに思い出がある。これは○○さんが△△賞をとった本やな──とか、これはストーリーとキャラクターがよかった──とか、この本は映画もよかった──と、何ページか読んだりもする。そうして作家別に本を並べたとき、装幀に思いが至った。どこかしら作家ごとにスタイルがあるのだ。各々(おのおの)の作家が好むブックデザインかもしれない。

 感心したのは小池真理子と桐野夏生だった。このおふたりの本の装幀にはほとんど外れがない。どれも上品で色調と構成に落ち着きがあり、タイトル文字もよく考えられている。小池真理子なら『モンローが死んだ日』か。なにげない窓の写真にタイトルをのせた装幀がシックで静謐(せいひつ)だ。

 桐野夏生は『アイムソーリー、ママ』か。強い色調の中にアートを感じる。小池さんも桐野さんも装幀を編集者任せにはしていないはずだ。

 ほかにもみごとな装幀の本はいっぱいある。

 東野圭吾の『白夜行』。くすんだ黄色に白い箔(はく)をのせたタイトル文字が映える。

 宮部みゆきは『ブレイブ・ストーリー』上下か。ポップかつアートだ。

 高村薫は『空海』。清澄、孤高を感じる。

 道浦母都子は『光の河』。著者が智内兄助の絵を依頼したと訊(き)く。

 朝井まかては『雲上雲下』。装画がかわいい。

 ちなみに自作では文庫本の『国境』上下だろう。装幀家・多田和博の最高傑作だと思う。たーやんとは数限りなく麻雀をしたが、彼の本分はあくまでも装幀であり、その作品はどれもすばらしい。たーやんは必ず本を読みとおしてから装幀をした。

 自作の『後妻業』で、たーやんがよめはんの父親をモデルにした絵を使ってくれたのは、わたしのたっての頼みだった。

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

※週刊朝日  2020年11月20日号