退職金など定年前後のお金に関する決断が老後の生活を左右すると言っても過言ではありません。選択を誤ると大損をする落とし穴がいっぱい待ち受けているのです。税理士・IFAの板倉京さんが、やってはいけない5つのことをお教えします。

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 私は、日ごろ、シニアのお客様のお金のご相談にのっていますが、税やお金の知識がないばかりに損をされている方が多いことに驚かされます。後悔しないためには「お金の正解」の知識を持つことが大事です。

 定年前後のさまざまな決断は老後の資金に大きな影響を与えますが、中でも、大きな要素となるのが「退職金」です。

 退職金の支払額が決まっていたとしても、受け取り方や運用方法などを間違えると、多額の税金がかかったり、損をしたりして、老後の資金を大きく減らすことにもつながりかねません。

 ここでは多くの人がハマりがちな「老後資金を減らすやってはいけない5つのこと」についてご説明いたします。

×1 退職金の受け取り方を間違える
 実は、退職金の手取りは「受け取り方」によって大きく変わるのですが、知らない方が多いです。

 たとえば、「一時金」と「年金型」の受け取り方法を選べる会社の場合、「運用してくれそうでお得だから」と「年金型」を選ぶ人もいますが、これは多くの場合、間違いです。

 実は、退職金の「手取り」を最大化する第一のポイントは税金を低く抑えること。「一時金」でもらう退職金には、「退職所得控除額」という大きな非課税枠が、勤続年数に応じて用意されています。この額までは税金はかかりませんし、超えても超過分の半分だけが課税対象。しかも、一時金には「社会保険料」がかかりません。

 年金でもらう場合も「公的年金等控除額」という非課税枠はありますが、退職所得控除額に比べると小さくなっています。

 ですから、退職金が退職所得控除額に収まるなら、一時金でもらうほうが絶対にお得です。ただし、収まらない場合は、一部を年金にしたほうが得な場合もあります。

×2 退職金と確定拠出年金を同じ年にもらう
 また、会社が用意する退職金以外に「確定拠出年金」を受け取れる場合、同時に受け取ってしまうと、税金が多くかかり、損をすることが多いです。具体例で見てみましょう。

 退職一時金が2500万円(勤続年数38年)、確定拠出年金が650万円(拠出年数18年)のAさんの場合、退職所得控除額は、2060万円です。

 両方を一度に受け取ると、合計3150万円ですが、2060万円控除されるので超過分の1090万円の2分の1が課税対象です。この場合の所得税額は66万2500円になります。

 一方、退職の年に2500万円もらい、翌年以降に650万円をもらう場合。2500万円の課税対象は220万円で所得税額は12万2500円となり、650万円の課税対象は325万円で所得税額は22万7500円、合わせても35万円です。受け取る年を分けることでそれぞれに低い所得税率が適用されることになり、結果として同じ年に受け取るよりも約30万円もお得になるのです(ただし、合計金額が退職所得控除額の範囲内に収まるのであれば、分ける必要はありません)。

 また、確定拠出年金と退職金は4年超あけて受け取ると、両方に退職所得控除が適用されます(確定拠出年金を先に受け取る場合)。ですから、65歳で定年退職する人の場合は、60歳で先に確定拠出年金を受け取り、65歳で退職金を受け取るのが最もお得です。

 退職金で重要なのは受け取り方ばかりではありません。どう運用するかも大事です。慣れない投資に手を出して、老後資金を減らしてしまう方はたくさんいます。

 老後資金を減らす可能性が高いと私が思う、やってはいけない投資についても書いておきたいと思います。

×3 利回りが3%以内の不動産投資
 退職金でまとまったお金が入った人が走りがちなのが、不動産投資です。

 が、絶対にやってはいけないのは、利回りの悪い不動産を買うこと。

 通常、不動産投資の目安となる「表面利回り(年間家賃収入÷不動産購入価格)」は6%以上と言われていますが、現在は不動産価格が高騰していることもあり、3%以下の利回りでも買ってしまう人も多くいるようです。

 が、これはとても危険。

 表面利回り3%では、ローンの利息や、管理費、固定資産税などを払うと、手取りは期待できません。

 また、不動産価額がバブル並みに高くなっている今のような時期は、利回りが低くなるだけでなく、売却益が出る可能性も低いので、不動産投資には不向きです。

×4 手数料の高いファンドラップ・投資信託
 投資信託や、ファンドラップを金融機関に強くおすすめされることも多いと思いますが、要注意です。彼らが力を入れてすすめる商品の共通点は、「手数料が高いこと」。

 手数料には、購入するときにかかる手数料と運用している期間中にかかる手数料がありますが、手数料2%以上なんていう商品もざらにあります。たとえ運用利回りが2%出たとしても手数料を2%以上取られていたら、元本割れしてしまいます。

 実際には1%を切るような手数料でよいパフォーマンスを出している商品もあります。投資信託を買うなら、営業マンの言うままではなく、必ず自分で調べ手数料をチェックして買ってください。

 また、毎月分配型の投資信託を好まれる方も多いのですが、資産を増やすという意味ではこれもおすすめしません。

 約束した配当を出すために運用で賄えなかった場合、元本を削って払い出していくものもあります。投資の基本は複利ですから、分配金を再投資するタイプのほうが理にかなっているのです。

×5 「外貨建て保険」など理解できない投資商品
「退職金」目当てに金融機関の人がおすすめしてくる商品の一つに「外貨建て保険」があります。

 これは「利回りがよく」て「元本保証」というのが謳い文句ですが、元本保証というのは、外貨建てでの話。為替相場次第で、日本円では元本割れしてしまうこともあるのです。しかし、これを知らずに大金をつぎ込んで困った人がたくさんいらっしゃいます。

 得しかない運用商品なんてこの世にありません。そのことを念頭において、わからないときには「この商品のリスクはなんですか?」と、納得いくまで聞くことが大事です。とにかく「理解できないものには、お金を出さないぞ!」という心構えで、退職金を運用してほしいと思います。

「つみたてNISA」や「iDeCo」は、毎月一定額の掛け金で投資商品を購入するドルコスト平均法で資産を増やしますので、一度に大金をつぎ込まなくて済む上、利益が出ても税金がかからないなどの優遇もあり、お得です。投資初心者の方は、まずはこちらから始めてみてはいかがでしょうか?

※週刊朝日  2020年11月20日号