新型コロナウイルス対策でマスク生活が続く中、マスク装着時の口の乾燥や唇の荒れを訴える人が少しずつ増えてきたようです。中には歯科の受診時に「歯ぐきの乾燥」を指摘された人も。マスクによって口の中に悪影響が起こることはないのでしょうか? 歯周病が悪化する可能性は? 『なぜ歯科の治療は1回では終わらないのか? 聞くに聞けない歯医者のギモン40』が好評発売中の歯周病専門医、若林健史歯科医師にうかがいました。

*  *  *
 コロナでどこに行くにもマスクをする生活が続いています。まだ、感染者数が少ない時期に布マスクをつけてゴルフに行ったのですが、口元に顔の汗が入り込み、マスクの蒸れも加わって18ホールを終える頃にはびしょびしょに。プレーに集中できず、スコアはガタガタでした。

 患者さんにも、最近はマスクの悩みを訴える人が増えてきました。マスクを外すと口元だけが赤くなっていて、かゆみを訴えるなど、「マスクで唇が乾燥するのですが、歯の病気が原因ですか?」という質問もありました(これは歯の病気ではなく、後述の口呼吸によるものです)。

 さて、ご質問の件ですが、マスクをしていると歯周病が悪化しやすいのは本当です。

 マスクをしていると鼻が覆われるので息苦しくなるときがあります。このとき、私たちは知らず知らずのうちに、楽に空気を取り込める「口呼吸」にしていることが多いのです。

 口呼吸が続くと口の中や歯ぐきが乾燥しやすくなります。そして唾液(だえき)が十分にいきわたらなくなります。

 唾液は歯周病予防にとても重要な働きをしています。歯の表面などについた食べカスを洗い流す作用や、細菌の繁殖を抑え、防御する作用、酸性に傾いた口の中を中性に戻す作用など、さまざまな自浄作用があるからです。このため口呼吸になると歯周病はもちろん、むし歯になりやすいのです。

 また、口の粘膜には腸と同じように、「粘膜免疫」という免疫システムがあり、IgAという抗体がからだに害をおよぼす細菌を排除しています。この仕組みには唾液が深く関係しており、口呼吸で口の中が乾燥すると免疫が十分に働かなくなることで、歯ぐきが歯周病菌に負けやすくなることもあります。

 実際、歯並びの問題で唇を閉じられない人は、口呼吸によって口の中が乾燥し、ひどいむし歯や歯周病になることがとても多いのです。そうした患者さんの歯を見るとプラークがカチカチに歯にこびりつき、除去に手間取ります。歯ぐき全体が赤くはれていて、一目で歯周病とわかることも多いですね。

 いずれにしても、マスクをしていると口の中が乾燥しやすい、唇が荒れやすいといった症状は口呼吸のサインなので、このような場合、人がいないところではマスクを外すこと、周囲に配慮しながら、口の中をうるおすためにこまめに水分(水かお茶)を取ることをおすすめします。

 また、粘膜免疫をきちんと働かせるために、歯みがきやデンタルフロスで口の中の細菌を減らすことも大事です。また、口の中の善玉菌を増やす働きのある乳酸菌製剤やこれを含むヨーグルトなどを取ることで、粘膜免疫の働きをアップさせることもよいのではないでしょうか。

 口呼吸にはほかにもさまざまな害があります。まず、鼻呼吸では外の空気がからだの中に入る前に鼻で汚れやウイルスを捕捉しますが、口呼吸では直接、有害物質が入ってくるため風邪にかかりやすくなり、アレルギー症状のリスクにもなります。

 また、寒い空気、温かい空気がもろに入ってくるので、これがのどや肺の刺激になることも。また、口呼吸で顔の筋肉が適切に使われなくなると、たるみやシワなどが起こりやすいといえるかもしれません。女性には深刻な問題ですね。

 なお、お子さんの口呼吸はマスクではなく、アレルギー性鼻炎による鼻づまりや扁桃(へんとう)肥大によるものが多いです。将来、歯並びやかみ合わせの異常を引き起こす原因となるので、早めに対処することが大事です。気がついたら、まずは小児歯科や耳鼻咽喉科に相談することをおすすめします。