今年も「確定申告」シーズンがやってくる。この経費は認められるのか、もしかしたら税務調査の対象になるかもしれない。そんな不安を抱く人もいるだろう。税金のプロである元国税職員に本当のところを聞いた。



実際、認められるかどうかの基準はグレーなものも少なくない。医療費もそうだ。医療費は年間10万円を超えた分は、医療費控除として納税額のもとになる所得から差し引ける。

 例えば、同じマッサージ代でも、治療が目的の場合は対象になるものの、疲れをとったり、体調を整えたりする目的だと認められない。その見極めは「医師の指示がある」など、やはり税務署に対して合理的な説明ができるかどうかだ。

 それでも、「認められるかどうか、判断に迷ったときも合理的な理由があれば申告すべき」と元国税調査官の松嶋洋税理士。「税務署も、ほかの職場と同じように人手や時間に限りがあります。より悪質な不正取引を見つけることに集中したいという思いや、『少額不徴収』という考え方もあります。経費を払ったという事実があって、合理的な説明ができるなら、認められやすい。税務署の指摘や税務調査を必要以上に恐れることはありません」

 税務調査の多くは、任意調査だ。あくまで本人の協力が必要で、強制されるものではない。

「税務当局の調査というと、国税局査察部による査察調査を思い浮かべる人も多いようですが、こうした強制調査は、悪質で巨額の脱税などのケースに限られます。大半の税務調査は、売り上げや経費が例年に比べて大きく異なるなど、書類だけで判断できないことを確認するために行うことが多い。実地調査を行う場合も、多くは事前に納税者と日程を調整します。税務署から連絡が来ても、慌てずに落ち着いて対応しましょう」(元国税専門官でフリーライターの小林義崇さん)

 とはいえ、いいかげんな姿勢ではいけない。佐川さんは、次のような人は税務署から目をつけられやすいと指摘する。

 まず、申告する収入(売上高)を毎年950万円前後に抑えているような人。原則として2年前の売上高が1千万円を超えると、消費税の申告義務が生じる。このため、「納税を逃れるために所得を調整しているのではないか」と疑われやすいという。

 次に、架空の副業で赤字が出たように装う「エア副業」。全体の所得から、その赤字分を引く「損益通算」で納税額を少なくしようとする行為だ。会社員の場合、副業で出た赤字が会社からもらった給料を上回ると、確定申告をすれば天引きされた「源泉所得税」が全額返ってくる。

「明らかな脱税で、税務署から指摘されたら重加算税が課されたり、額によっては査察事案に発展したりする可能性もあります。絶対にやってはいけません」(元国税調査官で税理士の佐川洋一さん)

 架空でなくても、副業で得られた収入は注意が必要だ。佐川さんのもとにも、副業に関する相談が増えているという。

「事業所得として認められれば、給与所得との損益通算は可能ですが、雑所得だと損益通算はできません。『反復継続性の有無』などによって区別されるのですが、勝手に判断せずに税務署や税理士に相談するのが賢明です」(同)

 仮想通貨で高収入を得た「億り人」や、商品転売で稼いだ「転売ヤー」も、申告を忘れてはいけない。

「国税局や税務署には電子商取引などの専門の担当者がいて目を光らせています。取引などの情報は入手することもでき、申告漏れがあれば指摘を受けやすい。とくに注意したいのは最近、相場が上がっているビットコインなどの仮想通貨。忘れがちなのは、仮想通貨同士の交換で利益を上げたケースです。現金に換えていなくても、もうけが出ていれば申告する必要があります」(同)

 このほか、売上高から税金などを引いた、いわゆる「手残り」が著しく低い人や、同規模同業者に比べて粗利率が著しく低い個人事業主などは目をつけられやすいという。調査の対象になりやすい主な例のリストを上に示したので参考にしてほしい。

 前回の19年分の確定申告は、新型コロナの影響で期限が延びた。今回も、延期される可能性は残る。だが、小林さんは「申告の内容よりも、期限を守ることを優先したい」と注意を促す。

「申告の内容に不備があった場合に科されるペナルティーと、申告の期限に遅れて無申告の扱いになってしまった場合の罰則を比べると、無申告のほうが重い。100%の内容を目指すよりも、まずは期限内に間に合わせるようにしましょう」

 無申告の場合の「無申告加算税」の税率は、本来納める税額が50万円までは15%、50万円を超える部分は20%。所得額を少なく申告するなどした場合の「過少申告加算税」よりも5%ずつ重い。また、過少申告加算税は、本来払うべき税額と申告した額の差額をベースに計算するのに対し、無申告加算税は、本来払うべき税額そのものをもとに計算する。

 本来納めるべき税金が200万円なのに、無申告もしくは100万円しか払っていなかったケースを想定すると、無申告加算税は50万円×15%+150万円×20%=37万5千円に対し、過少申告加算税は(200万円−100万円)×10%=10万円で、大きな差がある。

 税金はコロナ禍でも容赦なくとられ、逆に、払いすぎても税務署が教えてくれることはない。知らないまま放っておくと、損をするだけだ。大変な時期だからこそ、しっかり備えたい。(本誌・池田正史)

※週刊朝日  2021年1月29日号より抜粋