介護保険料の滞納により差し押さえ処分を受ける人が増えている。滞納する理由は何か、滞納した場合どのような処分を受けるのか。生活が苦しく保険料を納めることができない場合の対応とは?



*  *  *
 長年、群馬県で生活困窮者を支援してきた司法書士の仲道宗弘さんは、「月数千円の介護保険料が払えないほど生活が苦しい高齢者は珍しくない」と話す。

「これまで相談を受けたケースでは、定年後に、パートで生活費を稼いでいたものの、父親が入所した介護施設の費用の支払いで生活が圧迫され、介護保険料を滞納してしまった方がいました。また、高齢の夫妻で自営業をしていたものの、夫が重度の糖尿病で働けなくなり、年金も2人合わせて生活保護基準以下しかなく困っているという相談もありました」

 厚生労働省が発表した「令和元年度介護保険事務調査の集計結果」によると、2018年度の介護保険料滞納による財産差し押さえ処分者数は1万9221人。この数値は、調査開始以来最多であり、滞納による処分者数は年々増加している。

 要因の一つとして考えられるのが、介護保険料の値上がりだ。介護保険制度が開始した00年度、介護保険料の全国平均月額は2911円だったが、18年度からは5869円と倍以上に上昇。一方で、老齢基礎年金(満額)の支給月額は、00年度から18年度にかけて2075円減少した。介護保険料の上昇分を加味すると、手取り収入が月約5千円減ったのと同じことになる。さらに25年度には、介護保険料が7千円前後になると推計されており、年金生活者の家計への圧迫が強まっている。

「こうした負担増は、低年金者ほど影響が大きい。生活保護を受けられればいいが、『家や車を持っていたら保護が受けられない』といった誤解も根強く、生活が苦しくても支援につながらないケースも多くある。今後も滞納者数は増加すると思う」と仲道さんは語る。

 そもそも介護保険料の支払い方法には、給与や年金から天引きされる「特別徴収」と、納付書や口座振替で支払う「普通徴収」の二つがある。このうち普通徴収の対象となる(つまり保険料の滞納リスクがある)のは、年金受給額が年18万円未満の低年金の高齢者だ。

 一方、経済的に苦しくなくても、介護保険料を滞納してしまう人も意外と多いという。都内でも高齢化率が高い足立区の介護保険課課長を務める小口信一さんは、「65歳になって、一時的に普通徴収になったことに気付かず、保険料を滞納してしまうケースが少なくない」と指摘する。

 じつは特別徴収の対象者であっても、即座に保険料が年金から天引きされるわけではない。年金機構の事務手続きに半年から1年ほど時間を要するため、その間は納付書で保険料を納める必要がある。また、引っ越しなどにより居住地の自治体が変更となった場合なども、一時的に普通徴収となるため注意が必要だ。

 では、介護保険料を滞納した場合、どんな処分を受けることになるのか。

「介護サービスを利用した際には、滞納した日数に応じて、給付制限などの措置が取られる場合があり、一時的に介護サービスの利用料を全額支払わなければならなくなったり、自己負担割合が3〜4割に引き上げられたりします」(小口さん)

 給付制限は3段階あり、未納期間の長さによって制限内容が変わる。これ以外にも、自治体からの催告を無視して納付に応じないと、財産の差し押さえ等の滞納処分を受ける場合がある。

「ただし滞納処分を実施するのは、調査を行ったうえで、十分な収入や預貯金があると判断した方に限ります。やむを得ない事情があったり、生活が苦しくて保険料が納められない方には分納相談や軽減制度の利用を案内しており、すぐに財産を差し押さえることはありません」(同)

 では、どんな場合に軽減制度が使えるのか。

 まず、地震や風水害、火災等の災害によって住宅や財産が損害を受けた場合、その被害の程度に応じて保険料の減免が受けられる。また生活困窮者を対象とした軽減制度が用意されており、要件に該当すれば保険料が年間数千〜1万5千円(自治体により異なる)ほど軽減される。さらに昨年から、新型コロナの影響により収入が減少した人を対象とした減免制度も全国で始まったので、心当たりがある人は自治体に問い合わせてほしい。

 ただ、こうした軽減制度は、生活実態に即した制度設計になっているとは言い難い側面もある。兵庫県議会議員で、宝塚市を中心に生活困窮者の支援活動に取り組んできた練木恵子さんは、「軽減制度を利用する上で、世帯収入が大きな障壁となる場合がある」と話す。

「国保も同じですが、介護保険料は世帯収入によって算定されます。高齢者本人の収入が著しく低くても、同一世帯の妻や子の収入が合算されることで、軽減制度を受けられないこともあるのです」

 妻や子に十分な収入があれば問題ないが、「相談に来られる方の多くは、“一人ひとりが貧困状態”にあり、家族の保険料まで支払う余裕はない」と練木さんは言う。その場合、世帯分離によって家計を分けることで制度を利用できることもあるそうだ。

「日本の福祉は申請主義。せっかく軽減制度があっても、貧困家庭ほど存在を知らなかったり、利用を拒んだりする現状がある。こうした情報格差を解消していかなければ、支援を行き届かせることはできません」(練木さん)

 今後、アウトリーチの強化が、滞納者を減らす鍵になりそうだ。(ライター・澤田憲)

※週刊朝日  2021年2月19日号