コロナ禍で生活が変わり、血圧や血糖値などが気になるという人も多いのでは。ただ、健康診断などで示される「正常値」を絶対と考えるのは危険だ。コロナの自宅療養者に貸与される「パルスオキシメーター」についても注意する必要がある。



*  *  *
 新型コロナウイルスに感染し、自覚症状がないまま容体が急変して亡くなる事例が起きている。肺炎による酸素不足の異変を知るために、血中の酸素飽和度を測る機器「パルスオキシメーター」が自治体から自宅療養者に貸与されている。

 指を数秒間、機器に挟むだけで血液の酸素濃度を測定できる。厚生労働省の研究班が作成した「診療の手引き」によれば、96%以上は軽症、93%超〜96%未満は中等症I、93%以下になると中等症IIで酸素投与が必要になる。

 操作が簡便ということもあって、感染者に限らずパルスオキシメーターを買い求める人が増えているという。インターネットの通販サイトを見ると、実に多くの商品が売られている。

 西武学園医学技術専門学校東京池袋校校長の中原英臣医師(感染症学)はこう語る。

「健康な人がコロナ対策で、普段から血中酸素飽和度を測る必要はまったくありません。心配ならば止めませんが、体温を毎日測る人はいないでしょう。ただし、陽性が判明して自宅もしくはホテル療養になった人たちにもっと早い時期からパルスオキシメーターの貸し出しをしていれば、こんなに死者は増えなかったと思います」

 コロナ禍がいっそう拍車をかけているが、日頃から健康不安を感じている人は多い。職場の健康診断や人間ドックなどで「血圧が高い」と言われ、血圧計を買って毎日欠かさずチェックしているという人もいるだろう。

 精神科医で老年内科医でもある和田秀樹・国際医療福祉大学大学院教授はこう指摘する。

「人間はあまりに健康不安を持ちすぎると、ストレスによってかえって健康寿命そのものに悪影響を及ぼします。普段、健康な人の血中酸素飽和度が急に93%以下になると確かに苦しい。肺炎が起きていると見るのは間違いありません。けれども例えば肺気腫の患者さんらは、普段から60〜70%という人もいます。あたかも93%以下が生命に危険が迫るような値と勘違いされています」

 コロナ感染症は基礎疾患のある人は重症化するリスクが高いとされ、コロナワクチンの優先接種の対象になる。基礎疾患とは、慢性の呼吸器疾患、心臓病(高血圧を含む)、腎臓病、糖尿病、がんなどだ。こうした病気にならないためにも、定期的に健診や人間ドックを受け、早期発見・早期治療につなげたいと多くの人が思っているはずだ。

 しかし、検査項目によっては日本が定めた「正常値」が欧米の基準とは異なるものもあり、うのみにするのは問題がありそうだ。中原医師はこう警告する。

「健診や人間ドックは釣り堀なのです。健康な人を釣り上げて、患者にして病院に来てもらうための手段になっている。日本の検査の正常値はおかしいものが少なくありません」

 その最たるものの一つが血圧だ。正常値の範囲が厳しすぎると、かねて指摘されてきた。日本高血圧学会は、2019年に高血圧の新基準を設け、正常の範囲を厳格化した。正常値は収縮期120mmHg/拡張期80mmHg未満とし、降圧目標は74歳以下は130/80未満、75歳以上は140/90未満と設定した。

 その結果、日本の高血圧患者は4300万人に上ると推定されている。高血圧を放置していると脳卒中や心筋梗塞(こうそく)の原因になるといわれる。だが、中原医師はこう疑問を投げかける。

「日本人の平均寿命は世界でもトップクラスなのに、これほどの人が病気にされる『正常値』なんて異常というほかありません」

 同学会の00年のガイドラインでは、収縮期について「60代140」「70代150」「80代160」などと、年齢ごとに数値を設けていた。ところが、現在の基準では80歳以上は「140」としており、20も下げなくてはならなくなったのだ。

 高齢者の血圧が上がるのには理由がある。加齢によって動脈が弾力性を失い硬くなるので、血圧を上げて全身に血液を送り込まなければならないからだ。もちろん、若いのに血圧が高すぎる人は治療が必要だが、降圧剤で無理やり血流を抑えることで脳梗塞が増えるという研究結果もある。薬で「正常値」まで下げることによって別の病気を起こす引き金になってしまっては本末転倒だ。

 血圧が上がると心配なのは脳内出血だが、脳卒中(脳梗塞を含む)による死亡は減っている。

 血圧は生活習慣を改めることで下げられるが、食生活とも深くかかわっている。新潟大学名誉教授の岡田正彦医師がこうアドバイスする。

「カルシウムやカリウムを含む食品を多く取っている人ほど、血圧が低いことがわかってきています。カルシウムを多く含む食べ物は牛乳、小魚、エビ、カニ、タコなどです。カリウムは、塩分を尿中に排出する手助けもしています。カリウムを多く含む食べ物は、ワカメ、岩のり、切り干し大根、抹茶などです」

(本誌・亀井洋志、秦正理)

※週刊朝日  2021年2月26日号より抜粋