元朝日新聞記者でアフロヘア−がトレードマーの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。



*  *  *
 先週の特集が気になりすぎて再び家を売る話を中断。

 コロナで巣ごもりで料理が大変、コロナ太りも気になる……で、簡単でヘルシーな「最強の在宅メシ」登場。まあ素敵! しかし当方、そもそもコロナ前も後も昼夜自炊で、さりとて料理が大変だったことなんて一度もなく、さらには太ったり体調を崩したりも全くなしという5年間の実績を持つ身。なので上から目線でひとこと付け加えずにはいられないのであります。

 ちなみに私の料理時間は毎食5〜10分。特集のレシピも「5分」とのことなのでほぼ同じとみてよかろう。だが表に現れぬ大きな差があることを私は見逃さなかった。

 料理にかかる時間とは調理時間だけではない。「今日の昼何にしよう」と思い悩む時間。これこそが長いのだ。いや長いどころの騒ぎではない。私もかつてはその地獄をさまよっていたのであり、当時を思い返すと、朝が終われば「昼どうしよう」。昼が終われば「夜どうしよう」。要するに日がな一日献立のことばかり考えていた。それが楽しいという料理好きもおられようが、世の中そんな人ばかりではない。しかもこれは生きている限り絶えず襲い来るエンドレスな課題。ここに費やした巨大なエネルギーを使えばどれほどのことができたかと思う。

 要するに、これを含めての調理時間と考えるべきなのだ。そう考えると我が料理、特集の料理に完勝である。コツはただ一つ。毎日同じ献立にする。昼は飯・汁・漬物。夜は汁(大)のみ(鍋ともいうね)。なので「今日の献立」を考える時間ゼロ。さらに、これは我が国の伝統食なのでバランスも完璧。しかも飽きない。やればわかる。っていうか私もやってみてわかった。伝統食とはそういうものだ。家の食卓に世界の料理を取っ替え引っ替え並べるなんて日本人だけじゃなかろうか。そんな暮らしはもはや日常とは言えまい。

日常とはもっと楽で地味なものであるはずだ。

 問題はコロナでも料理力のなさでもない。「毎日同じものを食べるなんて」という根拠なき思い込みである。

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

※AERA 2021年3月1日号