猫と出会ったら人生が変わった──。耳のてっぺんから尻尾の先まで、猫には奇跡のタネがつまっているのかもしれない。猫たちと出会い、会社に新しい課を起こしたり、町おこしに尽力する人々がいる。AERA2021年3月15日号から。



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 仲良くなった猫を守るために「癒し課」を設立した会社がある。癒し課の社員は猫だ。

 東京都足立区のしまや出版は小さな印刷会社。その3階が癒し課用のスペースだ。活版活字に交じって、キャットタワーやキャットハウスがある。

 訪れた取材班を歓待してくれたのは、茶トラのサクレ(推定10カ月、オス)だ。興味津々近づいたり、猫じゃらしをくわえて遊びに誘ったり、愛嬌たっぷり。同社代表取締役の小早川真樹さんによると、癒し課社員の職務は多岐にわたる。

「会議が紛糾していると、ひざにのって和ませてくれることもありますし、来客のおもてなしもしてくれます」

 しまや出版は河川敷近くにあり、界隈には常に複数の外猫がいた。日ごろから、社のスタッフたちと猫は交流していた。だが、近くの道は車の往来も激しく、猫たちが交通事故に遭って亡くなる姿も目の当たりにしてきた。

「せめて仲良くなった猫たちだけでも会社の中に入れてあげようという話になったのが、12年ほど前。招き入れた猫たちを室内飼いにして、平成22年2月22日、癒し課を発足しました」

 昨年からのコロナ禍で、しまや出版も営業面は打撃を受けた。

「でも、癒し課の写真をSNSに投稿すると大きな反響があって、明るい気持ちになれました。猫たちには感謝しています」

■猫とお遍路の旅へ

猫と一緒のお遍路結願という“前猫未到”の偉業を成し遂げた飼い主と猫がいる。徳島県に暮らす夜行さん(ツイッターのユーザーネーム)と、サバトラのこよみ(9歳、メス)と白猫のゆき(8歳、メス)だ。

 猫のお遍路さんは、17年9月18日、1番札所・徳島県の霊山寺からスタートし、およそ1年かけて、飼い主の夜行さんと共に四国八十八カ所を旅した。なぜ、猫とお遍路をしようと思ったのか。

 夜行さんがこよみを保護したのは9年前だ。300gほどの手乗りサイズの子猫だった。

「無事に育ってくれるか、毎日心配でした」(夜行さん)

 猫と暮らすのは初めてだったが、人懐こくて愛くるしいこよみに魅了された。いろいろな世界を見せてあげたくて、ペット用のカートを用意し、休みのたびに一緒に出かけた。1年後には1歳年下のゆきを保護した。

■生きることは修行

 2匹との暮らしは幸せいっぱいだったが、一方で、地元・徳島に対する問題意識も感じていた。若者は大都市に行き、高齢化が進んでいる。行政も地方創生に尽力しているが、自分たちにもできることがあるはずだ。

「町おこしを、一緒にできないか考えたんです」

 当時、趣味でコスプレをしていた。イベントに小さなマントをつけたこよみを連れていくと、あっという間に人気者になった。猫が嫌がらず楽に動ける衣装にするコツもわかった。そこで、こよみとゆきを連れて県内の名所をまわることにし、お遍路が始まったのだ。

 お遍路を通じて、夜行さんは思いも深めた。

「生きていることが修行で、生きている間は旅が続きます。ゆきとこよみは僕の大切な家族です。生まれ変わっても一緒に生きられるように、願いを込めてまわっていました」

 夜行さんとこよみとゆきも、コロナの収束を願っている。

「多くの人に、こよみとゆきを見てもらって、自由に写真を撮ってもらいたい。一緒に、徳島を元気にしたいと思っています」

(編集部・熊澤志保)

※AERA 2021年3月15日号