学費が安くて合格が難しい国公立大の医学部受験は、コロナ禍でも底堅い人気を示している。多数の現役合格者を出した高校の特徴を紹介する。



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「300万円と3千万円なら絶対300万円です」

 こう語るのは昨年、地方国立大医学部に合格した男性(19)だ。300万円とは国公立大の医学部6年間の授業料。3千万円は私大6年間の学費だ。国公立大の多くは300万円台に収まるが、私大では安くても2千万円、大半は3千万円以上かかる。男性は言う。

「国立大に受かったとき、親は『助かった』と言っていました。弟も医学部志望。私大に行ったら弟の選択肢を奪うことになりかねませんでした」

 人気の国公立大医学部に合格するには、どの高校に行けばいいのか。現役生が多く合格している高校のランキング(大学通信調べ)を見ていこう。
 私立では、2位となる61人の合格者を出した久留米大附設(福岡)が注目を集める。合格者数では最多65人の東海(愛知)に迫る勢いだ。現役合格率(卒業生数に対する現役合格者数の割合)は30%で、東海の15%を大きく上回る。

 久留米大附設は私立中高一貫の共学校。卒業生には実業家の孫正義さんや堀江貴文さん、「行列のできる法律相談所」(日本テレビ系)に出演する本村健太郎弁護士らがいる屈指の進学校だ。

 白水孝典高校教頭が、医学部に強い理由を説明する。

「特講と寮が要因として大きいです」

 特講とは特別講座のこと。3年生を対象に放課後に2時間開講される。九大英語、東大数学など一日に複数の講座があり、生徒は志望校に応じて受講する。演習形式で、過去問を解いて教師が解説をする。
 寮の存在も大きい。1学年約200人のうち約2割が暮らす。午後7時半〜11時50分が「一斉学習」という自習時間に充てられる。休憩を挟みながら計210分ある。

 久留米大に医学部はあるが、高校の生徒の多くは国立大を目指す。関西の難関国立大医学部に今年合格した卒業生はこう話す。

「寮では勉強時間を安定して確保できます。特講は塾に通う必要がないレベルで充実していました。周りに医学部志望が多く切磋琢磨(せっさたくま)できました」

 現役合格者45人で3位に入った桜蔭(東京)も現役合格率が20%と高い。国内最難関とされる東大理科三類(主に医学部)に今年は8人が合格した。全国で4番目に多い。

 私立中高一貫の女子校で、「女子御三家」の一つと言われる有名進学校だ(他は女子学院と雙葉)。卒業生にはタレントの菊川怜さんや猪口邦子元少子化・男女共同参画相、元秘書への傷害と暴行の疑いで書類送検され、不起訴となった豊田真由子前衆院議員らがいる。

 小林裕子教頭は言う。

「入学してくる段階で医学部志望者が多いです」

 30年ほど前は半々の割合で文系と理系の志望者がいた。だが、今は理系の割合が増え、中でも医学部志望が多くなっている。

「多い年は高3生の3分の1が医学部志望です。仕事によっては結婚や出産でキャリアが断たれてしまうことがありますが、医師は再び働きやすい。そのため志望者が増えていると見ています」(小林教頭)

 教育の特徴は特定の教科に特化せず、幅広に学ぶ点だ。2年時から文系、理系でそれぞれ選択科目を取るが、クラスは文系と理系で分けない。それが生徒の視野を狭めないことにつながり、受験科目が多い難関国立大に強い理由の一つとなる。

 縦のつながりも強さの秘密だという。生徒は必ず部活動に所属するため、先輩の日々の努力や難関大に合格する姿を間近で見る。桜蔭はキャリア教育にも力を入れ、メディアや国家公務員、弁護士など各界で活躍する卒業生が寄稿した冊子を作ったり、講演会を実施したりする。小林教頭は言う。

「先輩たちの活躍を身近に見て、果敢に挑戦する生徒が多いです。自分たちの興味関心に従って、伸び伸びと学ぶ文化があります。勉強ができるからといって、足を引っ張るような雰囲気はないです。男子の目を気にしないのも良いと思います」

 公立のランキングも見よう。各地の伝統校が並ぶ中、現役合格者数、現役合格率ともにトップだったのは札幌南(北海道)だ。それぞれ34人、11%だった。
 3月まで進路部長を務めた高桑知哉さんはこう語る。

「伝統的に医学部に入れる学校と見られています」

 入学当初は、1学年約300人のうち約100人も医学部志望に手を挙げることがある。3年になると、50〜60人程度が志願するという。
 高い合格実績について高桑前進路部長は言う。

「学問研究の成果が大きいです」

 学問研究とは、授業の中で自分の関心のある学問を調べて発表すること。大学でどんな研究がされているのか知るとともに、自分の興味関心に気づくきっかけになる。それが高い進学意欲につながるという。

 3年春には医学部セミナーを開き、教員が各大学の入試の特徴を紹介する。また、医学部受験に必要な面接や小論文を指導するなど、志望者を支援する態勢を整える。

 国立のランキングでは、東大合格者数ランキング上位校として知られる筑波大附駒場(東京)が23人で最多。続いたのが広島大附の19人で、現役合格率も10%と高い。
 砂原徹副校長は言う。

「医学部を目指す生徒は昔から一定数いましたが、最近は合格率が上がってきました」
 要因として見るのが、課題研究の取り組みだ。

 文部科学省からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受け、科学教育に力を入れている。1年時から研究の基礎を学び、3年秋には論文を冊子にまとめる。
 研究テーマは「スープを飲むとき急に冷たく感じるのは本当か?」「ゼブラフィッシュにおける音と学習能力の関係について」など独特なものが多い。身近な疑問からテーマを設定している。砂原副校長は言う。

「医学部に合格するために特別な指導をしているわけではありません。課題研究が学びの意欲につながり、受験結果に結びついたのでしょう」

 新たに合格実績を上げている学校も紹介しよう。合格者16人で公立ランキング13位に入った日比谷(東京)だ。
 かつて東大に100人以上の合格者を出した名門校。1990年代には1桁台と低迷したが、今年は全国9位の63人が合格するまで復活した。医学部現役合格者は昨年の25人から減ったものの、全体としては増加傾向にある。3月まで校長を務めた武内彰さんは言う。

「医学部志望者が増えたので、指導体制を手厚くしたのです」

 予備校関係者を招いて医学部入試のセミナーを開いたり、教員による面接指導を実施したりするようになった。全国の医学部を視野に入れて進路指導をしているという。武内前校長はこう明かす。

「生徒と各大学の相性を見ながら、地方でもいいという生徒には地方の国公立大も勧めています」

 2016年創設の通信制・N(沖縄)は、今年初めて東大理三の合格者(現役)を出した。私大の慶應義塾大医学部などにも現役合格者を出している。昨年初めて東大に合格者を出した「新興勢力」だ。

 東大理三に合格した生徒は3年時に転入。難関大を目指す生徒のための特別プログラムは選択せず、通常のネットコースに在籍していた。担任の東大地さんは言う。

「受験に集中できたと言ってくれました。自分で勉強する基礎ができている生徒も、そうでない生徒も自分のペースでできるのが本校のウリです」

(本誌・吉崎洋夫)

※週刊朝日  2021年4月23日号