日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「新型コロナウイルスワクチン接種が進む世界と遅れる日本」について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。



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「ワクチン接種の予約に電話したけれど、電話が全くつながらなかったわ……」先週19日から高齢者を対象に新型コロナウイルスのワクチン接種が開始されましたが、滋賀県に住む祖父母は、ワクチン接種の予約すらできなかったと電話がありました。大阪に住む祖母には、案内すら届いていないようです。

 とはいえ、全国で高齢者の集団接種が開始され、勤務先のクリニックでも、5月中旬ごろから高齢者を対象にワクチン接種が開始予定となり、あわただしく準備を進めている様子です。集団接種に行く前にワクチンを摂取できるのか心配でしたが、クリニックに勤務する私も、ようやく先々週末(4月17日)に新型コロナウイルスのワクチンが4月末に接種できるという知らせが届きました。

 第4波とも言われている昨今、38度を超える発熱を認める患者さんが増えてきており、また濃厚接触者としてPCR検査を希望される方も増えてきています。新型コロナウイルス感染症を疑う患者さんが来ない日はありません。PCR検査を行わない日はないにも関わらず、新型コロナウイルスワクチンをまだ接種できていない中で診療を続けていることに、そしてこのままではワクチン未接種のまま、集団接種に参加することになってしまうと、とても不安を感じていましたが、ようやくワクチンを接種できそうです。

 さて、昨年12月8日に英国で開始されたのを皮切りに、世界各国で接種が進んでいる新型コロナウイルスワクチン。One World in Dataによると、4月17日時点で世界の累計接種回数は8億9000万回を超えています。国別に見ると、米国(2億587万回)、中国(1億8,809万回)、インド(1億2,262万回)、英国(4,211万回)の順に多く、一方の日本は85万回と、圧倒的に少ないです。

 これは新型コロナウイルスワクチンを少なくとも1回接種した人の総人口あたりの割合をみても一目瞭然です。One World in Dataによると、4月17日時点で、イスラエルは総人口あたり61.7%の人が、少なくとも1回の接種を終えています。イギリスは人口の48.1%(4月16日時点)、アメリカは38.7%(4月17日時点)が終えており、日本はたった0.9%(4月16日時点)です。

 世界一のスピードで接種を進めているイスラエルでは、昨年から続いていたロックダウンが段階的に解除され、4月18日からは屋外でのマスクの不要となりました。1月中旬には新規感染者数が1万人を超えていましたが、4月17日時点での新規感染者数の報告は0人となっています

 1月初旬に新規感染者数が6万8千人とピークを迎えたイギリスでは、昨年12月8日より新型コロナウイルスワクチンが開始され、4月16日時点で人口の約半数が少なくとも一回の接種を終えています。4月17日時点での新規感染者数は2,200人とワクチン接種が進むと同時に、感染者数も激減したことがわかります。ロックダウンを段階的に解除することが発表され、4月12日からは、パブやレストランの屋外席での営業再開、衣料品や書店といった小売店やジム、美容院なども営業が再開されました。

 昨年11月以降、新型コロナウイルスの感染が急拡大し、1月初旬には新規感染者数が30万人と、ピークを迎えたアメリカでは、総人口の4割ほどが少なくとも1回の接種を終えており、4月17日時点での新規感染者数は5万2千人と、こちらもワクチン接種が進むと同時に、感染者数は減少傾向を認めています。

 一方の日本はというと、少なくとも1回接種した人の総人口あたりの割合はたった0.9%(4月16日時点)です。接種開始も遅れをとっている上に、接種回数も圧倒的に少ないという中で、首都圏に出されていた緊急事態宣言が解除されてから1カ月足らずで、再び東京や大阪、仙台を中心に感染者が拡大しているのも、当たり前の結果だと言わざるを得ません。

 先日、菅首相がファイザーのブーラ最高経営責任者と電話で会談し、9月までに国内のすべての接種対象者に必要な数量を確保すべく、追加供給を要請したという報道がありました。しかしながら、ワクチン接種で圧倒的に遅れをとっている日本で、新型コロナウイルスの変異株が全国的に広がりを見せている今、これ以上の感染を抑え込む前にワクチン接種を順調に遂行できるとは思えないのは私だけでしょうか。

 英国では、新型コロナウイルス感染症と、心筋梗塞、心不全、脳卒中、血栓塞栓症など心血管疾患との関連を調査することができるリソースが開発され、人口の96%超の5,440万人の医療情報が登録されたといいます。ワクチン開発だけでなく、新型コロナウイルスに関するさらなる調査がこうした医療連携で進むことは間違いありません。

 4月14日には、夏に開催を予定している東京オリンピックとパラリンピックの再考をすべきではないかという社説が、イギリス医師会雑誌(British Medical Journal)にて公開されました。現段階で日本は新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込めていないということ、ワクチン接種の遅れや検査能力の限界は政治的なリーダーシップの欠如に起因していること、そして、世界全体で新型コロナウイルスによるパンデミックを封じ込め、命を救う必要性があるにもかかわらず、国内の政治的・経済的な目的のために「東京2020」を開催することは、世界の健康と人間の安全保障に対する日本の責務と矛盾していると言います。

 第4波、緊急事態宣言、といった言葉も、再び聞かれるようになってきましたが、医療従事者や高齢者以外のワクチン接種がいつになるか不透明なまま感染予防や自粛を強いるだけの対策を行うのではなく、今一度、世界各国のあらゆる対策を参考にし、国内での感染対策に反映させる必要性があるのではないでしょうか。

山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員