コロナ禍でも増え続けている中学受験者。はじめての中学受験では、親が迷うことがたくさんある。「志望校はどう選べばいい?」「共学と男女別学、どっちがいい?」「大学付属校はオトク?」――中学受験に詳しい「賢人」たちに聞いた。AERAムック『偏差値だけに頼らない 中高一貫校選び2022』(朝日新聞出版)から、一部抜粋して紹介する。



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■第1志望校を決めるポイントは?

 学校選びの軸として中学受験の賢人たちがそろって挙げるのが「スクールカラー」。スタジオキャンパス代表の矢野耕平さんはその極意を次のように話す。

「偏差値や学校名にとらわれず、子どもをどういう人物に育てようとしているか、どういう人間を世に出そうとしているのか。この一点を尺度に学校を見ると違いがよくわかります。これはと思う学校は、まずは説明会を聞く。そのうえで実際に学校に足を運んで、在校生の様子を観察してください。スクールカラーがよく見えてきます。そして違和感なくわが子の姿を重ねられるかをチェックしてみることです」

 長男、長女を私立一貫校に通わせるブロガーのkanaharuさんは、説明会での校長先生の話に注目し、志望校を絞ったと振り返る。

「実感したのは、校長先生が語る教育方針がそのまま校風に反映されているということ。進学実績を前面に掲げる学校は、実際に勉強第一の学校で、わが子に合うかどうかを見極める手がかりになりました」

 親の判断だけでなく、子ども自身が通いたいと思っているか、魅力を感じているかも尊重すべきだと早稲田アカデミー中学受験部次長の東広樹さんは話す。

■共学と男女別学、どう選ぶ?

 共学と男女別学のどちらがいいかを決める必要はないというのは家庭教師・齊藤美琴さん。

「別学か共学かというところにも、学校の理念があります。例えば女子校なら、女子だけの環境で学ぶことに意味を持たせているわけです。別学から共学化する学校が人気を集めていますが、なぜ変えるのか。また、なぜ変えずに別学なのか。学校の校訓を丁寧に拾い、何を大切にした教育なのかをじっくり見てほしいと思います」

 一方で、ひとつのことに夢中になる気質が出ている子は別学のほうが向いていることもある。

「異性の目が気になるのが思春期。別学のほうが周囲を気にせず、好きなことに没頭できる面は少なからずあるでしょう」(齊藤さん)

■大学付属校はオトク?

 ここ数年続いた大学付属校人気は、落ち着くだろうというのが賢人たちの見立てだ。付属校人気が高騰した背景の一つには、文部科学省による私立大学の定員の厳格化がある。首都圏の私大が合格者数を一気に減少させ、大学入試が難化。さらに大学入試改革への不安もあり、安全策として付属校から入っておこうという動きが加速していた。ところがコロナ禍で状況は一変。地方在住の受験者が上京せず地元大学に進学するケースが顕著に増え、今後も私大志願者の減少が予想される。

「中高は進学校にしておいて、大学進学時に改めて選択肢を考えようという流れにシフトすることが考えられます」(矢野さん)

 私大付属校に合格するには相応の学力が必要だ。しかしそれだけの学力があるならば大学受験でさらに上位の大学を狙うのも可能で、付属校が「オトク」とは言い難い。

「私自身は付属校出身。学校にもよりますが、付属生全員に大学進学が保証されているわけではなく、成績不良で進学できない生徒もいます。かといって他大学を受験するにも進学校と比べると比較的のんびりと6年間を過ごしているので、進学校出身者との間に学力差があり太刀打ちできない。高校の成績で進学する学部学科も制約されます。倍率が高くて入りにくいならオトクな感じはしません」(kanaharuさん)

「付属校に進学させる意味は、『安心感』を手に入れること。大学受験の心配をせず、好きなことに打ち込めます。付属校にはOB・OGネットワークが強い、大学と提携した独自の教育などのメリットもあります。それらを勘案したうえで、付属校か進学校か、総合的に判断すべきです」(齊藤さん)

■新設校と伝統校、どちらがいい?

 校名変更や共学化などのリニューアルを図る「新設校」に人気が集まるのは、新しい学校・新しい教育への期待感の表れだと東さんは説明する。
「新設校の教育方針には“今まさに求められている教育”が反映されていますから、多くの期待が寄せられます」

 一方で、伝統校といわれる女子校も、再び人気を盛り返している。

「このような時代だからこそ、伝統校が歴史のなかで培ってきた、ゆるぎない教育観が見直されている面もあります」

 新設校、伝統校の双方にそれぞれのよさがあり、学校選びにおいて多様性の流れは続くと東さんは見ている。

■進学実績はどのように見る?

 大学合格実績は、保護者にとっては正直一番気になるところかもしれない。だが、公表される大学合格実績にはカラクリがある。

 大学合格実績の中には、一人で複数学部に合格した場合も全てカウントされているケースが多々あるため、学校の実力を見るには「現役進学実数」をきちんと見る必要がある。矢野さんは次のようにアドバイスする。
 
「現役進学実数の一覧表で、学校での成績が真ん中くらいの子がどのレベルの大学に現役進学しているかに着目します。例えば国公立+早慶上智の現役進学率が38%ならば、真ん中の位置ではこのレベルは厳しいことを意味します。文系、理系の割合なども確認してみると参考になりますよ」

■教育内容でチェックすべきことは?

 齊藤さんがチェックすべきだと考えるのは「キャリア教育」だ。

「思春期の子どもたちが年齢に応じたキャリア教育を受けることはとても大事。自分の将来にはこんな選択肢があるのだと気づかせてくれて、そのためのステップを一緒に考えてくれるような学校は、いい学校だと感じます」

 kanaharuさんは、学業面以外の充実度もチェックした。

「中高時代は勉強以外にもさまざまな体験をしてもらいたい。教養を身につける課外活動や体験型授業などが充実している学校を選びました。偏差値や学校名のフィルターをはずして見ることが大切」

■説明会、参加のポイントは?

 説明会の内容もさることながら、着目点として見逃せないのが、校長をはじめとする教員たちの雰囲気だと声をそろえるのは、声の教育社の後藤和浩さんと三谷潤一さん。

「教員同士の人間関係がよさそうな学校は、学校の雰囲気もいいものです。例えば校長の中には、説明会で自分の話が終わると会場を離れてしまう人と、着席して他の教員たちの話をうなずきながら最後まで聞く人がいます。もちろんお忙しい先生もいらっしゃるとは思いますが、後者のほうが学校としての一体感があって、いい学校だなという印象を持ちます。学校という職場環境のよさは、そのまま教育環境のよさに直結しますから、教員の様子はチェックしたいですね」

 齊藤さんは、個別に教員に話しかけてみることを提案する。

「先生との出会いも私立の魅力のひとつ。説明会ではぜひ積極的に話しかけてみてほしいと思います。何かひとつ共通の質問を用意して複数の学校に聞いてみると、その対応が比較できます。定期テストで成績が振るわなかったときは家庭でフォローしないといけないのか、補習があるのか、などを質問してみると、学校の面倒見のよさもわかります」

(文=深津チヅ子、岡田慶子<編集部>)

【話を聞いた人】
矢野耕平/中学受験指導「スタジオキャンパス」代表。27年にわたり中学受験指導を行う。著書に『令和の中学受験 保護者のための参考書』(講談社+α新書)ほか。

kanaharu/2019年に息子が、21年に娘が中学受験を経験。その経験とノウハウを伝承するサイト「僕らの戦略受験–超中流の逆襲–」を運営。

齊藤美琴/家庭教師、学習コーチ。SAPIXの個別指導部門・プリバート東京教室を経て独立。国語の指導ときめ細かい学習コーチングに定評がある。自身も中学受験を経験。

東広樹/早稲田アカデミー教務本部中学受験部次長。ExiVたまプラーザ校校長を経て2021年度から現職。志望校別対策コース「NN開成クラス」の副責任者も務め、多くの難関中学志望者を合格に導いている。

声の教育社 後藤和浩、三谷潤一/首都圏中学・高校の過去問題集を発行する声の教育社。過去問出版社ならではの情報をYouTube「声教チャンネル」で発信している。

※『偏差値だけに頼らない 中高一貫校選び2022』より