発症すると激しい頭痛や嘔吐、意識障害などが表れ、約3分の1が命を落とす「くも膜下出血」。働き盛りの40代後半から増えるが、60代以降の女性も多い。前兆症状がみられることもある。現在わかっている原因やリスク因子を取材した。



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 脳梗塞、脳出血とともに脳卒中の一つとして知られる「くも膜下出血」。脳動静脈奇形による出血や、事故や転倒などによる頭部外傷が原因の場合を除けば、その約8割は「脳動脈瘤の破裂」によるものだという。

 脳動脈瘤とは、脳の血管の分岐部などが風船のようにふくらみ、瘤になっている状態だ。ふくらんだ部分の血管の壁は薄く弱くなっているため、なんらかのストレスが加わると破裂し、脳の表面を取り囲む「くも膜」の下の隙間(くも膜下腔)に血液が流れ込む。これが「くも膜下出血」である。

 発症時の症状として、「これまでに経験したことのない」「バットでなぐられたような」激しい頭痛や嘔吐、意識障害などが起きる。軽症では頭痛・嘔気・嘔吐、重症では意識障害が前面に出る。

 そして、脳の血管が詰まる脳梗塞や、脳内血管が破れて出血する脳出血のような「半身のしびれ」や「片麻痺」「ろれつがまわらない」などの症状は基本的にみられない。

 主な原因は脳動脈瘤の破裂だが、まれに、動脈の壁が裂けてできた「解離性脳動脈瘤」の破裂による場合もある。椎骨動脈に生じやすく、椎骨動脈の走行する後頭部に激痛が生じる。

■小破裂による警告頭痛も

 脳動脈瘤の破裂は突然発症する。出血の量が多いときにはすぐに意識がなくなり、重症の場合には病院にたどり着く前に亡くなる場合もある。大出血の前に「警告頭痛」と言われる前兆症状がみられることもあるという。昭和大学藤が丘病院脳神経外科診療科長の津本智幸医師は次のように話す。

「脳動脈瘤が少し破れて出血すると、いつもの頭痛とは違う『ドン』と強い痛みを感じることがあります。微小な出血だと、すぐに血栓ができて出血が止まり、痛みも治まりますが、あくまでも一時的です。これが再び破裂すると多くは命にかかわる大出血となります」

 警告頭痛の症状には個人差がある。武蔵野赤十字病院脳神経外科部長の玉置正史医師はこう話す。

「ある日頭痛が生じ、いつものようになかなか治らず食欲もなく、近隣の内科を受診してCTを撮り、くも膜下出血が判明するパターンもあります。放置すれば、発症から24時間をピークに再出血が起きる可能性が高いです」

 脳動脈瘤の破裂による大出血で、約3分の1が死亡し、3分の1に後遺症が残り、3分の1が元気に回復して社会復帰できるとされる。

「40代後半から発症が増えますが、ホルモンの関係で60代以降は女性の比率がやや高い傾向があります」(津本医師)

 脳動脈瘤の発生や破裂のリスク因子はあるのだろうか。

「くも膜下出血の原因である脳動脈瘤の発生に遺伝性はないとされていますが、血縁者で発症した人がいる場合には脳動脈瘤を持っている可能性が高まるとされています。高血圧や喫煙、多量の飲酒も動脈瘤を増大させ、破裂させるリスク因子です」(玉置医師)

 腎臓に嚢胞がたくさんできてしまう「多発性嚢胞腎」がある場合も脳動脈瘤を合併しやすいため注意が必要だ。

 くも膜下出血発症後の後遺症は、出血量や出血した部位、発症から治療に至るまでの時間などによって異なってくる。

「脳の表面に出血が多かった場合、ばらまかれた血液によって脳の血管がダメージを受け、脳血管攣縮を起こすことがあります。その場合、脳の中の多くの動脈が細くなって血液の流れが悪くなり、脳梗塞と同じ状態になります。出血部位によっては、失語症や運動麻痺などの後遺症が残ることがあり、その場合、リハビリも脳梗塞に準じたものになります」(津本医師)

 運動麻痺や失語症、記憶障害、注意障害といった高次脳機能障害が残ると、本人や家族もそれまでどおりの生活に戻ることは難しくなる。患者だけでなく、周りで支える家族の生活のパターンも大きく変わってしまう。

「症状や後遺症もさまざまで、寝たきりになる場合もあれば、高次機能障害により日常生活能力が全体的に発症前の80%まで落ちてしまう場合も。家の中の家事はできても、外に出ての仕事、とくに高い知力を要求される仕事は、現職復帰できない場合も多い」(玉置医師)

■未破裂で発見し治療も可能

 発症を未然に防ぐにはどうしたらいいだろうか。原因となる脳動脈瘤の発生・破裂のリスクを減らすには、禁煙や適度な飲酒につとめ、高血圧の治療なども必要だ。

 近年は脳ドックの普及で未破裂脳動脈瘤が見つかることも多くなった。破裂前に見つかれば、くも膜下出血を発症する前に治療可能だ。治療技術の進化で、頭を開けずにおこなえる血管内治療などからだに負担の少ない治療も可能になっている。

「未破裂脳動脈瘤の発生率は成人の2〜3%とされています。血縁者にくも膜下出血の既往歴があれば、40歳を過ぎたら一度は脳ドックを受けておくといいでしょう」(同)

 くも膜下出血は再発率も高い。治療を受けた動脈瘤の再増大や別の場所に新たに動脈瘤ができて破裂することもある。発症を経験したら、担当医と相談して定期的に頭部MRIなどで脳血管の状態を検査すべきという。

「定期的に検査をしていれば、動脈瘤が新たに見つかっても破裂前に治療できます。発症後も年に1度は検査を受けておくといいでしょう」(同)

(文・石川美香子)

※週刊朝日 2021年7月23日号より