いつまでもセックスライフを謳歌したい――そんな願望を持つシニア世代もいるが、ホルモンバランスの変化や肉体の衰えは、性機能にも影響をおよぼす。どう対処したらいいのだろうか。

【シニアのセックス事情 「したい」男性は7〜8割も女性は3割の現実】より続く



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 シニア同士のセックスのメリットは、「妊娠の心配をしなくていい」という点だろう。もちろん性感染症の対策(挿入時のコンドームの使用など)は必要だが、男性も女性も性に対してストレートに向き合える。

 一方で、あらがえないのが加齢による変化だ。肌は乾燥してシワシワ、毛髪には白いものが交じる(あるいは抜ける)。見た目だけでなく、性ホルモンの低下による生殖器の問題も出てくる。シニアの体ではどんなことが起こっているのか──。まずは男性から。

 性欲をもたらすのは、男性ホルモンのテストステロンだ。男性医療に詳しい東邦大学医療センター大森病院(東京都大田区)泌尿器科の永尾光一さんが説明する。

「テストステロンは精巣と副腎から分泌されますが、加齢によって精巣機能が低下すれば、ホルモン分泌が減ります。ただ、その下がり方は女性ホルモンのエストロゲンより緩やかです」

 この男性更年期に対しては、テストステロンを補充する治療法が有効だ。

 勃起に関してはどうか。男性の場合、性欲が増すと陰茎にある海綿体に血液が集まり、勃起が起こる。ところが、生活習慣病などで動脈硬化が起こると血流が十分に陰茎に届かなくなるため、勃起不全(ED)となる。

 永尾さんによると、動脈硬化さえなければ、男性は70代でも80代でも勃起や射精ができる。陰茎も加齢でサイズが小さくなることはない。男性週刊誌にある「死ぬまで…」はある意味、可能というわけだ。

「特に今は、陰茎への血流をよくするED治療薬(バイアグラなど)があるため、シニアでも20代と同じような性的な能力は望めます。ただし、糖尿病などがあるときは効きが悪く、またED治療薬自体には性欲を高める作用はないので、そこは知っておきましょう」

 ED治療薬が日本で承認されて20年あまり。今では完全に市民権を得ており、永尾さんのところでは、マスターベーションのためにバイアグラを処方してもらう90代の男性もいるそうだ。

 もう一つ知っておいたほうがいいのは、普段飲んでいる薬によるED。代表的なのはうつ病の薬だが、男性型脱毛症(AGA)の治療薬(プロペシアなど)でも起こる。添付文書によると、プロペシアのEDや射精障害の発生率は1%未満だ。

 女性は、加齢による影響が男性よりも大きい。

「エストロゲンの減少によって外陰部や腟の粘膜が薄くなり、萎縮が起こります。そのため潤いがなくなってかゆみやヒリヒリ感が出たり、性交痛が生じてきたりします」

 こう話すのは、産婦人科医でジュノ・ヴェスタクリニック八田(千葉県松戸市)院長の八田真理子さん。最近では頻尿や尿もれなどの泌尿器トラブルと合わせ、更年期以降に起こる一連の症状は「閉経関連尿路生殖器症候群(GSM)」と定義されている。GSMでみられる主な症状は、腟や外陰部のかゆみやムズムズ感、 性欲やオーガズムの低下などさまざま。

 八田さんは、同院を受診した35歳以上の患者や検診受診者2760人にアンケートをとったところ、53%に女性特有の不快症状があったという。訴えが多かった症状は、順に、かゆみ、尿もれ、頻尿だった。

「最近では、女性の陰部を“デリケートゾーン”と呼んでいますが、このデリケートゾーンのトラブルを医師に相談できず一人で悩み、多くの人が放置しています。しかし、フェースケアと同じく、デリケートゾーンをケアすることで生活の質が大きく向上することがわかってきました」(八田さん)

 GSMの治療は、エストロゲンの分泌が低下してくる更年期であれば、まずはHRTを考慮する。不足した女性ホルモンを補充する治療で、飲み薬や貼り薬、塗り薬などがある。更年期に起こるさまざまな症状の緩和のほか、腟錠は性交痛にも有効とされている(性交痛には、ほかにオイルやジェルなども使用する)。

 頻尿や尿もれにも薬がある。さらに骨盤底筋を意識してトレーニングすることは、子宮脱など骨盤臓器脱の予防、改善にもつながるため、重要だ。

 これらに加え八田さんがお勧めするのは、腟レーザーだ。腟壁の粘膜に炭酸ガスレーザーを照射することで線維芽細胞が活性化し、コラーゲンが増加。水分量が増えて潤いや厚みのある粘膜がよみがえるという。

「治療は30秒〜1分程度で、痛みはありません。2〜3日から1週間もすると腟がふっくらして、デリケートゾーンのかゆみやにおいが軽減され、性交痛も軽快します。腟は尿道と隣接しているので、頻尿や尿もれの改善効果もあります」

 同院では、腟と同時に外陰部へのレーザー照射もする(この場合は多少の痛みを伴うため、麻酔クリームを使う)。これを4〜6週間後にもう1回行うと、効果は8〜10カ月ほど続くそうだ。メンテナンスとして定期的に治療を受けている人も多く、導入した2016年以降1500例以上実施し、7割以上の患者が満足しているという。

 自身も定期的にこの腟レーザーを受けているという八田さん。効果を実感している一人だ。

「デリケートゾーンの不快症状は明らかに改善します。腟は女性のコア(中核)にある器官。私の印象ですが、腟レーザーを受けるとエネルギーを充填された感じになります。不思議なことに、患者さんも施術後は姿勢がよくなり、見た目も若くなっています」

 もちろん、こうした治療だけでなく、自分でする日々の“腟ケア”も重要。セックスをする・しないにかかわらず、腟の入り口や外陰部を低刺激のせっけんでやさしく洗う、入浴後はジェルなどで保湿をする、きつい下着をはかない……などが大事で、ムレの原因になりやすい尿もれパッドなどの使用は最小限にとどめたほうがいい。

 ところで、先に男性ホルモンのテストステロンが性欲をもたらすと紹介したが、女性の場合はどうか。これについて、一般社団法人日本家族計画協会(東京都新宿区)の会長で産婦人科医の北村邦夫さんが答える。

「更年期以降はエストロゲンが減りますが、相対的にテストステロンが増えます。ですので、生物学的にみると更年期以降の女性には性欲はあるということになります。むしろ性欲が強まることも考えられます」

(本誌・山内リカ)

※週刊朝日  2021年9月10日号より抜粋