過去最多となる583人の日本選手が参加した東京五輪。東京2020大会で獲得したメダルは、金27、銀14、銅17の計58個だった。金メダルはアメリカ、中国に次いで3番目の多さだった。



 メダリストのなかには幼少のころからオリンピックを目指してがんばったアスリートがいる。高校、大学、クラブチームで腕を磨き、めきめきと力をつけ、世界最高峰の舞台で競ってきた。

 そこで、メダリストたちの出身校(在学、中退を含む)を調べてみた。国内の高校、大学に通っていた人たちを対象とした。複数の種目でメダリストになった選手は、メダル獲得数をカウントした。

 たとえば体操の橋本大輝さんは個人総合で金、種目別鉄棒で金、団体総合で銀の3個のメダルを獲得したので、橋本さんの出身校である順天堂大、市立船橋高校は3個と数えた。

 金、銀、銅メダル獲得選手の出身大学ランキングを見てみよう。


●1位=日本体育大、9個
 阿部一二三さんが柔道男子66kg級で金、混合団体で銀、妹の阿部詩さんが女子52kg級で金、混合団体で銀を獲得し、阿部兄妹で合わせてメダル4個となった。

 体操女子種目別ゆかの銅メダリスト、村上茉愛さんは、2019年の大学卒業式で卒業生代表として挨拶している。このなかで、「東京オリンピックでのメダル獲得に向けて、4年間で学んだことを一つも無駄にせず、精進していきたい」という決意表明を示していた。

 ボクシングで金メダルをとった入江聖奈さんも日本体育大だ。大学の公式ウェブサイトに掲載されている一問一答がおもしろい。

「『入江聖奈』とはどんな人ですか?――カエルが好きです。(今は主にヒキガエルに惹かれています)インドア派でSwitchにハマっています。
あなたにとって『オリンピック』とは?――お祭りです。沢山の歓声の中で試合ができる楽しい舞台です」

●2位=順天堂大、6個
 すべて体操でとったメダルである。前述の橋本大輝さんはスポーツ健康科学部2年だが、競技後、ベテランの風格を感じさせる談話を発表している。



「最後は着地の勝負になると思っていた。いつも通りの力を出すために準備してきた。この大会の経験は今後の体操人生にとって大きいものになる」(朝日新聞デジタル2021年8月3日)

 橋本さんのメダル3個に加えて、大学院スポーツ健康科学研究科博士後期課程1年の萱和磨さんが団体総合で銀、種目別あん馬で銅、同大学を2019年に卒業してセントラルスポーツ所属の谷川航さんが団体総合で銀を獲得した。

 橋本さん、谷川さんは市立船橋高校、通称・市船(イチフナ)の出身。メダル獲得選手の出身高校ランキングで、市船はトップになった。体操で市立船橋高校→順天堂大というコースが、メダル4個をもたらしたのだ。市船はスポーツに力を入れている体育科があり、サッカー、野球、バスケットボールなどは全国大会出場実績がある。なかでもサッカーは全国高校選手権大会で5回優勝している。

●2位=日本大、6個
 柔道で3人のメダリストが生まれ、4個のメダルを獲得した。向翔一郎さんと原沢久喜さんは混合団体で銀、素根輝さんは女子78kg超級で金、混合団体で銀だった。素根さんは昨年まで環太平洋大に在学していたが、今年、日本大に入り直した。

 フェンシング男子エペ団体の金メダリスト、山田優さんは三重県立鳥羽高校出身で、インターハイ2連覇を達成している。2015年、日本大文理学部の学生時代、母校愛たっぷりの話をしている。

「日本大学フェンシング部の魅力は、多くのトップ選手を輩出していること。しかし、ただ勝つだけではなく、心技体を磨き人間的にも魅力ある選手であれという心の部分を大切にしていることです。そのモットーに恥じないよう、でも気負わず楽しみながらプレーしたいと思います」(日本大ウェブサイト)

●4位=明治大、4個
 卓球で3個のメダルを獲得した。水谷隼さんが混合ダブルスで金、男子団体で銅、丹羽孝希さんは男子団体で銅である。

 8月25日、水谷さん、丹羽さんは明治大駿河台キャンパスを訪れ、大六野耕作学長、柳谷孝理事長に五輪での戦いについて報告した。丹羽さんは愛校心たっぷりにこう話している。



「(先輩に当たる)水谷選手は、自分と同じく青森山田高校から明治大学に進学し、結果を残してこられた。水谷選手への憧れもあり、明治大学には卓球界で活躍する偉大な先輩方がたくさんいたので、それに続きたいという思いで競技に打ち込んできた」(大学ウェブサイト2021年8月25日)

 青森山田高校→明治大というコースが、卓球でメダル3個をもたらした。

●5位=至学館大、3個
 レスリング女子で4人の代表が選ばれ、うち川井梨紗子さんと川井友香子さんの姉妹、向田真優さんの3人が金メダリストとなった。金メダル獲得率75%は他大学を圧倒する。金メダルだけに絞ってみると、獲得ランキング1位は3個の至学館大と日本体育大である。大学スポーツ界でトップを極めたといっていい。

 なお、川井さん姉妹は至学館高校出身である。至学館高校、至学館大学レスリング部というコースでは伊調馨さん、登坂絵莉さん、土性沙羅さんが、オリンピックで金メダルをとっている(前身の中京女子大附属高校、中京女子大を含む)。

●5位=東洋大、3個
 大橋悠依さんが競泳200m個人メドレーと400m個人メドレーで金メダリストとなった。大橋さんの活躍の背景には、東洋大水泳部の指導者で、競泳日本代表の監督も務める平井伯昌コーチの存在も大きい。2大会連続2冠の北島康介さんを指導した名伯楽だ。

 池田向希さんは陸上20km競歩で銀を獲得した。池田さんがオリンピック代表に決まったのは昨年3月15日である。その9日後、大会延期が発表された。当時、筆者は池田さんにこのときの様子をたずねた。次のように答えてくれた。

「代表内定をもらった直後だったので、どう受け止めていいかわからず動揺しました。今年を目標に練習していたので、くやしかったですね。ただ、すぐにコーチから連絡が入って『大会延期の期間で、実力がさらに伸ばせる』と激励されました。19年の世界選手権は6位で勝ちきれなかったため、自分に足りないところを埋める、弱点を克服するチャンスだと思い、1年後を見据えた準備に取り組んでいます」

 実力をしっかり伸ばし、銀メダリストとなった。



●5位=山梨学院大、3個
 乙黒拓斗さんがレスリングで金、浜田尚里さんが柔道女子78kg級で金、混合団体で銀をとっている。

●5位=東海大、3個
 いずれも柔道だ。ウルフ・アロンさんは男子100kg級で金、混合団体で銀、高藤直寿さんは男子60kg級で金を獲得した。

●5位=早稲田大、3個
 フェンシング男子エペ団体の加納虹輝さん、レスリング女子50kg級の須崎優衣さんが金、本橋菜子さんはバスケットボールで銀をとっている。慶應義塾大は武藤弘樹さんがアーチェリー団体で銅。武藤さんは愛知県の進学校、東海高校出身だ。

 ほかの大学を見てみよう。

 1960年代まで必ずメダルを獲得していた慶應義塾大は1個。スポーツ伝統校としてはさびしい。慶應義塾大出身の山縣亮太さんは陸上400mリレー決勝に出場したが、バトンをつなげることができず、同種目で日本代表は失格してしまう。メダルへの期待がかかっていたので、残念だった。。

 野球、ソフトボールが世界一になったことで、これまで金メダルとは縁がほとんどなかった大学の名前があがった。「侍ジャパン」のメンバーでは、伊藤大海さんは苫小牧駒澤大(現・北洋大)、源田壮亮さんは愛知学院大、菊池涼介さんは中京学院大、柳田悠岐さんは広島経済大、大野雄大さんは佛教大である。

 ソフトボールでは清原奈侑さんが園田学園女子大、森さやかさんは東京女子体育大を卒業している。

 空手の男子形で金メダリストとなった喜友名諒さんは強烈なインパクトを与えてくれた。喜友名さんは沖縄国際大出身。入学した動機について同大学の広報誌でこう話している。

「高校卒業後の進路を考えるにあたり、まずは佐久本先生の元で空手を続けたいという考えがあり、県外への進学は選択肢にありませんでした。高校の先生や先輩方にもいろいろと相談をして、本学の教職課程がとても素晴らしいという評判を聞いていました。私は将
来的には空手の指導者にもなりたいと考えていましたので、教職課程で学ぶことは自分の一つの武器になると思いました。また、英語が好きな科目であったこともあり、学科は英米言語文化学科を選択しました」(「OKIU magazine」114号2020年7月)



 銅メダリストの2人も忘れてはならない。

 京都大出身の山西利和さんは、陸上男子20km競歩で銅メダルを獲得した。京都大出身で夏季オリンピックに出場したのは、山西さんで9人目となる。16年リオデジャネイロ大会では女子ラグビーの竹内亜弥さんが、京都大出身者としては48年ぶりにオリンピック代表に選ばれている。

 京都大でメダリストとなれば、1936年ベルリン大会の田島直人さん、原田正夫さんまでさかのぼる。田島さんは陸上男子三段跳びで金、走り幅跳びで銅、原田さんは三段跳びで銀をとった。

 平成国際大出身の安藤美希子さんは重量挙げ女子59kg級で銅をとった。同大学は重量挙げ女子において、2000年シドニー大会に二柳かおりさん、16年リオデジャネイロ大会には安藤美希子さんを代表として送り出している。そして、今回、平成国際大に初のメダリストが誕生した。

 8月24日、安藤さんは出身の千葉県白井市の市役所を訪問し、こう挨拶した。

「白井市の皆さんの応援のおかげで、メダルを取ることができました。応援ありがとうございました。地元を歩いていることもあると思うので、見かけたら声をかけてください」(白井市ウェブサイト)

 安藤さんは埼玉栄高校出身。大学の先輩の二柳さんも同校に通っていた。重量挙げ女子では、埼玉栄高校→平成国際大というコースができている。

 世界一になった、世界一を争ったアスリートたちが高校、大学で同じ教室、キャンパスで学ぶ。先輩、後輩、同級生にとってはロイヤリティー(帰属意識)や愛校心が高まる。大学にとってメダリスト、オリンピック代表たちは貴重な人材だ。新学期、高校、大学の校舎には、卒業生○○さん、オリンピックメダル獲得、入賞という垂れ幕が掲げられるだろう。単に広告塔としてではなく、世界トップクラスのアスリートが高校生、大学生に自らの体験を語る機会を多く作ってほしい。後輩あるいは先輩や同級生も、この高校、大学に通ってよかったと思えるように。(教育ジャーナリスト・小林哲夫)