さまざまな経験や興味を持つ人が一緒に暮らす中でとことん議論したり、刺激しあったり。そんな「学びと創造の場」としての学寮に、いま新たな光が当たり始めている。AERA 2021年9月20日号から。

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「海外のトップ大学の多くが全寮制です。寮を学びの場として重視しているのです。私自身、ハーバード大学留学中、実に多くのことを寮から得て、その環境を日本に再現したいと10年来考えてきました。それがやっと実現しました」

 そう語るのは教育ベンチャー・HLAB代表の小林亮介さん(30)だ。今年4月、東京・下北沢に海外トップ大学の寮のエッセンスを再現したレジデンシャル・カレッジ「SHIMOKITA COLLEGE」を開校した。

「ハーバードの寮では、多様な文化や専門を持った人たちが寝食を共にするなかで学び合い、創造する文化が培われていました。フェイスブックは寮の仲間のやりとりから生まれ、映画『ラ・ラ・ランド』の監督と作曲家も寮のルームメイトでした。異なる興味やスキルセットを持った人たちが出会い、時間と空間を共にするなかからイノベーションは生まれるのです」(小林さん)

 シモキタカレッジには現在、選考を経た1期生の約60人が居住。大学生だけでなく、社会人や高校生も同居する。

 カレッジに足を一歩踏み入れると、カフェ風の食堂と吹き抜けのラウンジが広がる。カレッジ生は玄関から自分の部屋に行くのに必ずこの食堂を通る動線になっている。コミュニケーションや学び合いが生まれやすい仕掛けが随所に施されているのだ。生活面でも、居住エリアに応じて「ハウス」と呼ばれる10人ほどのグループに分けられ定期的に近況報告をし合う。全員がカレッジ運営に携わり、大学での専攻や興味に応じてレクチャーを立ち上げたりもする。

■人生の話も夜を徹して

 早稲田大学国際教養学部1年の川崎健士朗さん(19)=写真上=はカレッジ生活をこう語る。

「大学の友達とはどんなに話が盛り上がっても、時間が来たら別れないといけません。でも、ここでは人生の話とかについて、気が済むまで、夜を徹して話せる。しかも、違う大学や社会人の人とも話せるので視点が広がります。7月に大学のビジネスプランコンテストに参加したときも、カレッジ生やそのネットワークを通じて多くのフィードバックが得られ、優勝することができました」

 社会人の齋藤イングリッド小巻さん(24)はリモートワークが長期化するなか、人との関わりを求めて入居した。「女性の生理」をテーマにしたレクチャーを立ち上げたり、屋上菜園やコンポストを活用したエコ生活を楽しんだりしている。

 前出の小林さんは言う。

「大事なのは、多様性のある場を提供するだけでなく、個々人が多様性の中から学び、それを力に変える能力を育むことです。そこにレジデンシャル・カレッジの肝があり、そうした能力はこれからの日本でますます重要になるのではないでしょうか」

 コロナをきっかけに、大学への入構は制限され、授業はオンラインが主流になり、学生や教員が対面で交流する機会が激減した。こうしたなか再認識されたのは「講義」のコンテンツだけでなく、「コミュニティー」を通じた学びの大切さだ。「寮」は古くからあるコミュニティーの形だが、その教育効果に新たな光が当たり始めている。

■メンター役として同居

 今年4月、東京都西東京市に1年次を全寮制とする、新しい学部が生まれた。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部だ。学部長はZアカデミア学長で、『1分で話せ』などのベストセラーのある、伊藤羊一さん(54)。自身もメンター役として、寮で暮らしている。

 アントレプレナーシップ学部は、現役の実務家の教員による実践中心の授業が特徴だ。主体的に自分の人生を歩み、社会に貢献する人材を育むことを目的にしている。しかし、主体的に生きるといっても、自分が何をしたいのか、どう踏み出したらいいのかわからないケースは多い。学生に限らずビジネスパーソンも同様だ。伊藤さんは言う。

「こうしたとき重要になるのは『内省と対話』です。対話の場として、学生にとって寮は大事だと考えました。また、寮生活では互いに勝手がわからず、時にはいさかいなども起きる。『自分はどうあるべきか』を考えざるをえなくなり、それが成長の起点となりバネになる」

 新潟県出身の佐藤菜緒子さん(18)は中学生のころから地方創生に興味があり、地域のプロジェクトにも携わってきた。安定した看護の道との間で悩んだが、好きなことを仕事にしたいと、国公立大の合格を蹴って同学部に入学した。

「寮ではいろいろなタイプの人と生活を共にします。どうしたら相手の意見を汲みつつ、自分の思いを伝えられるか、考えることが多く、勉強になります」

■圧縮された人間関係

 阿部拳太さん(19)は、高校のときから起業を夢見てきた。だが、寮には自分より先を行く人たちがいて刺激になっている。

 学生にとって、伊藤さんや実務家の教員たちとのなにげない会話も貴重だ。「リアルな社会」を知る、そのライブ感に「大学に入って初めて勉強を面白いと思うようになった」という学生もいた。伊藤さんは言う。

「コロナ下の寮生活では感染防止対策も大変で、制約も多いですが、学生たちは圧縮された人間関係の中で大きく成長しています」

 人は人の中でこそ育つ。コロナ後の大学教育では、学びのコミュニティーを「いかに設計するか」がより重要になってくるのではないだろうか。コロナ下で歩み始めた二つの寮がそう示唆する。(編集部・石田かおる)

※AERA 2021年9月20日号より抜粋