高校事務でのパートの仕事がとても辛く、仕事を辞めたいと嘆く52歳女性。専業主婦に戻りたいが夫に「ワガママだ」と反対されている相談者に、鴻上尚史が一つずつ紐解く「家事」と「子育て」と「生きがい」とは。

【相談120】専業主婦に戻りたいというのはそんなにワガママな事なのでしょうか?(52歳 女性 ゆみゆう)

 いつも楽しく拝見しております。実はパート事務員をしているのですが、仕事がとても嫌です。結婚前はOLをして、仕事がとても楽しくて、今もその時の同僚と会ったりするほど、いい思い出でした。でも子育ても一段落し、友人に紹介してもらった高校事務でのパートの仕事がとても辛いです。条件がとてもよく、人間関係もそこそこです。ずっと専業主婦で23年ぶりに復帰、パソコン入力、電話対応、その他事務処理を再びしていますが、以前とは違う気持ちで、一切爽快感がありません。

 でもお金を貰っているので、失敗出来ない、必死でしないとと思ったら、2年前に胃潰瘍になりました。それでも失敗するので、自己嫌悪に陥って寝られない時もあります。友達の紹介の手前と、子供の教育費等辞めたくても辞められず今に至っています。主人に訴えても、根性がない、辞めるなら俺も辞めたい、その代わり趣味の茶道もやめてしまえと、毎日のように言われて苦痛です。専業主婦に戻りたいというのはそんなにワガママな事なのでしょうか?

【鴻上さんの答え】
 ゆみゆうさん。胃潰瘍になってしまいましたか。大変ですね。

 相談の文章からも、ゆみゆうさんが混乱している雰囲気が感じられます。

 問題を整理しますね。

 まず、「専業主婦に戻りたいというのはそんなにワガママ」かどうかですね。

「ワガママ」というのは、「自分のことしか考えてない」ということですよね。「専業主婦」に戻ることは、ゆみゆうさんとしては、「自分のことしか考えてない」ことになりますか?

 僕にはそうは思えないですね。専業主婦に戻ったとしたら、ゆみゆうさんは夫と子供のために家事一般をするわけですね。これは、立派な労働ですね。

 一時期、「家事労働を賃金に換算したらいくらになるか」という議論がさかんに行われました。考え方はいくつかあって、「家事をしている間に仕事に出ていたらどれぐらいの収入になるか」とか「家事代行サービスだと考えたら料金はいくらか」「それぞれの仕事を専門職に頼んだらいくらになるか」など、実証的なアプローチもされました。

 子供が幼いかどうか、何人いるのかどうかなど、家庭の事情で家事労働の賃金はかなり幅が出るのですが、それでも、月に20万円から30万円ぐらいの金額ではないかと判断する例が多く見られました(もちろん、もっと多い金額や少ない金額を言う人もいます。ネットでググれば、さまざまな考え方と出合うと思いますから、ゆみゆうさんが納得できる考え方を見つけられたらと思います)。

 どんな考え方、計算の仕方であれ、専業主婦は無償の労働ではなく、家事労働としてちゃんと考えられるものだということははっきりしています。

 ですから、「専業主婦に戻る」ことが「ワガママ」だというのは、夫と子供のためには一切の家事労働をしないという前提でない限り、当たらないと僕は考えます。

 で、次の問題ですね。

 専業主婦に戻ることがワガママでなくても、そうできない理由を、ゆみゆうさんは「友達の紹介の手前と、子供の教育費等」と書いていますね。

 二つならべて書いていますが、これはまったく別の話ですね。「友達の紹介」は、最終的に友達に頭を下げればすむ話だと僕は思います。それで「私の紹介した仕事を辞めるなんて、私の顔に泥を塗るのね! あなたとはもう絶交!」と怒る友達なら、そんな友人関係はやめた方がいいと思います。そんな友人より、胃潰瘍に苦しんだ身体を優先すべきです。

 が、「子供の教育費」は、別です。ゆみゆうさんが働かなければ、子供の教育費が足らなくなり、十分なチャンスを子供に与えられなくなるのなら、ゆみゆうさんも夫もつらいんじゃないですか?

 ゆみゆうさん。どうですか? ゆみゆうさんのパートで稼ぐお金がなくなったとしたら、子供の教育にどれぐらい影響しますか? 塾のお金とか参考書とか資格試験などの受験料、将来の学費など、ゆみゆうさんの稼ぐお金が必要ですか? それとも、たいした影響はありませんか? 現在、および未来にどれくらい影響があるか、夫と話しましたか?

「根性がない、辞めるなら俺も辞めたい」と、夫が怒るのは、「専業主婦は楽」というイメージに振り回されて、ただ感情的になっているだけですか? それとも、具体的に子供の教育に影響が出るのを分かっていて、「専業主婦に戻りたい」と言っているゆみゆうさんを許せないから怒っているのですか?

 もし、夫の給料だけで子供の教育費もなんとかなるのなら、専業主婦は賃金に換算できる正当な家事労働で、決してワガママなんかじゃないと、頑張って夫を説得するのがいいと思います。ネットに例がありますが、こまかく時間を出して(炊事に何分、掃除に何分、買い物に何分等)感情的ではなく、具体的に実証的に粘り強く夫に語るのです。

 けれど、冷静に話し合って、子供の充分な教育費のためには、どうしてもパートの給料が必要だという結論に達したとしたら、僕のアドバイスは以下のようなものです。

「今の仕事を続けながら、なるべく早く、別の仕事を見つける」です。

 条件は「今の職場よりはストレスがない仕事」「今の職場よりは楽しくできる仕事」です。

 給料の条件は下がるかもしれませんが、それも夫と話し合って、「最低限、教育費のためにどれぐらい稼げばいいか」が判断基準になると思います。

 このまま、嫌な職場で仕事を続けていたら、また身体を壊す可能性が高いと思います。そうなったら、どんなに今のパートの給料がよくても、結果的にはマイナスになってしまうでしょう。

 今、ゆみゆうさんは、とにかく仕事が嫌で、家庭に戻りたいという気持ちが強烈なので、冷静に考えられないのではないかと心配します。

 本当は、専業主婦に戻るにしろ、あらたな職場を探すにしろ、「これからの生きがいは何か?」ということを考えることが大切だと僕は思っています。

「子育ても一段落」した今、子供の教育費を稼ぐという当面の目標を実行しながら(またはそんなことをする必要がない場合でも)、ゆみゆうさんの次の人生の目標を考えるといいんじゃないかと感じます。

「子育て」という生きがいの次ですね。教育費のために働かなければいけない場合は、次の仕事が生きがいになったら、こんなに素敵なことはないと思います(小さなことでも人に頼られたり、自分じゃなきゃできないことがあったり、感謝されたりすると、それは生きがいになりますからね)。

 専業主婦に戻った場合は、「子育て」の次に、なんらかの生きがいを見つけるといいと思います。

 ゆみゆうさん。そんな考え方で、まずは夫と話してみませんか?

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