妻の年金について、どこまでご存じだろうか。厚生年金の加入者で年下の妻がいれば一定の条件で夫の年金が増額され、やがてはそれが妻の年金に振り替わる。妻自身の年金はいろいろな方法で増やせるし、夫が死亡した後はどうなるのかも重要だ。このさい徹底研究をしてみよう。

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 総額675万6300円──千葉県に住む会社員のAさん(56)が将来、主に妻がいるおかげでもらえる年金額の合計だ。

 どうして、こんなにもらえるのか。秘密を解くカギは夫婦の年齢差にある。

「ウチの女房は私より15歳下なんです」(Aさん)

 会社員や公務員が加入する厚生年金には、「加給年金」という家族手当ともいえる仕組みがある。一定の条件を満たす配偶者がいれば、年金にプラスアルファがつくのだ。

 配偶者は年下が絶対条件で、配偶者が65歳になるまで年金額が増額される。つまり、妻と年齢差が大きいほど増額期間が長くなる。

 また、高校を卒業するまでの子供がいれば、さらに加給年金が増額される。50代半ばならその年齢の子供はいないことが多いが、Aさんには今6歳になる娘がいる。

 Aさんが加給年金のことを知ったのは約10年前、自分にあてはめてみて金額の大きさに驚いたという。Aさんは今では具体的な加給年金額をそらんじている。

「私が65歳で年金をもらい始めると、女房分として15年間、毎年『39万500円』が、そのとき中3の娘の分は高校を卒業するまでの4年間に毎年『22万4700円』がそれぞれ加給年金として増額されます」(価格は今年度の基準)

 冒頭の金額は、「39万500円×15年+22万4700円×4年」の答えなのだ。

 もちろん年金をもらうようになっても、子供の教育費などにお金がかかる。Aさんがしみじみと言う。

「年をとって年金をもらう時期が近づくにつれて、『これがないと、やっていけない』と実感するようになりました。こんなに貴重な財源はほかにありません」

 夫婦の年金というと、どうしても夫の年金が中心になりがちだ。金額が大きいからだが、Aさんのように妻がらみで大きく年金額が変わることもある。実はその視点で「妻の年金」を眺めると、2人の老後のために知っておいたほうがいいことがいっぱいある。このさい、徹底研究をしてみよう。

 まずは、妻の年金の「形」である。

 現在の年金世代の妻たちは学校を出てから短期間働き、結婚して専業主婦になったケースが多い。たいていは夫が3〜4歳上で、結婚後(1986年以降)は国民年金の第3号被保険者として年金に加入してきた。こうした場合は老齢基礎年金が中心で、その上に若い間働いた成果として、軽く老齢厚生年金がのっかっている格好になる。

 年齢が4歳差、夫の年金が200万円(老齢基礎年金78万円+老齢厚生年金122万円)、妻の年金が80万円(老齢基礎年金74万円+老齢厚生年金6万円)の夫婦を想定し、2人の年金額の推移を見てみよう。

 Aさんが話していたとおり、夫が65歳で年金受給を始めると加給年金が出る。妻の分をもらうための条件は、(1)夫の厚生年金加入期間が20年以上あること、(2)妻と同居していること、(3)妻が働いている場合は年収が850万円未満であること、の主に三つ。年間約39万円で妻が65歳になるまで出るのは見たとおりなので、この場合は4年分約156万円になる。月3万円強だから大きい金額だ。

 妻が65歳になると、加給年金がなくなる代わりに、妻の基礎年金に「振替加算」という年金がつく。加給年金が切り替わる格好。こちらは生年月日によって受給額が異なり、今年度65歳になる妻なら「年約4万5千円」だ。加給年金に比べると金額は低い。元々は女性の低年金対策であったため、66年4月1日以前生まれの女性(今年度56歳以上)に限られ、年齢が若くなるほど年金額も低くなる。

 妻が年上だと加給年金は出ないが、振替加算はもらえる。夫が65歳になった時点から出るが、この場合は妻が受給の手続きをしなければならないので注意が必要だ。

◆老齢基礎年金を「満額」にしよう

 60歳代後半の夫婦の年金額は年によって数十万円単位で動く。家計に影響が出かねないので、それぞれの家計で「ねんきん定期便」の情報に加給年金・振替加算を加えて計算しておくのがよいだろう。いずれにせよ、「老齢基礎年金+軽い老齢厚生年金+振替加算」が、よくある妻の年金の最終形だ。

では、有利なもらい方や注意点を探っていこう。

 金額的には100万円に満たないことが多い妻の年金だが、やはりもらえる年金は多いほうがいい。これからでも増やせる方法はあるのか。

 まず考えたいのが、老齢基礎年金を「満額」にする対策だ。老齢基礎年金は、20歳から60歳まで40年間年金制度に加入した場合に約78万円の満額がもらえる。ところが、91年3月までは大学生が強制加入ではなかったためなどで、今の受給世代で40年を満たせている人は少ない。

 そんな人のために用意されているのが「任意加入」の制度だ。60歳から65歳までの間、国民年金に加入して保険料を納めるのである。今年度の保険料は月1万6610円で年約19万9千円。老齢基礎年金は1年の加入で約1万9500円増える(約78万円÷40)から、10年受給すれば元がとれる。

 加入期間が35年以上の人なら満額に届くが、社会保険労務士で女性の年金に詳しい井戸美枝さんは、これからは「繰り下げ」との選択になるのではとする。

「私自身も40年に2年足りないので検討しましたが、やりませんでした。保険料を払って増やすのもいいですが、『繰り下げ』ならお金を払わずに増やせます。私は後者を選びました」

 繰り下げについては後述するが、任意加入以上にお得感があるのは実は会社で働いて厚生年金に加入する方法だ。報酬に応じた年金が増えるだけでなく、60歳を超えて働けば国民年金の40年に足りない分を厚生年金で穴埋めできる。なんとダブルで増えるのだ。

 これまでは年間130万円以上の収入がないと厚生年金には加入できなかったが、今では従業員501人以上の企業で週20時間以上働けば、月8万8千万円のパートでも加入できる。企業規模のハードルは今後、来年10月からは「101人以上」、2024年10月からは「51人以上」に下がる予定で、今以上に厚生年金に加入できる働き先を見つけやすくなる。

 月10万円で10年働けば年6万5千円、20年なら13万円年金が増える。パートでも長く働けば年金を増やせることがわかるが、驚くのは、やはり先述した60歳を超えてからの穴埋めだ。

 詳しい説明は省くが、「経過的加算」という年金がもらえるようになるのだ。1カ月働けば約1630円年金を増やせる。1年だと約1万9500円で、ちょうど先に触れた老齢基礎年金の1年分に相当する。これが「40年」に足りない分、37年の人は3年間、38年の人は2年間まで認められるのだ(20歳前の厚生年金加入期間がない場合)。

 ただし、妻が厚生年金に加入すると、夫の扶養から外れ自ら税金や社会保険料を支払わなければならなくなる。

◆基礎繰り下げでお一人さま対策

 働く場合はもう一つ、加給年金との絡みでも注意しなければならない。実は妻が厚生年金に20年以上加入し、その年金をもらい始めると、加給年金は支給停止になってしまうのだ。先の井戸さんによると、相談者にこの事実を告げると、大半の人が仕事をやめたがるという。

「金額が大きい加給年金に魅力を感じるのでしょうが、そんなに短絡的に考えないで働く期間を管理すればいいのです。極端なことを言えば、『19年11カ月』までなら働いても加給年金に影響は出ません」

 なるほど、若いときに働いた分とパート分を足して20年を超えないようにすればいいのだ。なお働く場合は、早いうちから準備したほうがよさそうだ。できれば好きな職種や会社で働きたいもの。気に入る勤め先が、探しだしてすぐに見つかるとは限らない。

 妻の年金を増やすには、もう一つ方法がある。普通は65歳から支給が始まる年金を遅らせてもらう「繰り下げ」だ。1カ月遅らせるごとに0.7%年金額は増える。現在は70歳まで、来年4月からは75歳まで遅らせることができるようになる。

 井戸さんは、夫に先立たれて「おひとりさま」になったときに備えるためにも、妻は老齢基礎年金を繰り下げたほうがいいという。

「夫が80歳代前半で亡くなると10年近く、長寿ならそれ以上、おひとりさまの期間が続きます。これからは子供に頼る時代ではありません。自分の介護のことも考えると、お金は多いに越したことはない。そのためにも金額が大きい基礎年金の繰り下げを考えましょう」

 ある夫婦を例に考えてみよう。妻の老齢基礎年金は74万円だから、70歳まで5年繰り下げると42%(0.7%×12カ月×5年)増額で「約105万円」になる。

 おひとりさまになると、妻の年金はどうなるのか。妻は夫の遺族厚生年金をもらえるが、その金額は夫の厚生年金の4分の3、この場合は約90万円(122万円×75%)だ。妻の増額された老齢基礎年金を合わせると年金額は約195万円で月16万円強となる。夫婦2人のときの生活費を月25万円とすると7割弱だから、何とか一人で暮らしていける金額だ。

 妻が働いた場合は妻の老齢厚生年金がもっと増えるはずと思われる方がいるかもしれないが、実は夫が亡くなった後は増額分どころか妻の老齢厚生年金はすべてが「帳消し」になってしまう。現在の遺族厚生年金は、妻の老齢厚生年金を優先して支給し、夫の遺族厚生年金がその金額を超える場合に「差額分を支給する」ことになっているからだ。

「この説明をしたときも、やはり『働くのが嫌になった』と話す女性が多いです。自分が働いた分が意味がなくなってしまうと感じるのでしょう」(井戸さん)

◆5歳超の年齢差 思わぬ注意点も

 先の20年以上働いた場合の加給年金の取り扱いとあわせて、妻の多くは損得感情に非常に敏感なようだ。そんな妻に役立ちそうなのが、井戸さんのこんなアドバイスだ。

「余裕があればの話ですが、おひとりさまになってみじめな思いをしないためにも、2人のときの生活はできるだけ夫の年金でまかない、自分の年金は温存するようにしてください」

 そのほかの注意点も見ておこう。

 一つは、これからは夫が「長く働く」時代に入るが、夫が65歳を超えると会社で働いても2号被保険者にはなれないことだ。何が問題かと言うと、これだと妻は第3号被保険者になれず、その時点で妻が60歳未満なら第1号被保険者として国民年金の保険料を支払わなければならなくなるのだ。

 冒頭のAさんは、まさにこのケース。夫が65歳のとき、妻はまだ50歳だ。せっかく約39万円の加給年金をもらっても、国民年金保険料(今年度は月1万6610円)で、今年度なら約半分が出ていってしまう。5歳超の年齢差がある夫婦は、こうなる構図を知ったうえで、妻が働いて厚生年金に加入するなどの「防衛策」を考えたほうがいいだろう。

 もう一つ。妻が50代以上なら今年度の「ねんきん定期便」を必ずチェックしてほしい。老齢厚生年金の「見込額」が昨年度より増えている可能性があるからだ。

 かつて大企業を中心に数多く設立されていた厚生年金基金(以下、基金)。基金は国の厚生年金の保険料を代行して運用していたが、昨年度まで入っていなかった、その代行部分の年金額が今年度の定期便から含まれるようになったのだ(本誌21年5月21日号参照)。

 当時の収入状況や加入期間の長短で違うが、10万円以上増えているケースもある。もし昨年度より見込額が増えていて、これまで基金がらみで何の通知も来ていない場合は、「企業年金連合会」へ問い合わせて、自分の基金の記録を確かめよう。60歳以降に受給する場合も連合会へ申請することになるので、あわせて手続きを確認しておけばよい。(本誌・首藤由之)

※週刊朝日  2021年10月29日号