結婚式で「死が二人を分かつまで……」と誓いを立てるが、離婚しなければ、いずれはどちらかが先に亡くなることになる。もしも自分が配偶者に先立たれたとしたら、どうなるかを考えたことがあるだろうか?

 日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団が、20〜70代の既婚者の男女計694人に、自分で死の時期を決められるとしたら、配偶者より「先に死にたい」か、「後に死にたい」かを尋ねたところ、「先に死にたい」を選んだ男性は78.3%なのに対して、女性は約半数の49.9%だった。

 女性は50代までは男性同様に「自分が先に」が多かったが、60代以上で逆転。「自分が後に」が多くなり、70代では67%を占めている。

「50代以下が男女とも『先に死にたい』を選んでいるのは、配偶者が早く亡くなった後、自分が一人取り残される恐怖が強いから。でも、残された人生はその後も続いていきます」

 そう話すのは、シニア生活文化研究所代表理事の小谷みどりさん(52)。自身も10年前に夫(当時42)を突然死で失った。

「朝、起きている気配のない夫に近づくと、すでに死んでいました。私は第一生命経済研究所で、お葬式や死の迎え方など、死の前後にまつわるテーマで研究をしていました。でも、夫を亡くしてはじめて、配偶者と死別した人はその後、一人でどう生きていくかという問題をなおざりにしていたことに気づきました」(小谷さん)

 死別して3日後、50歳以上を対象とした立教セカンドステージ大学で、死に関する講義を担当することになった。そこで夫と死別したことを受講生に話したのがきっかけで、同じく配偶者を亡くした受講生同士で「没イチ会」を結成。現在は約25人が参加し、親交を深めている。

「この会は『死んだ配偶者の分も、2倍人生を楽しむ使命を帯びた人の会にしよう』というもの。雑談ばかりの飲み会で、身の上話をしたい人はすればいいし、したくなければ聞き役に回ってもいいんです」(同)

 同会の目的は、小谷さんの願いでもある。

「夫を亡くした時、『かわいそうに』と声をかけられました。夫は突然死で、私よりも死んだ本人がかわいそうなのに!と腹立たしく思ってしまったんです」(同)

 また、「死別して間がないのだから、楽しそうにしないほうがいい。後ろ指をさされるから」と言われたこともある。

「市川海老蔵さんが、妻の麻央さんが亡くなった直後にディズニーランドに行って、『不謹慎だ』とネットで炎上したことがありましたが、何が悪かったのでしょうか。配偶者を亡くしたら、一生喪に服さなきゃいけないような社会の圧力みたいなものはあります。残された人も生きていかなくてはならないのに、生きている人のことはないがしろにされがちだと感じました」(同)

◆配偶者頼りは苦労することに

 残された人は、配偶者の死という受け入れ難い事実を背負うだけでなく、日常生活でも困難に直面することが多い。家事を妻に任せきりだった男性は、妻亡き後、身の回りのことができずに困り、女性は経済的に不安定になることがある。

「特に男性は根拠なく『自分が先に死ぬ』と思っている人が多く、妻に先立たれて何もできないことがよくあります。男女ともに一人で生きていけるだけの生活力や経済力を身に付けておくことは本当に大事です」(同)

「没イチ会」メンバーの一人である岡庭正行さん(66)は、59歳の時に妻を突然死で失った。

「妻が亡くなる前日の夜、二人で東北旅行を計画して、『ホテル取れたよ』と話したのが最後。妻は朝、台所で倒れていました。私は単身赴任が多く、身の回りのことはできたのですが、家にいる時間が短くて妻に任せていた分、家の中のどこに何があるか全くわからず、お金の管理にも無頓着で、今は無駄な出費が多いかもしれません」(岡庭さん)

 妻を亡くした1カ月後に会社から中国赴任を打診され、悲しむ間もなかったという。

「赴任後は月に1回帰国していたのですが、飛行機の待ち時間などで少しずつ妻のことを思い返すようになりました。旅行が好きで、コンサートや美術館によく行きました。妻はいつも楽しそうにしていました」(同)

 1年間の中国赴任を終え、定年退職した岡庭さん。仕事が忙しかった分、地域ボランティアや神社の氏子など、やれることを何でもやっているという。大学で学びなおしたいという気持ちもあり、立教セカンドステージ大学に入学し、没イチ会に出合った。

「妻が亡くなった時のことは、経験したことがない人の前では言えないし、言う気もありませんでした。だから『没イチ会』は傷をなめ合うような会かもと思っていました。でも同じ境遇の人と話してみたかったので参加したら、みんな明るくて楽しかったんです。没イチのことも、それ以外のことも話しているうちに気持ちのひっかかりがとれてきた気がします」(同)

 地域活動や大学での学びは、妻を失う前からやろうと考えていたことだが、妻がいたら思う存分活動できなかったかも、と思う時があるという。

「妻が亡くなってできなくなったこともあれば、できるようになったこともある。プラス面に目を向けてみるのも大事ではないでしょうか」(同)

 妻に対する心残りはあるが、それよりも今できることをやりたいというのが岡庭さんの考えだ。

「妻とは生前、時間をつくっては旅行や美術館、コンサートに行くなど、仲良くいろんなことをやっていたから、今もいい思い出が頭の中に残っています。失って初めてわかることも多いので、いまパートナーがいる人は、今のうちにいろんなことを楽しんだほうがいいと思います」(同)

(ライター・吉川明子)

※週刊朝日  2021年11月26日号より抜粋